第2章

第25話 突然に

 月曜日、俺は日菜の元気が無い姿を未だに引きずっていた。自分にはどうする事も出来ない事がもどかしい。


 とはいえ悩んでいても何も始まらないし、風磨と楓とアニメの話でもして気を紛らわそう。


「どうだった? 日菜のライブは」


 開口一番、風磨は俺が一番聞いて欲しくないことを聞いてきた。


「ああーライブな。そりゃ楽しかったよ。でもなんか日菜の元気が無さそうだったんだよな」

「なんだよそれ。そんなの分かるのか?」

「なんとなくだけどな。確証は無い」


 自分で言っていても痛い奴だと思う。仮に俺以外のオタクが俺と同じことを言っていたら何様だと反論したくなる。


 それでも俺は日菜の元気がない様子が気になっていた。


「風邪でもひいてたんじゃないか?」

「それだけならいいんだけどな……」

「今日は楓も病欠だぞ」

「そういえば姿が見えんな。楓は体が弱くてよく学校休んでるからな。また明日にはケロっとした顔で登校してくるんじゃないか」


 ……そうだな。日菜もきっと楓のように体が弱くて風邪をひきやすい体質だったりするのだろう。


 そうでも思わないと自分の中でこのモヤモヤした気持ちを消し去ることができなかった。


 日菜のライブのことを引きずっている俺とは相反して、楠木は今日も相変わらずクラスの陽キャグループの中心で会話を盛り上げている。


 気付けば俺は毎日のように自然と楠木を目で追うようになっていた。

 もはや楠木に恋でもしているのではないだろうかと思ったが、日菜の事でこれ程に悩んでいるうちは恋など出来ないだろう。


 そして今日も、何をしたと言われれば風磨とアニメの話をしたと答えるしかない1日を過ごし、放課後を迎えた。


 足取りは重いが、家に帰ろうと教室を出たところで担任の先生に呼び止められた。


「おい渋谷〜。これ古村の家に持って帰ってくれないか?」


 そう言われ渡されたのは学級通信等の書類。


「僕がですか? いつも楓が休んでる時に持って行っている隣のクラスの小川さんじゃなくて?」

「おう。今日は小川も休みでな。小川の分も持って帰ってくれ。郵便受けの中に入れてくれてるだけでいいから」


 まあそれならと先生から書類の入った封筒を受け取り帰路に着いた。


 楓の家の前に到着し、郵便受けに書類を入れようとしたところでその手が止まる。

 日菜のこともあり体調の悪い楓のことがやたらと心配でインターホンを押した。


 ……。


 インターホンに対する応答はない。楓の両親が海外出張等が多く家を留守にすることが多いのは知っている。


 きっと体調が悪く寝ているのだろう。睡眠で体調が回復する事を願おう。


 俺はそのまま楓の家の郵便受けに書類を投函し、自宅に帰ろうと来た道を引き返し曲がり角を曲がった。


 すると、曲がり角を俺とは反対方向に歩いてきた人物と衝突し転んでしまった。


「す、すいません。大丈夫ですか?」


 慌てて手を差し出し、衝突した相手を起こそうとする。


 しかし、衝突した相手の顔を見て俺の心臓は止まりそうになるとともに体が硬直した。


 そこには日菜がいたのだ。丸縁の大きなメガネをかけ、マスクこそしているものの俺にはその相手が日菜本人であるとすぐにみぬけた。


「……日菜?」


 思わず名前を口にした瞬間、日菜は立ち上がり一目散に走り去ろうとした。


「ちょ、ちょっと待って‼︎」


 俺は急いで日菜を追いかけた。日菜を追いかけながら、俺が今追いかけている女の子が本当に日菜なのかどうか、日菜がこんなところにいるはずないと疑いながらも俺は必死で日菜を追いかける。


「お願いだから止まってくれ‼︎」

「嫌です‼︎ ついてこないで‼︎」


 日菜にいてこないでと言われながらも必死で日菜を追いかける。


 ずっと心配していたなぜ元気がなかったのかを本人に聞ける二度とは訪れないであろうチャンスを無駄にしたくないんだ‼︎


「なんでこの前のライブ、元気がなかったんですか‼︎」


 俺がそう言い放った瞬間、日菜は急に立ち止まった。

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