第66話 2日目の朝

 ホテルの外で会話を終えた俺たちは先生に気づかれないよう忍び足で自分たちの部屋へと戻った。


 多くのアニメでは先生が見回りをしていて部屋を抜け出していたことに気づかれてしまう事が多いが、俺たちの学校はその辺が緩いのか、先生の姿を目にすることもなかった。


 部屋に到着し、風磨と楓が眠っていることを確認する。2人はぐっすり眠っており、俺たちが部屋を出て行った事にも、今部屋に帰ってきた事にも全く気付いてない。


 普段通りの声の大きさで祐奈と会話をすると風磨と楓が目を覚ましてしまう可能性がある為、声を発することなく「おやすみ」と口を動かして布団に入った。


 俺が露天風呂で偶然祐奈のお尻を触ってしまった事に対して、祐奈が怒りもせず許してくれたことには感謝しかない。


 しかし、花宮と風磨の問題がまだ解決していない。風磨の女嫌いを克服させる為にも何か手を打たなければ。

 そうすれば自ずと、花宮とも真剣に向き合ってくれるかもしれない。


 良い方法は思い浮かばないが、一旦寝てまた明日に備えよう。




 ◆◆◆




 そして修学旅行2日目の朝、俺は張り付いた重いまぶたを開ける。

 いつも見ている天井とは違う天井に一度は驚いたが、直ぐに自分が修学旅行に来ているのだと思い出した。


 寝返りを打ち横を向くとまだ睡眠中の祐奈が横向きにこちらを向いて横向きにねていた。


 そ、そうか。夜間は太陽の光も差し込まないし電気を消してしまえば祐奈の寝顔を見ることは出来ない為、寝顔を見ようという考え自体思い浮かばなかった。


 夜中に風磨のいびきで起こされたが、それとは対照的に祐奈は申し訳なさげに寝息を立てる程度ですやすやと眠っている。


 ベッドは別々だが、距離はそれほど離れていない。祐奈の顔をじっくりと見るには申し分ない距離だった。


 花宮のように、振られて悲しんでいる奴もいれば祐奈の横顔を見て喜びを感じている俺がいる。


 ひとえに修学旅行と言えど、人それぞれ何が起こるか分からないな。


 俺以外の3人は俺が起きてからも眠り続けている。


 修学旅行などの行事があるときは中々眠りにつくことが出来ないし、逆に朝は起きるのが早いタイプだ。


 皆を起こさないようにスマホを弄っている。


 すると、楓がむくっと起き上がりそばに置いてあったメガネをはめてこちらを見る。


 寝癖がついて乱れた髪と、普段はコンタクトレンズを使っている楓のメガネ姿、もとい日菜のメガネ姿に思わず目を奪われる。


「……おはよぉ」


 メガネを軽く上げ、眠そうに目を擦る楓。


 大人気声優のである日菜の寝起きでまだ眠たそうな声に俺は声を潜め無音で悶絶する。


「とりあえずそこ座ろっか」


 祐奈と風磨が目を覚さないよう、部屋に置かれた机と椅子に移動して話す事にした。


「花宮さん、大丈夫かな」

「大丈夫だといいけどな」

「私が好きな人に振られたら立ち直れる気がしないよ」

「楓は日菜なんだから、誰とでも付き合えそうだけどな」


 好きな人に振られたら立ち直れないと親身になって考えられるという事は、楓には好きな人がいるのだろうか?


 そう考えると嫉妬のような、親心のような複雑な気持ちになった。


「風磨が女嫌いだったのは驚きだよね」

「本当にな。そんな理由で振られた花宮が不憫でならん」

「なんとかならないのかな……」

「俺がなんとかするよ」


 俺は昨夜、寝る直前にいい方法を思いついた。


 女の子嫌い克服作戦スタートだ。

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