第32話 兄弟
アルベルトと呼んだ美青年の登場に、レインは少し焦った様子だ。
「
この人が言っていたギルマスか。
なんか思っていたイメージと違うな。
レインよりももっとごつい感じかと思っていたけど、その逆で色白で金髪赤目、背は高く細身で、見た目俺と同じく強そうではない。
でも、どこかただならぬ雰囲気はかもしだしている。
「珍しく早い戻りだったから驚いただけだ」
「こんな時ぐらい、兄と呼んでくれてもかまわないんだよ」
「兄弟だと思ったことはない」
全然似ていないが。
レインも男前だが、見た目の年齢でいえばレインのほうが確実に上だ。
義兄?
これが尊敬していると言っていたギルマス?
少し険悪な感じだけど。
「そんなに僕に聞かれたくなかった話だったのかい?」
「大した話じゃない」
「おっと、
レインから俺に視線を向けてきた。
フルネームで聞いたのはこの人が初めてだな。
「リュウだ、よろしく」
強い握手を交わす。
よく握手のときに、すごい力を入れてくる人がいるが、笑顔でそれをやってくるタイプだ。
「僕はここじゃアルベルトで通っている。ギルマスでも
「じゃあアルベルトで」
「ちなみに彼の本名はレイン・マクレラン、知っていたかい?」
「いや初耳だな」
「ここでは必要ない、だから言っていなかっただけだ」
隠し事でもしてしまったときの言い訳をしているように聞こえるが、俺としては全く気にしていない。
この世界ではそういうもんだと思っている。
それを聞いたアルベルトは小さくうなずいている。
何か意味があったのだろうか。
「リュウ君、君のことは受付で聞いたよ。レインに可愛がられているらしいじゃないか」
アリスは早ければもう交代しているころかな?
約束は忘れてはいないが、この話が終わったら待ち合わせに遅れずに行かないとな。
「ええ、まあ、ありがたいことに」
「ふ~ん、珍しいこともあるもんだ。あのブラッドレインが他人に興味を持つなんてね。僕も興味があるなぁ」
「リュウは俺の専属担当だ。変なちょっかいは出さないでくれ」
「ちょっかいだなんて、それはリュウ君次第だろう? 困ったことがあればギルマスじきじきに協力してあげてもいいんだよ?」
返答を求められた。
レイン的には、いやなんだろうが、味方は多いに越したことはないからなぁ。
「よ~し、じゃあ僕もこれで秘密を共有する仲になったわけだ」
「そこらへんはレインに任せてあるので」
「君は昨日ここへ来たところなんだってね。もうそんなに信頼し合っているとは羨ましいねぇ」
「おかげ様で」
「それなら、ウェヌムダ王国から独立したテファズという公国があってね」
「
レインが会話を遮るように口を挟む。
「君には、僕らがそこからやってきたヴァンパイアだと言うことも知っておいて欲しいな」
「急に
「そうだったんだ」
「会って間もないタイミングでわざわざ言う必要も無いと思っていただけだ。機会があれば俺の口から伝えるつもりだった」
レインは知られたくなかったようだが、俺としてはむしろ喜ばしい、興奮するところだ。
「あれ、リアクションが薄いなぁ。普通驚くよ?」
「いや、少しは驚いている。いい意味で。ヴァンパイアとか最高じゃないか」
「だろ? 君には僕らに近い
能力か?
それともレインのように野生の勘みたいなものか。
「だとしたら、いい仲間になれそうだな」
レインもやはり薄々気付いているのか、特に俺の含みを持たせた発言には驚いていないようだ。
「そうだろう? ほら、僕のおかげでリュウとの
「なんでこのタイミングで戻ってきたんだ?」
レインは少し無視したように応える。
「ただふと帰りたくなっただけで、偶然さ」
やはり勘が鋭いのか
「他の人は知っているのか?」
秘密にしておくべきなのか聞いてみた。
「秘密ってわけじゃないが、いちいち公言もしていない。でも、僕なんかとくに見た目が変わらないから、古くから知っている人であれば、おかしいことに気付くだろうね」
「ところでレインの実の兄なのか?」
「ヴァンパイアとしてはそうなるね。レインは純血種じゃないから、少しずつ老けるし、力もそこまで強くないんだけどね」
たしかにギルマスはもっと強いと言っていたが、そういう意味だったのだろうか。
「おや?
やはり鋭いな。
というかこっそりうまく時間を確認したつもりだったが、気付かれていたのか。
それは失礼なことをした。
「失礼、人と会う約束を」
「それは急いでいるときに悪かったね。興味があれば僕がまた話してあげるよ。この子はあんまり自分から話したがらないと思うから」
「ありがとう、じゃあまた」
「あ、僕はまたこれから旅に出かけるから、次はいつ会えるかわからないけど、よろしく」
「こちらこそよろしく。レインもまた」
「おう、またな」
少しだけ疲れた様子のレインと、爽やかな笑顔のアルベルトを背に、念のため徒歩でその場を後にした。
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