第1話 『勘太郎、多いに悩む』 全28話。その4。
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もっと詳しく最初の段階から説明しろと言う羊野の無茶な要求に、大沢柳三郎は行方不明だった大沢早苗の死体を蛇神神社付近で発見した時の事や、そこで見た正体不明の謎の大蛇の事などを事細かく説明する。
そんな熱意ある柳三郎の熱弁に勘太郎も当初は(ええぇぇー、あの長い話をまた最初から聞かないと行けないの?)と内心思っている用だったが、相棒の羊野瞑子が言い出した事なので、こちらからその話を途中で中断する訳にも行かない。
内心この依頼を受ける気が全く無い勘太郎としては、早くこの話を切り上げてこの依頼を引き受けてくれそうな他の探偵事務所を何軒か紹介するつもりだったが、今も事件を詳しく説明する柳三郎とその話を笑顔で聞く羊野瞑子を交互に見ながらその何れ来る絶妙のタイミングを懸命に探る。
だがそんな大蛇事件の話がもしかしたら祟りの類いの物では無いかと言う所にまで及ぶと、勘太郎はすかさず柳三郎の話に割って入る。
こちらはまだ確認すらしていないのに、その情報を羊野の耳に入れるのは何となく
「柳三郎さん、その話はもういいでしょう。話はもう分かりました。後で羊野には俺が聞いた話をそのまま伝えますんで、今日の所は帰って貰ってよろしいでしょうか。結果は明日の朝にでも電話でお伝えしますので」
「何を言っているんですか黒鉄さん。ここからが面白く……じゃなくて、重要なお話になると言うのに」
もう既に大蛇の話に飽きている勘太郎と、好奇心という炎が徐々に強まって行く羊野に、柳三郎はここまでの話はタダのおさらいだと言いながら本来語ろうとしていた大蛇事件に纏わる別の話を語り出す。
「実はここ一、二年の間に村の住人から妙な噂が流れているんですよ。何でも草薙村周辺で大蛇の姿を見たとか……森の木々の間を蠢く音を聞いたとか色々とね。そんな不思議な体験をした村人達が最後に決まっていう言葉が『これはもしかしたら大蛇神様の祟りなのでは』と言う言葉なのですよ」
「大蛇神……確か草薙村で祀られているとされる蛇の神様ですよね」
羊野は更に興味を持ち出したのか興奮気味に耳を傾け。その意気込みを見ていた柳三郎は口元でニヤリと笑う。
その様子から
「大蛇神と言うのはこの草薙村に伝わる
最後の言葉の所で柳三郎の声が急にこわばったように感じたが、勘太郎は気にすること無く話を進め用とする。だがそんな勘太郎よりも先に話を聞いていた黄木田店長が話に割って入る。
「何やら呪いとか祟りとかが絡んでいて恐ろしげな話ですが、その神社の子孫はちゃんと生きていると言う事ですよね。なら良かったじゃないですか。それだけでもこの話には救いがありますから」
黄木田店長の人の無事を気遣う一言に当の柳三郎は話をするのを少し
「ええ、いるにはいるのですが……その話に出た二人いる
「一人は大沢家に住み着き、もう一人は里子ですか……つまりその二人は兄妹という事ですね」
「ええ、そうです。ですがその妹の方が寧ろ問題でした。彼女は人の死を予言したり蛇を操ったりと、いろいろと出来るみたいなんですよ。勿論蛇を使って人を呪い殺す事も出来るみたいです。俺は彼女の力は何かの手品かインチキの類いだと思っているのですが、昔から彼女の力を知っている母や兄貴達は、あれが本当の大蛇神の呪いだと信じて疑わないのですよ。だから未だに大沢家の人間は彼女を恐れている」
「その大沢家に住み込みをしている彼女の呪いが本物か偽物かは私には正直分かりかねますが、仮にその蛇の呪いとやらが本当に何らかのトリックを用いた物だったとしても、その彼女がまだ幼い時から人を騙せるような仕掛けを作れたなんて事は先ず有り得ないでしょう」
「そうですね。普通に考えたら先ずあり得ませんね。ですがその大蛇神の祟りは、十年前彼女が大沢家に足を踏み入れた時から既に始まっています。なら発想を変えて別の誰かが彼女のために呪いを仕掛けたとも考えられますが……ですがこの話は昨日今日の話ではないので、誰かがその妹の為に呪いを仕掛けたとは流石に考えづらいです」
その居候の女性が使うという蛇神の呪いの話に柳三郎と黄木田店長が討論を重ねていると、そろそろ話を決めてしまおうとばかりに羊野が勝手に依頼を決めようとする。
「柳三郎さんの言い分は分かりました。でも今ここでその彼女が白か黒かを問うことは現段階では出来ないので、その謎を兼ねての調査依頼という事でよろしいでしょうか」
「ええ、それでお願いします。俺は呪いや祟りなどと言う曖昧な物は先ず信じませんから、探偵さんには是非ともあの大蛇神の呪いを操る、蛇野川家の神子の血を引く彼女の調査も同時にして貰いたいと考えています」
ええ~ぇ、殺人大蛇のみならず、今度はその大蛇神の呪いを操るとされる蛇神子だとう!なに、何なのこの転回。蛇神の呪いの調査なんて全然聞いてないんですけど。と心の中で絶叫しながら勘太郎は震える手でコーヒーを啜る。
「なるほど、今回の大蛇事件。その潰れてしまった神社と今は亡き末裔に何か関係がある見たいですね。そしてその大蛇の祟りを今まさに受けているのが、草薙村・村長の家に関わる人達と言う事になる訳ですか。そこが不安なのでしょ。今の所その大蛇に殺されているその二名は、大沢家に深く関わりのある人達みたいですからね」
その羊野の言葉に柳三郎の体は大きく震える。
「やはり俺達家族に何かしらの因縁があるという事なのでしょうか」
「数十年前、蛇神神社に住むご家族が借金を苦に離散したのは、自分の母親が関わっているからと貴方は考えている。だからこそ貴方は、もしかしたら呪いのような物が本当に実在するかも知れないと心の何処かでは思っているのではありませんか」
「俺の母親も仕事上いろんなトラブルを抱えている人でしたが、持ち前の勝ち気な性格で何とかここまでやって来たんです。そんな母親が唯一恐れていた物、それが大蛇神の呪いでした。しかもその同じ家にその大蛇神に関わる末裔の一人がいるとなるとその恐怖は更に強まったと思います。何せその彼女に大沢家の人達が冷たく冷遇する度に何か一つ祟りが舞い降りるんですから、それは溜まった物じゃありませんよ」
「その彼女を
「ええ、まあ、そういうことです。そしてつい最近、そんな母親がついに誰かに殺害されてしまった。でもその殺した相手があの謎の大蛇による犯行だったとしたら、俺はこんな異常な殺しが出来る奴を一人しか知りません」
「柳三郎さん、貴方はその女性がその謎の大蛇を操って、当時従業員だった伊藤松助さんや大沢家の奥方大沢早苗さんを殺害したと、そう考えているのですね」
確認する用に言う羊野の言葉に、柳三郎は額に右手を当てながら
「い、いや、そうは言ってはいない。俺はただ大蛇の呪いなどという馬鹿げた疑いを何とか解きたいだけなんです。でも俺が見た大蛇は確実に存在しているし、もう俺自身訳が分からないんですよ。正直もう限界です。大蛇神の呪いなんていくら何でも話が飛躍してるし、正直馬鹿げている!」
「それでも……そんな神がかり的な奇跡を見せ付けられても、あの大蛇がもしかしたら人為的な物で動いているのでは無いかと心の何処かでは疑っているのでしょ」
「そ、それは……」
何やら不安めいた眼差しを向ける柳三郎に、羊野は冷静な態度で応える。
「大沢家に関わりのある人達とその殺人大蛇との因果関係をもっとちゃんと調べてみないとその関連性は分かりませんが、その大蛇が偽物かどうかは今この場で答えを出させて頂きますわ。そこで柳三郎さんに質問です。十一月十二日の朝方五時に用水路に消えて行くその大蛇を見たそうですが、その大蛇を見て柳三郎さんはどう思いましたか」
「どうって、それは当然気が動転するほどに驚きましたよ。何せこんなのは初めての経験でしたし」
「そうですよね、日本の東北地方の山々でその巨大な大蛇に遭遇する事は人生の中でも先ず無い事ですから、それは一目見たらトラウマにもなるかも知れませんね。ですがだからこそ今は冷静になってあの時のことを再び思い出して貰いたいのです。貴方の答えに何か大蛇に関するヒントが隠されているかも知れませんから」
明るく話す羊野の言葉に柳三郎は仕方なく従う。
「では今一度改めて思い出してみて下さい。今この場であの時の事を考えても、その大蛇は本物の生きた大蛇だったと思いますか? よ~く考えて見たら実は真っ赤な偽物で、ただの作り物だったかも知れないという可能性は無いですか。さっきのお話だと大沢早苗さんの遺体を見つけたのは朝方の五時と言う時間帯みたいですし、辺りはまだかなり暗かったんじゃないのですか」
羊野のその質問に柳三郎は顔を赤くしながら反論する。
「た、確かに山の中だったし、懐中電灯で周りを照らすくらいに辺りは暗かったけど、絶対に見間違いや作り物なんかじゃ無いですよ。だってその大蛇はニョロニョロと動いてましたから」
「つまりその場にいた皆さんは、その大蛇を直に近くで見た訳ではないのですね」
「ああ、目の前には結構大きな溜池があったからな。近くには行けなかったよ。その場から懐中電灯の光で確認しただけだ」
「ならその大蛇を本物だと言っているのはその場にいたあなた達だけで、その真相は本当かどうかはまだ分からないという事ですよね。その大蛇に触って見たり叩いて見たりしたらもっとハッキリとその正体が分かったのですが、誰もそうはしなかったのですか」
「い、生きている凶暴な大蛇に触れられる訳が無いだろう。そんな事をしたら俺まで襲われかねないでしょ!」
「お、おい羊野、柳三郎さんに余り無茶な事は言うなよ」
柳三郎の激しい興奮に、傍にいた勘太郎が好かさずフォローに入る。だがそんな勘太郎に羊野は大丈夫とサインを送りながら更に話を進める。
「なるほど、ではその大蛇が本物だったとして、柳三郎さんはその大蛇の全体像は見たのですか?」
「大蛇の全体か……いいやさっきも言ったように私達が見たのは胴体の部分と尾っぽの部分だけです。頭の部分とその上半身部分は既に土壁から出た土管の中に消えて見えませんでしたから。でもその胴体部分を見ただけでもそれがどれくらいの大きさなのかは少し考えれば大体の察しはつきますよね」
「そうですか。では次は大蛇が消えたという土管の大きさです。胴回りが八十センチ以上もある大蛇が通れるくらいの土管の穴ですから当然その土管も大きいのでしょうね」
「そうですね……多分見た感じじゃ土管の円形は約百二十センチくらいはあったはずです。その土管の用水路の穴からは少量ですが水がチョロチョロと真下の池に流れ落ちているのでまだ溜池としての機能は失われてはいないと思いますが、でも水はかなり濁っていたのでとても綺麗とは言えない状況でしたね」
「直径約百二十センチと言ったら一番大きなマンホールの穴と同じ大きさですか。その土管のパイプが一体何処に繋がっているのかは正直分かりませんが、その大蛇はその土管の穴を通って山のいずこかに姿を消した。ですが私には一つ腑に落ちないことがあります。貴方たちがその大蛇を発見するまで、その大蛇は一体そこで何をしていたのでしょうか。既に死体となって二日間は過ぎている大沢早苗さんの死体を呑み込もうとするでもなくタダその場に放置していたなんてあり得ないとは思いませんか。せっかく仕留めた獲物を呑み込もうともせず、ただ絞め殺しただけだなんて……まるであなた方がその場に来るのを待っていたみたいじゃないですか」
「待っていた……大蛇が……俺達が来るのを?」
大蛇が待っていたという言葉に柳三郎は震え出すが、そんな柳三郎に羊野は最後の質問をする。
「大沢早苗さんの死体は蛇神神社内の溜池周辺で見つかったそうですが、蛇神神社内の付近は暗くて懐中電灯だけでは大変だったのではありませんか」
「ああ、確かに大変でしたよ。だけど俺達には(大沢早苗)母親を探す手立てがちゃんとありましたから例え暗くても近づくだけで見つける事が出来たんですよ」
「それは一体どういうことですか?」
「こう言う事です」そう言うと柳三郎は突如胸ポケットから小さなペンライトを取り出す。柳三郎の話によればその代物はペンライトの中に何らかの機械を仕込んだペンライト型の発信器の用だった。そのペンライトを持って同じく発信器を内蔵している他のペンライトに近づくとペンライトのバイブレーション機能が作動すると言う仕組みだ。その機能でペンライトを持つ柳三郎が十メートル以内にいる大沢早苗に近づく事が出来たから見つけることが出来たのだと柳三郎は語る。
何故か新聞には記載されてはいなかったが、死亡した大沢早苗の衣服の中にもあのペンライトがあったらしいので柳三郎の言っていることはどうやら本当の事の用である。
「なんでそんな物を持っているのですか」と言う勘太郎の問いに柳三郎は「このペンライト型の発信器は親父の一案で皆が持ち歩く事が強制的に決まった代物です。何でも外で家族がバラバラになっても直ぐに居場所が分かるそうですが、今のご時世みんな携帯電話を持っているし、こんな機械は必要ないと言いたいのですが、せっかく俺達のことを心配して(あの機械音痴の親父が)わざわざ準備してくれたペンライトですから無闇にむげにも出来ず、皆が持っていると言う訳なんですよ。このペンライト型の発信器はもう一つの発信器に十メートル以内にまで近づかないとそのバイブレーション機能は作動しないみたいですし、正直言ってまるで使えないと言うのが俺達の意見です。でもそれでも既に死体となっていた母を見つける際にはそのきっかけになってくれたのですから、このペンライト型の発信器は全然役に立たなかった訳でもないという事です」と言いながら持っていたペンライトをそっと見せてくれたが、その一昔前のポケベルを思わせるペンライトは、見た感じ特に可笑しな点は何処にも無い用だった。
「なるほど、そのペンライトの存在は話を聞くまでは知らなかった情報だったので何だか新鮮でしたわ。教えてくれてありがとう御座います」
羊野と柳三郎が全ての話を終えようとした時、時刻は既に夜の二十二時三十分を過ぎようとしていた。
「もう俺が知っている事は全て話しました……これで今置かれている村の現状を分かって頂けたでしょうか」
羊野の質問もようやく終わり、柳三郎は疲れ気味に安堵の溜息をつく。
これにはその場にいた勘太郎も「いや~長々と本当にすいませんでした、柳三郎さん。家の相棒は聞きたいことは最後まで根掘り葉掘り聞かないと気が済まない面倒な性分でして」と言葉を言い
そんな勘太郎の心情などどこ吹く風の羊野は、コーヒーを一口飲むと再び柳三郎に目を合わせる。
「それでは最後の最後に再度貴方にお聞きします。その大蛇は最終的にはその土壁から生え出た土管の中に消えて行ったと言っていましたが、それで間違いはないですか」
もういい加減にしろと思いながらも、柳三郎は最後の質問に応える。
「ええ、間違いないです。その大蛇は長い巨体をくねらせながら、物凄い早さで土管の中へと消えて行きました。間違いないです」
「成るほど、体をくねらせながら物凄い速さで……ですか。よ~く分かりました。柳三郎さん、貴重なお話を有難う御座いました」
羊野はコーヒーカップに残っていたコーヒーを一気に飲み干すと静に席を立ち、三階にある自分の部屋へと向かおうとする。
「おい、もう帰るのかよ」
声をかけた勘太郎に、羊野は振り返りもせずに静に語りだす。
「黒鉄さん、この依頼……正式にお受けいたしましょう。どうやらこの事件は私達向けの依頼の用です」
羊野のその言葉に柳三郎は「さすがは黒鉄の探偵さんが一目置く程の探偵の助手さんだ。話が早くて助かりますよ。それじゃ俺は一足先に草薙村に戻って、依頼人の俺の父親にこの事を連絡して置きますので、貴方達は数日中に必ず草薙村に来て下さいね。向こうで貴方達が来るのを首を長~くして待っていますから。では失礼します!」と言いながら話を勝手に進める。
「あ、柳三郎さん。俺はまだ行くとは一言も言ってはいないのですが……ま、待って下さい!」
勘太郎の制止も聞かずに柳三郎は足早に黄木田喫茶店を後にする。どうやらこれ以上この場にとどまっていたら更に話が長引くと考えての行動だろう。そのまま駅に向かった柳三郎は大宮のホテルに宿泊し、早々に朝一番の新幹線で東北の秋田へと帰るつもりのようだ。
勘太郎はその帰る際に一瞬見た柳三郎の横顔を再度思い出す。その表情は少し笑みをこぼし、如何にもしてやったりと言うような顔をしていた。
くそ~あの疲れ果てた彼の表情は、まさか演技だったんじゃ無いだろうな?
そんな疑惑を胸に抱きながら、勘太郎は羊野の方へと顔を向け改めて聞き返す。
「俺達向けの依頼って、いったいどういう事だよ。大蛇を捕まえる事なんて探偵の仕事の専門外だぜ。俺達の手には負えないって」
無理だと泣き言を言う勘太郎に、羊野は自信に満ちた表情を向ける。
「大丈夫ですわ。私達が捕まえるのは大蛇では無く、それを操る犯人の方ですから」
「それはまさか、この一連の事件は本物の生きた大蛇の仕業ではなく……何らかの方法で大蛇の幻影・妄想・偽物を仕組んだ姿無き犯人がもしかしたら本当にいるかも知れないという事か。それがお前の考え出した結論か。今回の依頼内容を大沢柳三郎から聞き出して、その話の
勘太郎の真剣な眼差しに釣られて、黄木田店長と緑川もまた羊野に視線を向ける。そんなみんなの視線を後ろに感じながら羊野は神妙な面持ちで自分の考えを語る。
「え~と、さっきのお話に一つ気になる事があります」
「気になる事、何だよそれは」
「山の水が冷水となって流れる土管の中を物凄い速さで移動したと言っていましたが、密林にいる大蛇と呼ばれる物達は大体は待ち伏せが主で獲物を捕らえる時の瞬間的なスピードなら早いかも知れませんが移動速度は普通の蛇よりもかなり遅いとの話です。しかもさっきの話で一番可笑しいと思ったのは、この大蛇が現れた季節がもう冬が近い十一月だと言う点です。大蛇が移動し活動するにはそれなりに温度が必要なはずでしょ。何せ熱帯雨林に生息する爬虫類な訳ですから、外でその体を外気に晒してなんかいたら間違いなく死んでしまいますからね」
「しかし大蛇にだって例外はいるだろう。外国によっては寒い所に住む大蛇だってもしかしたらいるんじゃないのか。それに今回蛇神神社に現れたその大蛇は神の蛇とも呼ばれる大蛇神様だって話じゃないか。呪いや祟りだって持っているらしいし」
「いや、それは流石に生物学的に可笑しいでしょう。仮にそんな強い大蛇が本当にいたとしても東北特有の寒さのせいでその動きはかなり鈍くなっているはずです。大沢柳三郎さんの話ではその時の最高気温は十二・八度。最低気温が五・九度。だったそうです。相手は動くのに温度が必要な爬虫類なんですから哺乳類の用には動けないと思いますよ。では勘太郎さんに質問です。何故皆さんはそのいるはずも無い大蛇の存在を頑なに信じているのだと思いますか」
「え、それは柳三郎達がその大蛇を直に見たからだろう」
「ええ、そうですね。村人達が噂していた大蛇を直に見たのですから決定的な証拠になるでしょうね。でも普通に考えて見て下さい。彼らがその大蛇の存在を信じるのは正にその大蛇神伝説を心の片隅に抱いているからだとは思いませんか。だからこそ理解不能なその生き物を大蛇神のせいにしているとも考えられます。そんな心理状態を上手く利用した、錯覚と思い込みを生かしたトリックだと私は思いますわ」
「行き成りトリックって言われてもなぁ……じゃ一体どんなトリックだよ」
「それは正直まだ分かりませんが、もう一つ疑問と矛盾が増えましたわ。さっきの柳三郎さんの話だと、現れた大蛇の大きさは全長十数メートル、胴回りが円形にして約八十センチとか言っていましたがそうなるとおかしいのですよ」
「何がおかしいんだよ?」
「その巨体で被害者の体の全身を締め上げたのならともかく、首だけを狙って締め上げただなんて、果たして生きた蛇が器用にそんな事をするでしょうか」
「まあ、冷静に考えたら、約八十センチの大蛇の胴体で被害者の首を締め上げたら首だけではなく顔まで隠れてしまうはずだ。だがさっきの柳三郎さんの話には、顔や全身に巻き付かれた時に出来る死斑の話は何処にも無かった」
「まあ、実際に現場を見てはいないので話だけではなんとも言えませんし。獲物となる食料問題や冬を越す冬眠の問題やらといろいろと疑問は尽きませんが、これだけは言わせて貰います」
「な、何だよ?」
「その蛇神様とやらの大蛇が冬眠できるのならともかく、この日本の東北地方の寒い冬の外を活動できる…そんな大蛇は多分いません!」
「なるほど、だからこそお前は、その蛇神様の祟りを上手く利用し操る犯人が必ずいるとそう考えている訳だな」
「まあ、そう言う事ですわ。そんな
それが白い羊こと羊野瞑子が出した大蛇神に対する最終的な答えである。
「はあ~仕方がないな。余り気は進まないが行くとするか。その殺人大蛇の大蛇神がいるとされる草薙村へ」
黒鉄探偵事務所所長として下した勘太郎の最終決断に、羊野は口元をほころばせながら静にドアノブを回す。
その
「おい羊野、自分の部屋へ戻るんだったら先ずは喫茶店の中の掃除を全て終わらせてからにしろよ。お前はまだ勤務中なんだからさぁ!」
「はあ、はい……やっぱりそうなりますよね」
上司からの当然の
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