第1話 『大沢家の三男が拉致される』 全28話。その23。
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『あ~もしもし、柳三郎さんですか。もう準備は出来ましたか……すいません。早苗さんや杉一郎さんに続き、今度は次男の宗二郎さんまで突然あんな事になってしまって、さぞお心を痛めている事でしょうに。なのに僕のわがままでこんな
左手に持つ黒い
そんな三人がいる蛇神神社がある山の裏側の川沿い付近で勘太郎は一体何をしているのかと言うと。溜池の用水路を通って逃げたと言う大蛇が一体どこを通って再び地上に出たのかを調べる為、この実験を
そしてこの実験に付き合うと言ってくれた柳三郎と美弥子の二人が、これから勘太郎が流す円形八十センチの大きさの赤いボールをひたすらに待つ。
因みに池ノ木当麻は、俺達三人をこの蛇神神社に(会社の車で)運ぶ為だけに付いて来て貰った
そんな人々の思いが交差する中で、勘太郎と電話をしていた柳三郎が決意を込めた声で返事を返す。
「分かりました、探偵さん。俺も母さんや杉一郎兄さん、それに宗二郎兄さんまで殺した大蛇が本当にいるかどうかを知りたいので全面的に協力しますよ。それにこの大蛇の呪いは順番から言ったら次は俺か親父になるだろうから、その前に
その言葉と共に、今度は柳三郎から(スマホ)電話を借りた蛇野川美弥子が電話に出る。
「も……
「あ、多分十三時までには何とか終わると思いますよ。何せここの場所の情報を教えてくれたのは、この周辺の山々に一番詳しい(と思われる)猟師の岡村たけしさんですからね」
今名前が出た岡村たけしの情報を元に、勘太郎は目の前に広がるこの岩穴を丹念に調べる。岡村たけしの情報によれば、蛇神神社の溜池へと流れ出ている水は裏山にあるこの沢の岩穴を通って出ているらしいので、もし大蛇が本当にあの用水路を通ったのなら必ずこの岩穴から出るほかは無いと言うのが岡村たけしの言い分だ。
それにこの岩穴の
恐らく地元の警察も大蛇捜索の為にこの岩穴付近は調べてはいないと思うので、勘太郎はこのボール流しの実験が終わったらこの辺り一帯を隈無く調べて見るつもりでいる。
しかしあの大蛇が溜池にある用水路を通って何処かに逃げたと
今から一時間前。このボール流しの実験をやろうと宗二郎宅を後にした勘太郎は、あの殺人大蛇が溜池の用水路から一体何処を通って何処に抜けているのかを確かめる為、この辺りの山々に一番詳しいと思われる猟師の岡村たけしに電話をする。
実験に使う小道具を取りに行く為、一度民宿に戻ろうと道を歩いていた勘太郎だったが、その途中の道端でたまたま柳三郎と美弥子の二人と遭遇する。
挨拶程度のさり気ない会話の途中、勘太郎は今から行おうとしている
だが今日の柳三郎と美弥子は、最近亡くなった大沢早苗や大沢杉一郎の死だけで無く深夜に亡くなった大沢宗二郎の死をも受け入れなけねばならないので、この状況で二人に協力を
因みに柳三郎の頼みで蛇神神社に運転係として付き合う事になった池ノ木当麻は、会社の営業用の車を出してくれたので、その車に乗り込んだ勘太郎・柳三郎・美弥子・池ノ木の四人はそのまま蛇神神社に向かい、そして今に至ると言う訳なのだ。
現在時刻は十一時三十分。
蛇神神社に着いた四人は二手に別れ、それぞれの配置の場所へと向かう。
柳三郎・美弥子・池ノ木の三人は被害者達を絞め殺したとされる
一方山の裏側にある
「じゃ流しますよ」と言うかけ声と共に勘太郎は手に持ったボールを放すと、ボールは水の流れに乗りながら岩穴の闇の中へと消えて行く。
「ボールは流しました。ではそちらの溜池に流れ着くかどうかの確認をお願いします」
勘太郎のその言葉から待つこと五分後。蛇神神社の溜池で待機をしていた柳三郎から電話が来る。その響き渡る着信音に勘太郎の心臓は一瞬ドキッとしたが、息を呑みながら静かに携帯電話を取る。
「あ、もしもし、柳三郎さんですか。それでどうでしたか?」
「はい、探偵さんの言う用に、赤いボールが溜池の用水路の穴から出て来ました」
「そうですか。円形八十センチのボールが通れたのなら、胴の太さが約八十センチくらいはあるとされる大蛇も当然通れると言う事ですね。これでその大蛇がこの用水路の穴の中を通れると言う事が実証されました」
「じゃ~探偵さんは、本当に生きた大蛇が存在していると考えているのですか?」
「その大蛇が生きて用が作り物だろうがこの岩穴を通ったのなら必ず何らかの痕跡が……証拠が絶対にあると俺は考えています。それに警察はこの場所の事を気にもしなかったみたいなので、先ずは俺がこの辺りを丹念に調べて、何としてでも大蛇に
「そうですか。もうこの実験はこれで終わりですか。後一~二時間くらいは掛かると思っていたのですが以外と早かったですね。じゃ俺と美弥子と池ノ木はこのまま家に帰りますので、また何か合ったら呼んで下さい」
「ええ、ご協力本当にありがとう御座いました。では気をつけて帰って下さいね」
その言葉を最後に柳三郎からの電話がプツリと切れると、それを見届けた勘太郎は何食わぬ顔で携帯電話を耳へと押し当てる。
すると数十秒の呼び出し音の後に、その相手はプツリと電話に出る。
「あ、もしもし、羊野か。お前の読み通りに用水路の穴の事を岡村たけしに聞いたら、大蛇が通り抜けた……かも知れない岩穴の穴は直ぐに見つかったぞ。そしてボール流しの実験の結果、大蛇はこの岩穴を通って溜池ががある用水路から
勘太郎のその間の抜けた問いに、電話の向こう側から羊野が和やかな声で応える。
「勿論その岩穴周辺を徹底的に調べるんですよ。その現場はまだ誰も足を踏み入れていない手付かずの
そう言うと羊野は忙しそうに通話をブツリと切る。
「ま、待てよ羊野。まだ話は終わってないぞ。お~い、羊野、羊野さん、お願いだから返事をしてくれ……ちきしょうあいつめ、電話を切りやがった!」
電話を切った羊野に、その辺り一帯を丹念に調べろとごく当たり前の助言を貰った勘太郎は、その周辺を調べる為行動へと移る。
「仕方がない。先ずはこの岩穴周辺を調べるか。もしも羊野の言う用に大蛇がタダの作り物だったら絶対に何かしらの証拠が残っているはずだ。何せここら一帯は羊野の言う用にまだ警察にも荒らされていない未知の場所なのだからな。そしてこの俺が必ず物的証拠を見つけだし、その大蛇を操る犯人を絶対に見つけてやるぜ。それに……何か納得がいく証拠を
持参した長靴とゴム手袋に履き替えながら勘太郎は、岩穴の空いた入り口付近やその周りを丹念に調べ始める。
ゴツゴツとした岩穴の入り口は意外に広く。全体の大きさからして約百二十センチくらいはありそうな広さだ。闇が広がる地底の奥に勢いよく流れる水がまるで吸い込まれる用に消えて行くので、勘太郎はその大蛇が一体どうやってこの激流の中を通って来たのかを必死に考える。
しかし羊野の言う用にもし本当に偽物の大蛇がこの穴を通って来たとしたら、それは一体どのような方法を用いているのだろうか?
そう言えば前にテレビのニュースか何かで、東京工科大学機械学科で開発したと言う蛇の用な体を持つロボットを見た事がある。何でも自由にあらゆる
そんないろんな可能性を考えながら作業をしていると、岩穴の端の部分に何か黒い塊の用な物がこびりついているのを発見する。
「何だこれは……確かこれと同じ用な物を何処かで見たことがあるな。あれは何処でだったかな?あ、そうだ、あれは確か蛇神神社の溜池の用水路の辺りで羊野が見つけたんだ。あの時は事件にはなんの関係も無い単なるゴミだと思っていたんだが、ここでまた同じ用な物を見つけてしまっては全く関係が無いとは流石に言えなくなって来たな。見た感じ何かの塗料とウレタンの用だが、この証拠品は回収して鑑識の資格がある赤城先輩に調べて貰わないとな」
そう言うと勘太郎は、今度は獣道の用な道を山沿いに下りながら下へと降りる。
その木々を抜けた先には草薙村と三井町(隣町)とを繋ぐ古い農道が目に飛び込んで来たので、勘太郎はその
「こんな所に人が通れるくらいの道があるとは思わなかったぜ。この山沿いに連なる感じからして、恐らくは昔の人が使っていたと思われる農作業用の道と言った所か。しかしこれは……そうか……っ」
石と
「ううん~何かの動物の足跡が多いが……これはもしかして
何度呼び出しても電話に出ない羊野にやきもきしていると、折りたたみ式携帯電話のバイブレーション機能がブルブルと震え出す。
相手の電話番号すらよく見ずに素早く電話に出た勘太郎は、電話を掛けて来た相手に好かさず
「たく、もしもし羊野か。あれから俺が何度も呼び出しているんだから早く電話に出ろよな!」
だが想像の斜め上を行ったのか。電話を掛けて来たのは羊野では無く、柳三郎・池ノ木と共に大沢家に帰ったはずの蛇野川美弥子からだった。
「も、もしもし……黒鉄の探偵さんですか……た、大変なんです……助けて下さい!」
「ええ~と、もしもし……その声は美弥子さんですか。助けてくれとは一体どうしたんですか。それに今貴方がかけているその携帯電話は柳三郎さんの物ですよね。俺の携帯電話に柳三郎さんの電話番号が表示されていますから」
「はい、その柳三郎さんのスマホから電話をしてします」
「まさか……柳三郎さんの身に何かあったんですか?」
そう言いながら勘太郎は電話を掛けて来た蛇野川美弥子の声に注意を払う。なぜなら蛇野川美弥子の声が心なしか
そんな状況下の中でも美弥子は必死に話を続ける。
「や、柳三郎さんと池ノ木さんと一緒に家路へ帰る途中、木の影から現れたボロボロの
電話越しに伝わる緊迫した美弥子の言葉に勘太郎は全てを理解する。大沢柳三郎と池ノ木当麻はこの山で待ち伏せをしていた蛇使いに何処かへと連れさらわれたのだと。
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