恋しい人 第48話
「……怯えていたのは、藤原に関係してることか?」
心を落ち着かせていたのに、また揺さぶられる。
反応しちゃダメだと思いながらも肩を震わせてしまう僕に、虎君は「分かった」と僕を強く抱きしめてきた。
「もう聞かないから大丈夫だよ」
僕の背を撫でて宥めてくれる虎君はその言葉通り、それ以上何も聞かなかった。ただ僕が落ち着くまで抱きしめていてくれた……。
僕は虎君の腕の中、虎君はもしかしたら全部知っているのかもしれないと思った。
過保護なまでに僕のことを心配してくれる虎君は、姫神君のことを調べたと言っていた。そんな虎君が慶史のことを調べていないとは考えられない。
僕はそこまで考えて、慶史が頑なに隠そうとしている秘密を虎君が暴いてしまわないか不安になった。
「……虎君」
「ん? 落ち着いた……?」
「うん……。もう平気……」
顔を上げれば降ってくる額へのキス。慈愛に満ちた微笑みに、僕は虎君に問いかけようとした言葉を飲み込んだ。
虎君が不用意に人を傷つけるようなことをする人じゃないってことは僕が一番よく知っているから。
「……ありがとう、虎君」
「いいよ。……葵、少しだけ話を戻していい?」
「何?」
「俺は藤原と葵が共有してる秘密がどういったものかは知らないから安心して……?」
優しい笑顔のまま告げられる言葉は僕の不安を見透かしたものだった。
僕は虎君を見つめ、虎君の本心を尋ねた。我慢してくれてるの? と。
「ん……。ちょっと、……いや、かなり我慢してる。本当は誰よりも知りたいって思ってる。……ごめんな?」
「! ううん……。ごめんね、虎君。ありがとう」
言えないってことはちゃんと分かってるよ。
そう言ってくれる虎君の笑顔は優しいまま。話せるときが来たら話してくれたらいいと言ってくれるその優しさに、僕は涙ぐんでしまう。
虎君はこんなにも僕のことを愛してくれている。そして、こんなにも信じてくれている。
僕は虎君の信愛に見合うだけの愛をいつか返せるだろうか……?
「でも、少しでも葵に危険がおよぶと判断したら俺は我慢を止めるから。それは先に謝っておくよ」
「! ……虎君って、本当、僕のこと大好きだよね?」
虎君の最優先は、僕。僕を守るためなら自分の我儘には蓋をしてしまうぐらい、自分よりも僕を優先してくれる。
幸せで堪らなくて、つい茶化すようなことを言ってしまう僕。
すると虎君は僕の目尻に滲む涙を拭いながら、笑った。ずっと言ってるだろ? と。
「葵は俺の全てだよ」
頬っぺたに落ちてくるキス。チュッと音が響くキスに僕も同じ想いだと伝えるためにキスのお返しをすれば、虎君はまたギュっと僕を抱きしめてきた。
胸にぴとっと耳をくっつければ、トクトクと聞こえる虎君の鼓動。少し早いそれに、虎君も僕と同じ気持ちなんだろうなと感じて幸せを噛みしめる。
「虎君、大好き……」
「ああ。俺も大好きだよ。本当、愛してる」
今度は髪に落ちてくるキス。
本当、僕だけこんなに幸せ良いのかな……?
「僕、幸せ過ぎて怖い……」
「分かるよ。俺も幸せ過ぎて毎日凄く怖い」
「虎君も……?」
毎日が幸せ過ぎて、いつ夢から醒めてしまうか、それが怖い。
そう言った虎君の言葉、僕もよくわかる。毎日が幸せだから、いつどこで落とし穴に落とされるかビクビクしまうから。
虎君はもう一度僕を抱き締めて、僕が傍にいないといつも不安だと言った。離れている間に夢が醒めてしまいそうだ。と。
「僕もずっと虎君の傍にいたい。虎君が傍にいてくれないと、全然安心できないもん……」
「大丈夫だよ。俺は何があっても愛してるから不安にならなくてもいいよ」
「! 僕もずっと虎君のこと好きだもん! だから、虎君も不安にならなくていいの!」
自分ばっかり好きみたいなこと言わないで!
そう言って睨めば、虎君は僕の反論を予想していたのか嬉しそうに笑って額にキスを落としてくる。
「かっこいいな、葵は。惚れ直した」
「もう! 茶化さないでよ!」
そんな風に笑って、絶対からかってるよね?
虎君の楽し気な笑い顔に僕はちょっとだけ不機嫌になる僕。でも、尖らせた唇に落ちてくるキスに不機嫌は貫けない。
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