第4章 『黒鉄探偵事務所のメンバー集結』 全20話。その2。
2 八月二十一日(金曜日)
『その食器とスプーンやホーク類を全て二十個ほど、それとコーヒー用のカッブとマグカップとソーサーも皆ついでに三十個程下さい。この際壊れたり、古くなった食器類は全部捨てて、足りない分は新しく新調したいのでどうかお安くお願いします』
時刻は昼の十二時丁度。
食器類だけではなく鍋やフライパンと言った有名ブランドの金物製器具なども安く売っている事から、黄木田店長が良くご贔屓にしている店となっている。しかもその店は黄木田店長が昔からよく知っている知り合いが経営している店でもあるので、たまに世間話や顔を見せに行く為の憩いの場にもなっていた。
そんな品物や商品、そして訪れるお客さんが入り乱れる店内の中で、黒のダークスーツに身を固めた黒鉄勘太郎は棚の上に置いてある湯飲み茶碗を手に持ちながら、隣にいる羊野に話し掛ける。
「我が黒鉄探偵事務所でもこの際来客用に使う湯飲み茶碗を新しく新調したいと思っているのだが、お前はどう思う?」
「はあ~っ、正直そんなのはどうでもいいですわ。新しく新調したいのならすればいいじゃないですか。買うか買わないかを決めるのは黒鉄探偵事務所の所長でもある黒鉄さんなんですから」
「物を買うにはそれなりの勇気が必要だろう。タダじゃないんだからさ。どうせならお前の意見も聞きたいんだよ」
「つまり踏ん切りがつかないと……買う勇気がないと言う事ですか。どうせ高々湯飲み茶碗を二~三個ほど買うだけじゃないですか。どんだけお金をケチるつもりなんですか。少しは今現在食器類を大量に新調し購入している黄木田店長を見習って下さいよ!」
そんな勘太郎の優柔不断さを否定する羊野瞑子は白一色の異様な服装をしている。両手にはアームカバー。腰には長いスカートに、足にはロングブーツを履いている。だが皆が思わず振り返る驚くべき点はそこではない。何故なら羊野はいつも白い羊を模した精巧に作られたマスクを常に被っているからだ。
日中、いつも被るその羊を模したマスクはなんとも不気味で、その姿は正に白い羊と呼ぶに相応しい、そんな奇っ怪な姿をしていた。
だがそんな羊野も今は地下街にいる事もあり流石にマスクを脱いでいる。その素顔は美しく、白くきめ細かい肌に妖艶な赤い瞳、そして腰まで伸びた白銀の長い髪が通りすがる人達の目を釘付けにする。そう彼女はメラニン色素の遺伝子情報に欠損を持つ先天的な遺伝子疾患を持っているのだ。つまりはアルビノである。なので日の光に弱い彼女は日中は常に羊のマスクを着けて行動しているのだ。
そんな羊野と勘太郎が湯飲み茶碗の事で話をしていると、綺麗に編み上げられた黒髪のお下げ髪を揺らしながら近づいてくる緑川章子が話に加わる。
緑川は掛けてある真ん丸眼鏡を指で上げながら和やかに勘太郎を見る。
「黒鉄先輩、黒鉄探偵事務所の財政の事は余り気にしないで下さい。湯飲み茶碗を二~三個ほど買える余裕くらいの財源は流石にありますから」
「そうか、ならこの湯飲み茶碗を購入するかな」
「なら私が代わりにその湯飲み茶碗をレジに持っていきましょうか。私達が黄木田店長の知り合いだと言えばもしかしたらもっと安く値切れるかも知れませんよ」
「そうか、ならお前に任せるぞ。俺達が黄木田店長の知り合いだと言う点を強く押してきてくれ」
「任せて下さい!」
そう言うと緑川は店内の通路を歩くと、レジの前で店のオーナーと話をしている黄木田店長の輪の中に入って行く。その姿はまるで世間話をする奥さん達の中に入って行く頼もしい主婦のようにも見えた。
「緑川の奴、全く話した事の無い人の輪の中に良く自分から入っていけるな。まあ、聞き込みをすると割り切れば仕事上いつもやっている事だから出来なくもないが。品物を値切るために敢えて自分からその会話の中に入って行くだなんて、俺には絶対に無理だ。あいつはその見た目からかなり内向的な奴だと思っていたのに……あんな値切りの交渉術も臆すること無く出来るとは、流石になんだか裏切られた気分だぜ」
「黒鉄さん、それは流石に緑川さんを舐めすぎですわよ。いくら臆病で、地味で、内気で、おっちょこちょいで、腐女子っぽくても見た目だけで判断してはいけませんわ」
「いや、何気にお前が一番失礼な事を言っているから」
そんな複雑な心境を抱く中、勘太郎は自然と人の輪の中に入って行く緑川章子を静かに見守る。
一方緑川の方は難なく黄木田店長と店のオーナーとの話の輪の中に入って行き、その話の内容を把握している真っ最中だった。黄木田源蔵が話をしている相手方の人物は二名ほどいた。一人は黄木田源蔵の古くからの友人にしてこの店のオーナーの
その見た目からして甕島直美の方は六十代前半くらいの品のいい白髪頭がよく似合う叔母さんと言った感じだ。その服装も彼女の雰囲気にあった落ち着いた服装をしている。そんな彼女だがどうやら甕島直美は足が不自由らしい。何故なら彼女は古めかしい車椅子に乗っているからだ。
そしてその車椅子を後ろから支える娘の甕島佳子の方は、母親と同じで落ち着いた雰囲気を持つ女性の様だが、その見た目と言動から察するにどうやら彼女は目が見えないらしい。何故なら彼女の瞳の奥はまるでハイライトが掛かっているかのように白く濁っているからだ。恐らくは先天性の白内障だと思われるがその事について深く聞く気はない。まだ初対面の彼女にその事を聞くのは流石の緑川も失礼だと思っているからだ。
そんな美しい彼女の見た目からして恐らく年齢は二十代後半と言った所だろうか。すらりとした背の高い、まるでモデルのような体型をした女性である。
緑川はそんな二人の親子にまるで親しい友人のように明るく話し掛ける。
「お二人は黄木田店長とはお知り合いなのですか」
「はい、昔からよくご贔屓にして貰っています」
「そうなんですか。あ、申し遅れました、私は黄木田喫茶店でバイトとして働いている緑川章子と言う者です」
「そうですか、黄木田喫茶店の従業員さんですか……私はこの金物店の亭主の甕島直美と言います。後ろにいるのは娘の佳子です」
その母親の言葉に後ろにいる佳子も和やかに頭を下げる。
「それでさっきから一体なんのお話をしていたのですか。なんだか深刻そうな顔をしているように見えましたが」
その屈託の無い緑川の言葉に黄木田店長・甕島婦人・甕島佳子の三人は少し言うのを躊躇っている様だったが、黄木田店長がさっきまで話していた話の内容を語る。
「一週間前に起きた、ある事件の事について話していたんですよ。なんでも十二名もの人達が謎の殺人鬼に無残にも惨殺されたとか。この千葉県にある山深い別荘地で起きた事件だったので不謹慎にもミステリー好きの私としてはとても興味がわきましてね。同じくミステリー好きの甕島直美婦人とその事件の事について話していたんですよ。テレビのニュースでも大々的にやっていましたからね」
「ええ、確かにそんな事件がありましたね。このご時世そんな恐ろしい事件が結構身近で起きているだなんてなんだか恐ろしいです。でもその事件には確か生存者が二名ほどいたと記憶していますが」
「ええ、その惨劇の別荘にたまたま、夫の会社の行事の手伝いに来ていた女性の人とその子供が確か助かったはずです」
「そうですか。何はともあれそれは良かったですね。その唯一の目撃者でもある親子まで死んでしまってたらその犯人像が分かりませんでしたからね。それで、その親子はその犯人の顔は見たんですか?」
「いや、一週間前に読んだ新聞にはそのような内容の記事は載ってはいなかったな。最近のテレビでもその犯人像についてはコメンテーターの憶測だけで警察はまだちゃんと説明や情報の公開はしてはいないみたいだし、ただ生存者の名前が書いてあるだけだからな」
「つまり犯人の事は敢えて警察側が伏せていると言う事でしょうか。何かの目撃証言やその証拠となる何かをその親子から得ているから情報規制をしているのかも知れませんね。なら捜査の進展も案外早いのかも知れませんよ。それで、その謎の殺人鬼に殺された人達は皆同じ会社の人達だと聞きましたが、何をしている会社なのですか」
「確か……『西条ケミカル化学会社』そんな名前だったかな」
「西条ケミカル化学会社……医療品でも作っている会社なのでしょうか」
「まあ、名前からしてそうなんじゃないかな。よくは知りませんが。そう言えばその事件が起きた一週間前の夜は緑川さんも友人の家に遊びに行っていましたよね。そしてその友人の家はその現場から結構近かったとか」
「まあ、近いと言っても同じ地域の町の中にその友達の家があるってだけで、実際その別荘地に行くには更に奥の山の中に入って行かないといけないってその友達が言っていましたよ」
「そうみたいですね。なんでもその新聞には、警察がパトカーでその別荘がある現場に到着するのに凡そ二十分は掛かると書いてありましたからね」
「地元の警察がその現場に到着するのに二十分って、どんだけ山奥なのよ。その別荘地は!」
緑川がそんなツッコミを入れていると、静かに様子を見ていた甕島直美が神妙な顔をしながら話だす。
「実は私は昔から警察関係者には太いパイプがありましてね、そこから聞いた話なのですが、今回のその惨殺事件で一つ可笑しな点が見つかったそうなんですよ。なんでもその十二名の死亡した被害者達の内の二人がどうやら可笑しな死に方をしたみたいなんですよ」
「可笑しな死に方ですか?」
「はい、その死に方とは、口から大量の水を……て言うか大量の汚染されたヘドロ水を吐いてそのまま死に至ったとか」
「口から大量の水をですか。胃に合わなくて飲んでいた物を口から吐いたのでしょうか?」
「その警察関係者の話を聞いている限れでは食べた物を吐いたとか、そう言った類いの話ではないみたいなのよ。なんでもその生き残った女性の証言によれば、まるで噴水のように口から水が大量に次々と流れ出ていたという話よ」
「水がですか。まさかその水が死亡した直接の原因なのですか」
「少なくともその二名は大量の汚染水を飲み込んで、致死量の有害毒物による中毒を起こしているわ。でもその前に大量の汚染水を飲み込んだ事で気道が塞がって窒息死しているみたいだから恐らくは溺死扱いになるのかしら。何せその死体を調べた結果、鼻や口からだけではなく、当然胃からもその汚染水が見つかっているみたいだからね。まさか別荘の中の奥地で溺れ死ぬ事になるだなんて、その死んだ被害者達も思ってはいなかったでしょうね」
「口から大量の汚染水を吐いて、溺死ですか。なんだか不可思議で不気味な事件ですね。水を吐いて死んだ被害者に何か意味があるのでしょうか。ただ殺す為ならその他の十人のようにただ撲殺して同じように殺せばいいだけの話じゃないですか。それなのにその二名だけわざわざ汚染水で窒息死させるだなんて……そんなの意味がないですよ」
「確かに意味の無い行為ね。でもその死体や犯行を見て何かを感じ取った人も中にはいたんじゃないかしら。私にはその様に感じたわ。一週間前の深夜に起きたあの行為は誰かへの警告、もしくは伝言だったのではないかと、私はそう結論づけます」
その甕島直美の推理に黄木田源蔵も賛成する。
「直美さんはそう結論づけましたか。実は私もそう思っていた所だったのですよ」
「まあ、黄木田さんもですか。フフフッ、博識の黄木田さんと意見が合うだなんて、これは光栄ですわね」
「何を言うんですか。幾多の推理小説を書くプロの小説家にそんな事を言われると、なんだかこそばゆいですよ」
そんな会話をしていると、その背後から誰かの声が飛ぶ。
「なるほど、その犯人は水を操り、人を溺死させる事が出来るのですか。なんだか面白そうな事件ですね。だからあなたは黄木田店長をこの金物店に呼んだと言う訳ですか」
その不可思議な殺人事件の話を少し離れた所で聞いていた、羊野瞑子である。
羊野は腰まで伸びる白い髪を揺らしながら近くまで来ると、その赤い瞳を甕島直美に近づけるが、甕島直美はそんな羊野を見つめ返しながら直ぐに笑顔を作り話し出す。
「そうですか。あなたが黄木田さんがたまに話していた黒鉄探偵事務所の探偵助手、羊野瞑子さんですね。またの名は白い羊でしたか。初めまして私は甕島直美です。どうぞ、お見知りおきを」
「黄木田店長のご友人の甕島直美さんですか。覚えて起きますわ」
「それで羊野さんは、なぜ私が黄木田さんをこの金物店に呼んだと思うのですか」
「先ほどの黄木田店長さんの話ではあなたはかなりのミステリー好きと言う話ではありませんか。しかもこの金物店だけではなく、副業として現役の小説家もやっている。まあ、どちらが本業で副業かは分かりませんが、あなたは直ぐにこの不可思議な惨殺事件に着目したはずです。でもその事であなたは何か特別な用事が出来てしまった。だからこそ急ぎ、黄木田店長とこの金物店で会う約束をしたのです。そうではありませんか。ただ世間話でこの事件の話題に触れるなら電話や個人的にどこかで黄木田店長と二人で会うなりすればいいだけの話だと思うのですが、何故か黄木田店長の頼みで私達までこの金物店に連れてこられている。それはつまり、黄木田店長も何か思う所があるからこそ、私達をわざとこの金物店に連れて来たのではありませんか。そうでなかったら私達みんなをここに連れてくる意味なんて初めからないですからね」
「そ、それは……」
痛い所を突かれ、黄木田店長が困り顔をしていると、隣にいた甕島直美が仕方が無いと言ったような顔で羊野瞑子を見る。
「いつから気付いていたのですか。私達はまだそのようなお話をあなか方に振ってはいませんのに」
「先ほどこのデパートの五階にある書店に行ってきたのですが、そこでテレビで見たことのある、ある人物とすれ違ったのですよ。その人物と先ほどのその惨殺事件の絡みの話から想像して、果たしてこの事がただの偶然による物なのだろうかと考えましてね。もしかしたら甕島直美さんは私達に何かを調べて貰いたくて私達、黒鉄探偵事務所の全てのメンバーをここに敢えて集結させたのではないかと思ったまでの事ですわ」
その話に今度は緑川が反応をする。
「私達に調べて貰いたい事って、一体何をですか?」
「それは今からそこにいる甕島直美さんと黄木田店長が説明してくれますわ。そうですよね」
「そう……あの人達がこのデパートにいる事をあなたは知っていたのね、なら話が早いわ。確かに私はある人をあなた達に紹介し会わせる為に、黄木田さんに頼んであなた方をこの金物店に連れて来て貰いました。全てはある人を守って貰う為に!」
「ある人を……ですか?」
「
娘の甕島佳子の言葉に促され、見慣れないその男は荷物置き場の倉庫の扉から現れる。
見た感じ、歳の頃は四十代くらいの中肉中背で、仕事着に着るような紺色のスーツを着ている。そんな彼は頻りに何かに怯えているようだったが、車椅子に座る甕島直美の前まで来ると羊野や黄木田店長に怪しむ視線を向けながら直ぐさま話し掛ける。
「甕島直美先生、あなたが鬼気迫る感じで強く言うから敢えてあなたの話に従ったが、この人達は一体何者なのですか? とても警察関係者の人達には見えないのですが。今現在の日本の警察の警備力ではあの異形の殺人鬼からは絶対に逃れられないと言うから甕島直美先生を信じたのに。その殺人鬼の天敵と言うべき探偵は一体何処にいるのですか?」
「ご安心を、彼らがその探偵ですから。警察も敢えて関わらない謎の犯人を追跡し、そしてその謎を追う唯一の探偵、その名も白い羊と黒鉄の探偵。その探偵達が所属する探偵事務所の方々ですわ」
「方々って……彼らがこの俺を守ってくれると言うのか。これなら警察の方に守って貰った方がいいような気がするんだが?」
そう言いながら関根孝は黒鉄探偵事務所の面々を不安そうにマジマジと見るが、そんな彼に甕島直美はクスクスと笑いながらその綺麗に整えられた白髪交じりの髪を手で掻き上げる。
「ほほほほっ、何を言うかと思えばそんな事ですか。いいですか関根孝さん、警察が貴方を保護してくれるのは一時だけですよ。彼らはあなたを一時的には守ってくれますが、あなたがその謎の犯人に襲われる可能性が無いと向こうが判断したらあなたはもう誰からも守っては貰えなくなるでしょう。そこをあの殺人鬼が見逃すとは私には到底思えません。何故なら犯人にしてみたらあなたを殺す時期はいつでもいいのですから」
「だったら、俺が警察に保護されている間にその殺人鬼を捕まえてくれたらいいじゃないか!」
「もし警察に捕まえられたら、それが一番いいのですが、恐らく日本の警察にこの犯人を捕まえる事は出来ないでしょう」
「な、何故だよ。日本の警察は優秀じゃないのかよ」
「確かに捜査能力は優秀だとは思いますが、それは誰にも邪魔されずに普通に捜査ができたらの話です。恐らくは様々な見えない何かの軋轢に阻まれて捜査が打ち切りになるか、有耶無耶になるかも知れませんよ」
「な、なんでそうなるんですか。警察は今回の惨殺事件を真面目に捜査をしてくれないのかよ!」
「それだけ……今回あなた方の命を狙う犯人とその殺人鬼の行動に、警察は無闇に関与ができないでいると言う事です。だからこそ今回のこの事件に関しては警察は役には立たないと言っているのですよ。それにしても関根さん、あなた方はその犯人に一体どんな恨みを買ったのですか。もしこの事件にあの裏の組織が本当に関わっていたら十中八九あなたとその関係者に命の保証はしかねますよ。このまま警察なんかに任せてたら、恐らくあなた方は何故自分達がその殺人鬼に殺されるのかも分からないまま理不尽にも惨殺されてしまうでしょうね」
「日本の警察が事件に介入できないってどう言う事だよ。俺達はちゃんと税金を払っているんだぞ。警察に守って貰える権利は当然あるはずだ!」
そう叫んだ関根孝の言葉に否定的な言葉が飛ぶ。仕方なくこの会話に参加する事にした黒鉄勘太郎である。
勘太郎はゆっくりと関根孝に歩み寄るとその理由を話す。
「恐らくは、この事件に無闇に関わったら、また罪の無い一般の人達が無差別に殺される事になると……あの闇の組織がまた警察上層部に警告文を送ったからじゃないですか」
「まあ、そう言う事ですわ。だからこそ私は、友人でもある関根孝さんをあなた方に会わせるべくここに連れて来たのですよ。それで、行き成りこの話に割り込んできたあなたは一体何処の誰なのですか」
「これは失礼しました、俺の名は黒鉄勘太郎と言います。そこにいる黄木田店長とは知り合いです」
「そう、あなたが黒鉄探偵事務所の所長さんですか。人呼んで黒鉄の探偵」
「その警察が無闇に介入できない事件があると言う事を知っていると言う事は、あなたもまさかあの闇の組織の事を知っているのですか。一般人は決して知る事の出来ないトップシークレットの最高機密の情報のはずなのに」
「ほほほほっ、いくら最高機密と言ってもやはり情報は都市伝説として漏れて仕舞いますし、今のご時世完全に秘密にする事は出来ませんわ。それに私、先ほど言いましたよね。警察の関係者の中に友人がいると」
「その友人があなたに情報を流しているのですか。もしその事を警察の誰かに聞かれたらその警察官は罪に問われて間違いなく懲戒免職物ですよ。なのでそんな事は無闇矢鱈に話さない方がいいと思いますよ。それにしてもあの組織の存在を一般の警察が知るわけが無いはずですから、少なくともあなたにその情報を流している人物は警察の上層部にいる人と言う事になりますよね」
「あら、これは少し失言を言い過ぎましたかしら、これからは気をつけないと」
しまったと言う顔をしながら甕島直美は態とらしくおどけて見せる。そんな甕島直美を見ながら黄木田店長が話を付け加える。
「この甕島直美さんは昔から円卓の星座の存在を知っている数少ない人物の一人なのですよ。昔亡くなった彼女の旦那さんが警察官僚の偉い人だったみたいで、昔からいろんな警察にはコネがあると聞いています。あなたのお父さんの黒鉄志郎とも昔は知り合いだったとも聞いていますよ」
「死んだ親父とも知り合いだったのですか。だから円卓の星座の事も知っていて、更には俺達にこの事件を依頼すると言う発想も浮かんだ訳だ。なるほど、道理で黄木田店長とも知り合いのはずだ」
「まあ、そう言う事ですわ。二代目・黒鉄の探偵・黒鉄勘太郎さん、あなたにこの関根孝さんを守り、ついでに円卓の星座の狂人の正体を突き止める依頼を頼みたいのですが、よろしいでしょうか」
「それを決めるには先ずその依頼人が何故その殺人鬼に襲われているのかをハッキリさせないといけませんし。それに本当にあの円卓の星座の狂人がこの事件に関わっているのか、その話もいろいろと聞かない事にはこの依頼を受ける訳にはいきませんからね」
「まあ、当然の答えですわね。では二日前に私に話してくれたその内容の話をもう一度ここにいる黒鉄探偵事務所の方々にも話して貰ってよろしいでしょうか」
「そ、それは……」
「あなたが警察の警備だけでは不安だと言うから私は貴方に協力して差し上げているのですよ。そうここにいる黒鉄探偵事務所の人達ならあなたの命を守る事は恐らくは可能です。なぜなら彼らはその道のエキスパートですから」
いや、どう考えてもエキスパートではないな。そんな事を思いながら勘太郎は黒鉄探偵事務所の事を大いに過大評価をする甕島直美にその視線を向ける。
そんな勘太郎の視線に気付いた甕島直美はこの事件の重要性をアピールするかのように更に話を盛り上げる。
「それにあなたも言っていたじゃないですか。今回の惨殺事件の事で、警察は何故かあなた方の警備を急遽取りやめたと。その殺人鬼があなた方に恨みを抱いていると言う歴とした証拠がないと警備はつけられないと警察にはそう言われたんですよね」
「そ、そうなんだよ。俺もあの殺人鬼に命を狙われているから守ってくれと警察には何度も言ったんだが、直接その殺人鬼に被害を受けないと警察は一切動けないと言って聞かないんだよ。だからストーカーの事件でも被害者は事前に被害届を出しているのに何故か殺されると言う事件が起こるんだよ!」
怒りながらも愚痴を言う関根孝に、勘太郎は一つの疑問を聞く。
「関根孝さん、つまりあなたは何故その殺人鬼にあなたやその関係者達が襲われているのか、その大体の理由を本当は分かっている。だけど警察はあなたがその殺人鬼に襲われるかも知れないと言う可能性を何故か認めず、充分な保護も期待は出来ない。それが分かっているからこそあなたは、警察上層部に太いパイプを持っている甕島直美さんに助けを求めた、つまりはそう言う事ですよね」
「まあ、そう言う事だな」
「ならあなたの知っている事の全てを洗いざらい話して貰いますよ。恐らく警察も西条ケミカル化学会社とその殺人鬼との繋がりを探ってはいる様ですが、流石の警察もその会社の全ての社員達を守る事は出来ませんからね。だから貴方にも自宅待機をお願いしたのでしょうね。まあ、あなたがその殺人鬼に確実に狙われる何かがあるのなら話は別ですがね」
「わ、わかったよ。全て話すよ、だから俺を……うちの会社の人達を助けてくれ。頼むよ」
「どうやらお話しする気になった様ですわね。なら、この金物店の奥に従業員達がよく使う休憩所がありますから、そこでお話を聞きましょう」
そう言うと甕島直美はその場にいる人達を自分達の休憩所に案内するが、関根孝は目の前にいる緑川章子を見つめながら何故かその体を震わせるのだった。
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