第2話 『不良達を付け狙う、絶望王子の影』   全25話。その5。


          高校近くの喫茶店。


「じゃ簡単にこの江東第一高等学校の校舎の事について説明しますね。この校舎の作りは昔ながらの建築を取り入れた木造建築で出来ています。勿論耐震性なども考えて重要なところは鉄筋コンクリートを使ってるらしいのですが、大体は杉の木をふんだんに使った材木で作られているそうです。五階建ての校舎の中には、一階のフロアは職員室・図書室・宿直室・生活指導室・校長室と言った各部屋が並び。更にその奥には運動系の部活の部屋が幾つも作られています。二階は一年生の教室のフロアと大きな体育館がありますし。三階は二年生の教室のフロアと工作室・機材室といった古い機械類がある部屋が幾つもあります。そして四階が三年生の教室……つまりは私達のいる教室と理科室・社会室・科学系の部室にそして用務員室の部屋があるフロアとなっていますし。更にその上の五階は音楽室・美術室と言った芸術系の教室が並び、それに並立するかのように文学系の部活の部屋が幾つも点在しています。そして最後に誰も入れない屋上を加えた建物校舎がこの高校の建屋の特長です」


 得意げに校舎の事を説明する佐野舞子を見ながら勘太郎は内心彼女をここまで連れて来てしまった事に正直後ろめたい物を感じたが、これも仕事の為だと割り切り再度彼女に確認を取る。


「こちらから頼んで置いてこんな事を言うのも何ですが、本当にいいんですか。もう休み時間が終わって三時間目の授業が始まって仕舞いましたけど」


「いいんですよ。校内のどこにいるかもよく分からない近藤正也君の所まで案内しろと言ったのは担任顧問の谷口先生ですし、その近藤正也君の所まで未だにたどり着けないのなら案内役として探偵さんに付き合うしかありませんよね。それに探偵さんも言ってたじゃないですか。その王子大輝君に関わりのある事件とその人達を詳しく教えてくれって」


「確かに言いましたが……」


「それに私、谷口先生嫌いですから」


 そう言うと佐野舞子はマグカップに入ったホットミルクティーを一口飲みながら自分の担任教師を何気に議する。どうやらその感じだと前々から担任教師には不満があったようだ。


 時刻は十一時0五分。


 もう既に三時間目の授業が始まっている中、勘太郎と羊野……それに(説明の為に付いて来た)佐野舞子の三人は寒さのせいもあり、校舎の近くにある喫茶店に入り互いに飲み物を注文する。勿論全て勘太郎の奢(おご)りでだ。

 そんな勘太郎の気遣いに応えるかのように、黒髪のサラサラセミロングヘアがよく似合う三年A組の学級委員長・佐野舞子は、勘太郎が興味を持った学生達の名を雄弁に語る。その中には勿論教員達の名も含まれていた。


「内田慎吾君、彼は去年の夏の中間テスト後に決まった新たな絶望王子です。いつもあの不良達から嫌がらせを受けたり、ぱしりに使われたりと色々と虐められている可哀想な生徒です」


「内田慎吾君、彼が今の絶望王子役だな。見た感じとても事件を引き起こしそうな人物には見えないが、彼についてはもっと詳しい捜査が必要かもしれないな」


「続いては小枝愛子さんです。彼女は内田君達とは仲のいいようですが、反面あの不良グループ達からはよくいちゃもんを付けられてからかわれている用です。彼女は見た目も小柄でしかも泣き虫ですからね。それが面白いのか時々言い寄られているのを見た事があります。そんな彼女を気に掛けて私も時々仲裁に入るのですが、からかうのを止める気はさらさら無い用です。本当に困った物です。後余談なのですが、彼女は一年前に階段から落ちて死んだ王子大輝君の件を、自分が誤って押してしまい死なせてしまったのでは無いかとかなり気にしているようです。あれは予期せぬ不幸な事故だったと私は思っているのですが……」


「小枝愛子さんか。確かに彼女があの階段落下事件を引き起こした絶望王子だと言うには流石に無理があるかな。体も小柄であの不良達を襲うには不向きだろうからな。でももしかしたら何かを知っているかも知れないから、一度会って直接話を聞いてみるのもいいかもしれないな。それにしてもその小枝愛子さんが王子大輝君を誤って階段から押したと言っていましたが、その現場を見た目撃者はいなかったのですか?」


「いましたよ、目撃者が六人ほど。天野良夫君・綾川エリカさん・大鬼力君・玄田光則君・金田海人君・そして近藤正也君を入れた、あの不良グループ達です」


「あの不良達か……でも本当に小枝愛子さんが王子大輝君を押したのですか」


「罪の意識の為か本人はそう言っているんですけど、何か意味合いが違うみたいなんですよ。王子君にぶつかってはいるみたいなんですが、話ではあの不良達の誰かに後ろから蹴られたから王子君にぶつかったと言っていました」


「後ろから蹴られた。それは本当ですか」


「本当かどうかは分かりません。何せ彼ら以外に目撃者は無く、お互いの意見が小枝さんとあの不良達の間で二転三転していますからね」


「そうですか。ではこの話は近い内にその関係者達に聞いて見るとしましょう。では佐野さん話を続けて下さい」


「はい、次は内田君のもう一人の友達の、佐藤彦也君です。彼はダーツ同好会の部長で、よく内田君とつるんで遊んでいる用です。家がお金持ちと言う事もあり、よく不良グループ達からはカツアゲにあっていると言う噂があるとか無いとか。だから不良グループ達をかなり毛嫌いしている用です。そして今上げた三人の中にあの王子大輝君を入れた四人がこのクラスでは仲の良い友達であり、互いに気を許し合う存在と言う事になります」


「なるほど、つまり内田慎吾君・佐藤彦也君・小枝愛子さんの三人は皆、あの一年前に階段から落ちて死んだ王子大輝君の事をよく知る友達と言う事ですね」


「はい、そう言う事です」


「なら次はあの教室にいた四人の不良グループ達の事に付いて教えてくれないかな」


 その興味本位に聞く勘太郎の質問に、ついに来たかと言うような顔をした佐野舞子は辺りを二~三度見渡しながら小声で彼らの話を語り始める。いくら責任感がある学級委員と言えど不良グループ達は流石に怖いようだ。


「窓側の一番奥に座っていたワンレンの眼鏡の男子学生、彼に名は『天野良夫あまのよしお』君。この高校に強い影響力を持つ実質上の不良グループのリーダーです」


「俺に消しゴムを投げたのは彼か。厄介な悪ガキだな」


「続いてあの厚化粧の女性の名は『綾川あやかわエリカ』さんで、その隣にいた日焼けした彼が『玄田光則げんだみつのり』君です。綾川さんは玄田君の彼女で二人は付き合っているそうですよ。」


 その情報は特にいらないな~と思いながら、勘太郎は自分にガンを飛ばしていたあの厳つい男について質問をする。


「ああ、彼の名は『大鬼力おおきりき』君。天野君の為に手足となり働く武闘派の特攻隊長です。何でも空手部の部長を務めているとか」


「空手部の部長か。道理でがたいがでかくて強い凄みを感じる訳だぜ。余り関わりたくはない人物だな。そしてその四人の中に『金田海人かねだかいと』君や『近藤正也こんどうまさや』君がいた訳だな」


「はい、本来はその二人を入れた六人で構成された不良グループなのですが、親友だった金田海人君があんな事になってしまってからは近藤君はあの四人とは距離を置くようになってしまいまして、こうやって時々授業も休む用になってしまったのです」


 親友だった金田海人君があんな事になってしまって、彼の心境にも何か変化があったのかもしれないな。これは是非とも会って話を聞かないとな。


 そんな事を勘太郎が思っていると、白い羊のマスクを口元まで上げ、無言でホットコーヒーを飲んでいた羊野が佐野舞子に話し掛ける。


「今名前の出た内田慎吾君や小枝愛子さん、それに佐藤彦也君やあなたはその不良グループ達に立ち向かったりはしなかったのですか」


 行き成り出た羊野の言葉に佐野は多少面食らったが、何も分かってはいないとばかりに羊野に言い返す。


「む、無理ですよ。生徒は疎か先生達だってあの不良達には…いいえ、あの天野良夫君には誰も手出しは出来ません。何でも彼のお父さんは参議院の政治家でお母さんは教育委員会の会長らしいですから、誰も逆らえないと言うのが実情です。今回の苛めだって日常茶飯事で、誰も彼等を咎めたりする人はいませんよ」


「なるほど、手の付けられない悪ガキ共が一番立場の弱い生徒を絶望王子と名付けて持て遊んでいるのですか。私が言うのも何ですが、卑劣で陰険で人の尊厳を無視した行いですね。そんな問題児達を抱えてたらこの高校の先生達も大変ですわね」


「で、でも、最近はちょっと違うんです」


「ん、何が違うと言うんだい?」


 そう言いながら勘太郎は佐野舞子の顔を見てみると、彼女の言いしれぬ動揺に気付く。

 肩を振るわせる佐野舞子の顔からはスッカリと血の気が引いていたからだ。


「半年前から話題になっている江東区の周辺だけに現れると言う噂の絶望王子なんですが、実はちょくちょくこの校内周辺にも現れているみたいなんですよ」


 その行き成り出た思いもよらなかった話に勘太郎は思わず前のめりになって佐野舞子を見下ろす。


「絶望王子がちょくちょくこの高校の校内周辺に現れるだって。それはあの内田慎吾君の事じゃないのですか」


「いいえ、多分違うと思います。被害に遭った人の話では、夕方の校舎で科学部の部員が部活帰りに階段を下っていたら行き成り立ちくらみがして、気付いた時には階段から足を踏み外して転がり落ちていたらしいです。そんな被害がこの半年の間に十件は出ているんですよ」


「十件ですか。でもそれと絶望王子とどういう繋がりが」


「勿論その学校の階段から落ちた直ぐ後に見たそうなんですよ。階段の最上段から下を見下ろして笑う絶望王子の姿を」


「絶望王子の姿ですか」


「その絶望王子は階段から落ちた人達の前に必ず現れるそうですから、彼が何かしらの呪いを掛けたから階段から落ちたのでは無いかと皆が噂していました。幸いな事に階段から落ちた生徒達は皆打ち身やかすり傷程度で大きな怪我はしてはいませんでしたが、その正体が未だに分からないので皆不気味がっています」


「その正体が内田慎吾君である可能性は無いのですか。彼はこの半年間同じ様な姿でこの校内中を歩き回る事を強要されているのですよね」


「ええ、勿論最初は内田君の悪ふざけかとも思い、被害に遭った生徒達や不良グループの人達が皆こぞって内田君を罵り問い詰めていましたが、彼のアリバイは佐藤彦也君と小枝愛子さんが共に一緒にいた事を証明してくれたので、内田君が被害者の学生を突き落とした絶望王子と言う説は一先ずは無くなりました。まあ、内田君が扮している絶望王子とは違い、夕方の階段付近に現れるというその絶望王子は何か言い知れぬ不気味な雰囲気を漂わせていたそうですから、あの誠実で気の弱い内田君には到底出来ない事だと私は思います」


「その事は警察には言ったのですか」


「ええ、勿論いましたが。各階の階段の段差が曲がりくねっていて短いので、例え階段から足を踏み外して転んでも今の所対した怪我にはなりません。なので警察も当初は何回か階段を調べに来ていたのですが、何も異常が無いと分かるともう来なくなってしまいました。ちゃんとした被害が無いと警察は基本的には動きませんからね。その高校にたまに現れる絶望王子の事も何かの見間違いだと言う事で途中からは相手にもされなくなって仕舞いましたからね」


「まあ、大きな怪我人や死人が出てはいないし、その学生達が転んだという階段に何の異常も無いと分かった以上警察がする事は何も無いからな。しかもそれがこの半年間の間に十回も続いたら流石に生徒達のたちの悪い悪戯かも知れないと思うかもしれないからな。半年前から江東区の周辺で起こっているあの階段落下事件になぞらえたただの愉快犯的な物かも知れないと思っているのかもしれないな」


「ええ、そう思われたかも知れませんね。ここには悪ふざけの好きな不良グループ達がいますからね。警察にそう疑われても別に可笑しくは無いです」


「でもその被害に遭った生徒達の証言が本当なら、その内田君とは違うもう一人の絶望王子が確実にいると言う事ですよね」


「まあ……そういう事になりますね」


 そう言うと佐野舞子はマグカップを両手で持ちながら静にうつむいてしまう。その表情にはどうしてもその存在を信じたくないという彼女の思いが強く見え隠れしているようだった。


 一生懸命話をしてくれている佐野舞子の説明を聞きながら、勘太郎は階段を降りる時に見た五階から一階まで繋がる四角く曲がりくねった各フロアの階段を思い起こす。


 さっき勘太郎が見た感じでは、何とも言えない木材特有の光沢を放つ木造の階段が並び、己が存在を堂々と見せつけている。その真新しい佇まいは古き良き時代をそのままモダンにしたかのようだ。

 その証拠に杉の木の板を使った階段には真新しくコーティングされた木材の段板が綺麗にずらりと並ぶ。


 途中で曲がりながら二階へと続く段数が全部で二十八段あるので、五階から一階まで続く階段の段数は百四十段。屋上入り口までの段数を入れると全部で百六十八段はあると言う事になる。

 見た感じはちょっと急な作りの階段ではあるが、横幅が広く窮屈には感じない。

 更には回りの木製の手摺りもしっかりしていて、勘太郎の胸の高さまであるので十分にその基準を満たしている。なので普通に見る限りは特に何も変わった所は見つからないと言うのが勘太郎の見解だ。

 だがその階段は生徒達が足を踏み外し転げ落ちるたびにその姿を現す絶望王子の呪いが染みついた階段だとは一体誰が思うだろうか。


 さらにこの校舎の階段には一年前に階段から落ちて死んだ王子大輝君の件があるので、その先入観のせいか何の変哲も無いはずの校内の階段もより一層不気味に見える。そんな疑惑付きの階段をこの高校の生徒達は言い知れぬ不安と恐怖に怯えながら今日も上り下りを繰り返しているのだ。


 ふと見てみると佐野舞子は不安そうに下を向いていたので勘太郎は別の話題を話そうとしたが、先に話し出したのは……店に入って来た客に変な目で見られている(白い羊のマスクを被った変人)羊野の方だった。


「先程の担任の話では三日後に何かやると言っていたように聞こえたのですが、一体何が行われるのですか?」


「ああ、三日後の一月十八日の金曜日にこの高校恒例の江東第一冬祭りと言う行事が行われるんですよ。冬の星の綺麗な夜に大きな燃え木を組み合わせて焚き火にし、キャンプファイアをするのがこの行事の……祭事の習わしです。その日は学生達だけじゃなく、この地域の人達みんなが集まってキャンプファイアを囲んで踊ったり歌ったりするんですよ。勿論その為の的屋や屋台なんかも出ます。お祭りの時刻は夜の十九時から~二十一時まで行われますので良かったら探偵さん達も来て下さいね。その冬祭りの為の出し物の準備を今みんなでしているんですよ。何せ後三日しかありませんからね。因みに私達三年A組は今校外のグランドになびかせる凄く大きな旗を作っている最中です。名付けて友情の旗とみんなは呼んでいます」


「なるほど、三日後ですか……それは私達のタイムリミットにも繋がりますわね。本当にこれは偶然なのでしょうか」


 そう言いながら羊野は羊のマスク越しに小さくほくそ笑むが、そんな羊野を見ていた勘太郎は周りの視線を気にしながら小声で言葉を発する。


「そんな事より羊野、周りの人達にいい加減通報されかねないから店の中にいる時くらいはその羊のマスクを脱げよ」


「嫌ですわ。まだ日が高いですし、強い日差しはお肌と目に悪いですからね、普段通りにこの格好で行きますわ」


「世の中には絶望王子役を無理矢理強要されている人もいると言うのに、お前は自分からその可笑しな格好を選ぶんだな。お前は好きで仮装しているからいいが、佐野さんが怖がっているだろう」


「そこは慣れて貰うしかありませんわね。私には私の事情と言う物がありますから。そんな事よりです。話は変わりますが、時に佐野さんは何か部活道はしていますか」


「は、はい、フェンシング部に入っています」


「そうですか。道理で引き締まった体つきをしていますね。なら運動神経も普通の人よりかは格段にいいと言う訳ですね」


「まあ、普通の帰宅部の人達よりかは健康的だと思いますよ」


「江東区に現れた黒い防空頭巾の学生通り魔……つまりは貴方たちが言う所の絶望王子は被害者の体に何かで刺した用な傷跡を数カ所残していたとの事ですが、その刺し傷はアイスピックの用な針だとも聞いています。ですがまだハッキリとその凶器の正体が分からないとするなら、細身のフェシングの剣もまた怪しいと言う事になるとは思いませんか。予め先を尖らせた細身の剣ならば素早く被害者の体を突く事も可能なのではと……ふと思った次第です。何せ目の見えない暗闇の中で、しかも階段から落ちた被害者の体を十秒以内に突き刺す事はタダの素人には先ず出来ないと思った物ですから」


「だから普段人を突く練習をしている私ならそれが可能だとそう思った訳ですか」


「おいおい羊野、いくら何でもそれは決めつけが余りに酷過ぎるだろう。この高校の生徒でフェンシング部に所属している部員は何も彼女一人じゃ無いだろう。それを宛も犯人の用に言うのはいくら何でも失礼じゃないのか。大体彼女がやったという証拠が無いじゃないか!」


 あたふたしながら弁解する勘太郎を余所に、互いに睨み合っていた羊野と佐野舞子は突如笑い出す。


「まあ、現実的に今し方会って近藤正也君の元に案内してくれている人が、実は犯人だったなんて事はいくら何でもあり得ないですよね。それにフェンシングの剣じゃなくても被害者の体に傷穴は作れますし。貴方には被害者達を襲う動機が無いですから、恐らくはアリバイもちゃんとある事でしょうし」


「あからさまに言われたのでちょっとびっくりしましたが、本気で言っているのでは無い事は直ぐに分かりましたから特に焦りはしませんでした。まさか私を動揺でもさせようと思ったのですか」


「いいえ、まさか。ただこの絶望王子はタダ闇雲に被害者達に危害を加えているのでは無く、何らかの理由で傷穴を付けているのでは無いかとふと思った物ですから。その証拠に被害者の体に残されている数カ所の傷跡は皆致命傷にならない小さな物ばかりです。その事について女子高生でもあるあなたの視点から一体どう考えているのかを是非ともその意見を聞きたいと思いましてね。こうして話を振って見たのですよ」


「そうですね。階段から落ちた被害者にトドメを刺すつもりなら、背中や手足では無く、首や心臓を狙えばいいだけの話ですからね。でも今までの被害者の全ての人達がその刺し傷は背中か手足に手中している……一体何故でしょうか。殺す気がないのならこんな事をする意味が無いのに、と言うのが私の意見です」


「それにその絶望王子が使う凶器も気になりますわ。聞いた話では金田海人君が襲われた際は金属バットを使用したそうですが、他の被害者には一度もその金属バットを使われてはいませんからね。なので彼だけに使った物と思われます。そしてその他の凶器が未だに見えないと言う事は、恐らくそこにあの絶望王子が使う階段落下トリックの謎が隠されている用な気がするのですよ」


「トリックですか……あの階段落下現象の全てが人の手により作り出されたトリックだと言うのなら、それは正に魔法と同じです。未知なる力……その正体が分からないのなら人はただ無知にその魔法に恐怖するしか無いのです。そしてそんな恐ろしい未知なる謎のトリックを考えついた絶望王子とは一体何者なのでしょうか。そしてなぜその絶望王子は家の高校にいる内田慎吾君が仮装する絶望王子と姿形が瓜二つなのでしょうか?」


「その謎は恐らく、これから会いに行く近藤正也君が知っている物と思いますよ。そう考えると何だかわくわくするとは思いませんか」


「う~ん、なんかその気持ち、少しだけ分かるような気がします。とても不謹慎ではありますが」


 互いに疑問を口にしながら話し合う羊野と佐野舞子を見ていた勘太郎は「なんかあんたら随分と気が合うじゃ無い」といいながら、手に持っているコーヒーをゴクゴクと飲み干すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る