第30話 ジグの昔話

 山賊のジグがウィリアムとの関係を語った。


「ウィリアムさ、……ウィリアムとは昔、冒険者として一緒に依頼を受ける仲で、その他にも三人の仲間がいた。

 厳密に言えばウィリアムには、俺達のグループの四人以外にも、低ランク者達のいろんなグループの面倒をみているような存在だった。

 俺達のようなまともに職に就くも付かず、かといって腕に覚えがあるわけでもないような、落ちこぼれたやつらを鍛えて立派な冒険者に育ててくれた恩人だ。

 他のグループの交流はとくに無かったが、あまり気にはしていなかった。


 ある時、それとは全く関係ない他の冒険者ともめて決闘することになった。

 元から関係がよくなかった連中だった。


 その当時は、ウィリアムがDランクで俺とその相手はEランクだ。

 ウィリアムが見届け人として決闘が行われ、俺が勝利した。

 お互い相当頭にきていたので全財産をかけることになっていたのだが、それが思わぬ収入になったんだ。

 そこからよからぬ考えが芽生え始めた。


 相手も同じ低ランクだったので、高額ではなかったが装備品や道具も全て含めると、依頼をこなすより一瞬で楽に稼げることに気付いてしまった。

 もちろん、やり過ぎはギルドに目を付けられるので、決闘は程々にしたが。


 そこで、依頼の中で事故に見せかけて、強奪するという作戦も考えた。

 ただし、IDカードにより位置情報が発信されているので、ちょっとした工夫が必要となる。

 相手も俺達に仕組まれていたことなど思ってもみなかっただろう。

 最初から案外うまく成功して、俺達は調子に乗り始めたのかもしれない。

 言っておくが殺しはしていないぞ。


 ある日、その事故を装った作戦にミスがあり、俺は冒険者の資格を永久に剥奪はくだつされ、ギルドから除名処分を受けた。

 レイン、あんたなら俺の過去の履歴ぐらい簡単に調べられるだろう。


 ただ、これは俺達が勝手にやったことで、ウィリアムは関わっていない。


 今は、俺達のことを気にかけてくれて、手に入った魔物の素材やその他もろもろをウィリアムに渡すことで、彼が換金して現金で手渡してくれるんだ。

 後は食料や生活物資も調達してもらっている。


 街のいたるところでギルドから配布されて備え付けられているセンサーによって、冒険者の資格剥奪はくだつ者が特定されていて、もうまともに街では暮らしていける状況じゃないんだ。


 国外へ行っても顔が割れていないだけで、結局同じことなので、街の近くでひっそりとウィリアムに協力を得ながら生きているのさ」


 ポーション水薬を一つ与えられたとは言え、十分に傷は治まっていない中、よく話し切ったものだ。

 ちゃんとした道を歩んでいれば、いい男になっていただろうに。


「なるほど、お前の言いたいことはわかった。真実は俺達が調査する」


 話を終えたジグに、レインが応じる。


「俺はこれからどうなるんだ?」

「しばらくは拘束して、過去の罪について洗いざらい吐いてもらうつもりだ。楽しみにしておけ」


「その後は処刑か?」

「さあな」


「当然の報いだ。いつかはこうなると思っていた。俺があの三人の分まで罪を償おう」

「仲間のことか」


「ああ、そうだ……そうだ! どうやったかは知らないが、お前達のせいであの三人は死んだ。あいつらに謝ってほしい。せめてそれぐらいはできるだろう?」

「お前達って言われても、俺は関わってないから詳しく知らんのだが」


 そう言って、レインは俺を見てきた。

 たしかに、俺のやったことではあるが、適当に処理しといてくれればいいのに。


「これに見覚えは?」


 山で四人組に襲撃されたときのローブをまとってジグに見せた。


「ん? その姿は、……あのときの?」

「死ぬかと思って怖かったよ」


「冗談だろ。弱そうだったので襲撃をかけたが、俺達は相手にされていなかった。だが、殺す気は無かった」

「あまりに混乱して四人を巻き込んで地下洞窟にワープしてしまった」


なんだそれ」

「そしたらその先に危険なやつがいて、俺は隠れ身の術で姿を消したんだ」


「さっきからなにを言っているんだ」

「でも勇気を振り絞って、できがよさそうな君だけは助けようと思ったのさ」


「まさかあれもお前が?」

「そう、命の恩人だ」


「半分以上意味がわからない話で、気持ちとしては複雑だが、助けてくれた事実に対しては礼を言おう。ただ、それならあの三人も救ってほしかった」


 ジグを闇に送った。


「とまあこんな感じなんだが、どう思った?」


 レインに尋ねる。


「ウィリアムのことか?」

「ああ」


 俺の最後のふざけた会話の感想を聞かれたと思ったのかもしれないが、それについては触れてこないようだ。


「ジグの言っていたことが本当かどうかはわからない。だが、ある程度はそうなんだろう。俺が知っている範囲の事実と矛盾するような内容はなかったように思える」

「ウィリアムはいいやつだと思うか?」


「ウィリアムについては、俺もなんとなく裏がありそうな気がしていた。まずは、山賊となったやつらに援助をしていることは、人道的には褒められることかもしれないが、立派な共犯者とも言える。調査を進めて、取り調べる必要はある」

「過去に四人が冒険者時代にやっていた悪行に、ウィリアムは本当に関わっていないと思うか?」


「ウィリアムが指示していたと言いたいのか?」

「いや、ジグの話ぶりからはウソを付いているようには見えなかった」


なにが言いたいんだ?」

「ウィリアムがそうなるように仕向けて、見えない糸で操っていたんではないかと思ってな」


「やはりお前とは気が合うな。それは俺も思っていたところだ」

「それじゃあ、ジグをきちんと収容できる施設が決まれば、輸送するから教えてくれ。それまでは俺が預かる」


「わかっている。これはギルドの問題だから、ギルドで管理している監獄に収容するつもりだ」


「ところで、俺のIDカードも位置情報って記録されているのか?」

「ああ、それは昔の試験的に実施していたときの話で、国からやり過ぎだと指摘を受けたので今はやっていない」


 国が関係することもあるのか。

 国にとって不都合なことでもあったのだろうか。


「やりたい放題になるんじゃないのか?」

「まあ、そのときにうまくいった成功例だけを公表しているんだが、それが抑止力にはなっている。今やっていないというのは秘密な」


 たしかに、もし今も機能しているなら、エレの町の捜索の件だって、手掛かりにはなっていただろうが、そういった情報はなかった。


 聞く俺も悪いが、秘密は普通こんなに簡単に手に入らないはずだが。

 システムに余程信頼があるのだろう。


「それでも、なにかあったときに気付かれるのでは?」

「仕掛けはそれだけじゃない、まあいろいろ頑張ってるんだ」


「IDカードを失くすか忘れたふりをすれば、監視下から外れられるんじゃないのか?」

「なんだ? 悪さでもするつもりか? お前だけは絶対ダメだからな」


 さすがにこれ以上は企業秘密といったところか。


「全然別の話になるが、ポーション水薬ってあんな試験管みたいな形で売っているのか?」


 レインが使ったのもそのような形状だった。


「ああ、これは戦闘時に使いやすい形状だ。大瓶でもあるが、そっちは持ち運ぶには適していない。お前には関係ないだろうが」


 関係ない、の意味は持ち運びってことだな。

 まだ俺が不死身だということは知らないはずだ。

 なんとなく言ったところで、マジかっ、といい意味で驚いてくれそうだが。


「まあそうだな。青色が傷や体力の回復だろ? 黄色は魔力か?」


 結局なにをするつもりだったかわからないが、ジグがネクロマンサーとの戦いで最後に飲んだものだ。


マジックポーション魔法の水薬という魔力を回復するアイテムだ。黄色が低品質で緑色が高品質となる」

ポーション水薬にもグレードがあるのか?」


「青色が低品質で赤色が高品質となる」

「なるほど、さすがレイン、なんでも知っているな」


「いや、基本中の基本だろ。まだ持っていないのか?」

「攻撃を受けなければ必要ないだろう」


「ケチなのか狂ってるのか、いずれにしても普通じゃないなお前は」

「最高の誉め言葉だ」


「それじゃあ、勉強熱心な教え子に講義の続きをするとしよう」

「応接室に戻るか?」


「そうだな、んじゃよろしく」

「了解」


 レインハウスを後にして、転移にて応接室へ向かった。

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