第123話

 幸せ過ぎて身体がふわふわして夢見心地。

 僕を支配してたはずの悩みの数々は、今は全然頭をもたげることもなく、安らぎの中に居ることができる。

 それは他でもなく虎君が傍にいてくれるから。もちろん物理的な距離の話じゃなくて、気持ち的な距離の話だけどね!

(虎君がいてくれるって感じるだけでこんなに幸せになれるなんて、知らなかったなぁ……)

 まどろむ思考のなかでも虎君の事を考えてたら、ドアをノックする音が。

『はい?』

まもる、入っていい?』

 こんな時間に誰だろう? って思いながらノックに声を返したら、ドアの向こうから聞こえた声に驚いた。

 だってそれは他でもなくて虎君の声だったから。

 僕はベッドから降りるとドアに駆け寄って、どうしているの? って尋ねながらドアを開けたら、虎君は答えるよりも先に僕を抱きしめてきた。

『と、虎君?!』

『ごめん、葵が心配過ぎて我慢できなかった』

 突然の抱擁に物凄く心臓がドキドキして苦しくなる。

 声を上擦らせながらも虎君を呼べば、虎君は抱きしめる腕に力を込めて熱っぽい声で囁いてくる。

『一人で泣かないで俺を頼って?』

『! 頼ってるよ……? 僕、虎君の事、凄く頼りにしてるよ……?』

 耳にかかる吐息に、ドキドキは激しくなる一方。

 ぎゅっと抱きしめられててぴったりくっついてる身体に僕のドキドキが虎君に伝わってしまいそうだ。

(あれ……? でも、虎君もドキドキしてる……?)

 僕だけがドキドキしてると思ってた。でも、触れたところから伝わってくる虎君の鼓動に気が付いて、僕の心臓は一層高鳴った。

『と、虎君……? なんで……?』

 こんなにドキドキしてるのは、どうして?

 尋ねながらも、僕は知っていた。こんな風にドキドキしてる理由を。

『……気づいてるんだろ?』

『な、にを……?』

 見上げたら、優しく笑う虎君。でも少し恥ずかしそうなその笑顔に、僕が感じた『理由』は間違ってないと確信する。

 でも、確信できても言葉が聞きたくて知らない振りをしたら、虎君は僕が望むまま、『想い』をくれる。

『俺が葵のことを世界で一番愛してるってもう伝わってるよな?』

『! ほ、本当に?』

『本当に。……葵、愛してるよ』

 頬っぺたを包み込む虎君の手と、近づいてくる虎君の顔。

 僕はそれにドキドキしすぎて過呼吸になりそうだったけど、虎君の『気持ち』を受け取りたくて目を閉じて上を向く。

 唇が触れ合ったのは、一瞬。一瞬すぎてその感触とかは全然分からなかったけど、でも息をするのも忘れそうになるほど幸せだった。

『可愛い……』

『うぅ……虎君、大好きぃ……』

 目を開けたら、幸せだと言葉以上に物語る表情で笑う虎君が目の前にあって、泣けてくる。

 抱き着いたらしっかりと抱き留められて、もう一度『愛』を囁いてくれた。

『もう僕、死んでもいいぃ』

『そんなこと言わないで? 葵が居ないと俺は生きていけない』

 今世界が終わっても後悔しないぐらい幸せって意味で口に出た言葉にも虎君は『愛情』で返してくれるし、本当、幸せ過ぎる。

 感極まってぎゅうぎゅうしがみついてしまう僕。

 それに虎君は僕を包み込むように抱きしめ返してくれて、大事にされてるって実感する。

(ずっとこうしてたいっ)

 ずっとこのまま、ずっとずっとこのまま虎君に抱きしめていて欲しい。触れていて欲しい……。

(あれ……? なんだろう……? なんか、変な感じ……)

 虎君が抱きしめてくれてるから、心は温かくて穏やか。

 でも、それだけじゃなくて、なんていうか、もっと違う何かが生まれた。それはとても切なくて、でも熱くて、苦しい……。

 これが一体何かは、今の僕には分からない。けど、虎君に聞けば、分かる気がした。

『ねぇ、虎君、僕、なんか変……』

『変って? どういう風に?』

 どう説明すれば伝わるか分からないけど、ちゃんと聞いてくれる虎君に必死に説明する。この感覚が一体何か知りたいから。

 すると、明確にならない言葉だけを繋げて伝える僕に虎君は『そんなことか』って笑った。

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