第224話
「ゆ、結城、おま、何勝手に人の部屋に入って―――」
驚きながらも反応を返したのは、部屋の主である
戸惑いの声で招いてもいないのに勝手に入って来るなという慶史。ノックできない原始人は出て行け。と。
でも
聞かなくても分かるほど怒りのオーラを纏った瑛大に僕達は言葉を失い、まるで蛇に睨まれた蛙のように身体を寄せて委縮した。
いつもの瑛大とは違うと感じたのは僕だけじゃない。
慶史もその変化を感じたのか、無言で歩み寄ってくる瑛大に怯んだ様子を見せた。
怒鳴ることなくズンズンと歩く瑛大。そのすべてが怒りに満ちていて、言葉もなく怒りを露わにするその姿に怯えるなという方が無理な話だ。
鬼の形相で瑛大は僕の前に立ち止まる。そして―――。
「!
僕は瑛大に胸倉を掴まれ、そのまま締め上げられるように引っ張り上げられた。実に30センチある身長差に、僕はつま先立ちになる。
僕を心配する慶史の声が耳元で聞こえ、慶史は瑛大に僕を放せと殴りかかっていた。
でも、いつもならその拳を受け止める瑛大がこの時ばかりは煩いと低い声を上げ乱暴に振り払い、体格差は力の差となり、慶史は弾き飛ばされ床に倒れ込む。
「何すんだよ結城! マモを放して慶史に謝れ!!」
「うるせぇ。お前らが悪いんだろうが」
怒号を響かせる悠栖に、瑛大が返したのは低く押し殺した声。
静かな声色だったけど、相当な怒りを秘めていることは分かる。
瑛大は悠栖達から僕に視線を戻すと、うわ言のように「ふざけんなよ」と口にして僕を睨みつけてきた。
「え、えい、た……」
「いいご身分だな。わけわかんねぇ癇癪で虎兄を傷つけといて、自分は被害者面して友達に慰めてもらって悲劇のヒロインぶりやがって」
「! そ、そんな、なにいって―――」
「結城! てめぇいい加減にしろっ! 部外者が口出ししていいことじゃねぇーんだぞっ!!」
「黙れ。お前らがそうやってこいつを甘やかすからこいつが調子に乗るんだろうがっ」
忌々しそうに吐き捨てる瑛大から激しい憎悪を隠すことなくぶつけられ、僕は言葉を失う。
そんな僕を守るように慶史がまた瑛大に噛みつけば、瑛大は憎悪を僕だけじゃなく慶史達にまでぶつけてきた。
「お前らがこぞってこいつを庇うから、こいつは自分がどんだけ周りに迷惑かけてるかなんも分かってねぇーんだぞっ!」
瑛大の言葉は、まるでナイフのように僕の心に突き刺さる。
僕がずっと思っていたけど考えないようにしていたことを、今、憎しみと共にぶつけられた。
言葉では言い表せない恐怖が体中に巻き付いて、息ができなくなりそうだ。
でも、そんな僕の『甘え』を瑛大は見越していたのか、僕を蔑むように見下し、絶対に許さないと吐き捨てた。
「え、いた……」
「俺はお前を許さねぇ。お前が、―――虎兄が死んだら、俺はお前を一生許さねぇからなっ!!」
その言葉を発した瑛大の表情には、怒りと憎しみの他に悲しみが宿る。
瑛大の言葉に僕は恐怖心を忘れ、何を言ってるのかと困惑した。だって瑛大、今『虎君が死んだら』って言ったから。
「なんで、とらく―――」
「! お前が虎兄の名前を口にすんなっ! 虎兄があんな風になるまで追い詰めた奴がっ、奴がっ―――」
胸倉を掴んでいた瑛大の手に力が籠り、首が締まる。
息苦しさを覚えながら、僕はどういうことだと瑛大にもう一度説明を求めた。何が起こっているのか、僕には理解できない。と。
「! お前っー―――」
「止めろ瑛大! 葵は本当に分かってないんだよっ!! 本当に、本当に何も知らないんだよっ!!」
ますます強く締め上げられ、とうとう呼吸ができなくなる。
このまま僕は窒息死するのかもしれないと僅かに残る冷静な思考が分析している中、慶史が瑛大の腕を掴み、落ち着けと声を荒げていた。
すると、瑛大の手から僅かに力が抜け、少しだけ呼吸が楽になる。
「瑛大、俺達じゃ無理なんだ。俺達じゃ葵に今何が起きてるか、真実を教えることはできないんだよっ」
慶史は辛そうに顔を歪め、自分達では僕が自分の心を守るために築いた防衛本能を壊せないと瑛大に訴えた。
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