大切な人 第29話
僕のお願いに虎君は目を見開いて驚いた顔をする。
でも、すぐにくしゃっと顔に皺を作ると少し辛そうに笑った虎君。
「
そう苦し気に囁いた虎君はぎゅっと抱きしめてくる。まるで放したくないと言われているような甘い感覚に僕の心臓はこの上ないほど早く鼓動する。
「どうしても想いが抑えられないんだ。葵を怖がらせたくないのに、どうしても……」
「僕、怖がってなんてないよ……? 凄く、……すごく、嬉しいよ……?」
愛しすぎて嫌われてしまわないか怖い。
そう言った虎君の頼りない声に心臓が口から飛び出そうだ。
僕は負けじとギューッと抱き着いて、虎君の想いが嬉しいと必死に伝えた。むしろもっともっと僕の知らない『虎君』を見たいよ。と。
「もっと虎君のこと好きになりたい。もっと虎君の近くに居たいよ……」
「葵っ……!」
好きが溢れてしまうのは僕も一緒。虎君が大好きという想いが抑えきれず、涙目になってしまう。
虎君は僕の望みに応えるようにキスをくれる。
唇に虎君のそれが触れ、僕のドキドキは治まるどころか激しさを増して、心臓が止まってしまわないか不安を覚える。
ちゅっと下唇に吸い付いてくる虎君の唇は柔らかくてそれでいて甘い。
甘さに酔いしれてうっとりする僕は、離れてしまいそうになる唇に思わず後を追いそうになる。
でも、僕が後を追う前に再びキスされて……。
(虎君、虎君っ……)
コップから溢れる水のように想いが心からあふれ出してしまう。
僕は虎君の服を握り締めもっとキスしたいと願ってしまう……。
するとその想いが通じたのか、虎君は僕の頬を包み込んで唇を一度放して切なげに尋ねてきた。
「もっと葵を感じたいんだけど、いいか……?」
「うんっ……! 僕も……!」
吐息のかかる距離。それは虎君の瞳の中に自分が映っているとはっきり分かるほど近い。
虎君が望んでくれるように、僕ももっと虎君を感じたい。
そう願えば、虎君の親指が僕の下唇に触れてきて、唇を開くように促された。
「ごめんな、葵……」
何に対する『ごめん』なのか分からないけど、虎君が僕を傷つけるわけないって信じてるから安心して身を任せられる。
近づいてくる虎君の顔に僕はうっとりしながらも目を閉じる。虎君からのキスを待つように。
チュッと再び触れる唇。それはいつも以上に甘くて身体が痺れそうだった。
でも、いつも以上に甘い甘いキスがある事を、僕は次の瞬間知ることになる。
それは僅かに離れた唇から齎されるしっとりとした温もりが僕の唇を舐めたから。
びっくりして身体が強張ってしまう僕。でも虎君は僕を放さない。
今の何? って聞こうとした僕だけど、声を出す前に開いた唇に何かが侵入してきて言葉は出なかった。
(何、これ、何……?)
何が口の中に入ってきたのかすぐには理解できなくて、僕は混乱してしまう。
でも、それでも口の中に入ってきた『何か』は僕の口内に居座り、それどころか僕の舌に触れて絡んできた。
(これ、虎君の、なの……?)
温かくて弾力のある『何か』。
それが虎君の舌だと気づくのに、唇を舐められてからどれぐらいかかっただろう。
そう言えばドラマや映画で見たことのあるキスシーンを思い出し、カッと顔が熱くなった。
(これ、これ、恋人同士がする、エッチなキスだよね……?)
僕の舌を絡めとる虎君の舌に翻弄され必死に考えを巡らせるも、息継ぎのタイミングが分からなくて頭は酸欠に。
新しい酸素が欲しいと身体が欲しているとよくわかるのに、息を吸い込むことができない。
必死に我慢する僕だけど、僕の舌を優しくあそぶ虎君の唇は離れる気配がなくて、今度は別の意味でパニックになりそうだった。
けど、僕が酸欠になる寸前、解放される唇。
僕は虎君の唇が離れるや否や必死に酸素を求めて何度も息を吸い込んだ。
「! ごめん、葵っ……、大丈夫か……?」
息を吸い込み過ぎて咳き込む僕の心配をしてくれる虎君はやっぱり優しい。
背中を擦って、ゆっくり息をするようにアドバイスしてくれた。
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