第131話 ただの可愛い妻子持ちのおっさんさ
「……驚いたな。噂以上の化け物のようだ。流石は王国の誇る【剣鬼】殿だ」
片腕が潰され、部下は全滅。
その状況下でも冷静なリーダー格の男はそう言いながら腰から短剣を抜く。
「戦意はあるようだな」
「逃げたいが、アンタが全力を出したら恐らくダメだと分かったからな」
ふぅーと、ため息をつく男。
その息にはどこか本当に困ったような気持ちが混じっているように感じられた。
「全く……本当に計算外だ。王国に動きがバレてた……とかなら、まだ嬉しいけど」
「生憎と違うだろうな」
俺がここに居たのは本当に偶然だ。
知らなければ、さっきの女の子は拐われていただろう。
どんな目的かは知らないけど、公国はあの女の子を連れ去って、何かしら王国に仕掛けようとしていた……そんな所かな?
「だろうな……神にすら愛されてる化け物が相手とは、公王陛下にお伝えできないことが残念だ」
乾いた笑いを浮かべてから、スっと視線を鋭くする男。
覚悟は出来た……そんな感じかな?
「最後に聞かせてくれないか?」
「お好きに」
「お前は――」
それはほんの一瞬のこと。
その一瞬、トップギアに入れた男の鋭い一撃はまさに全てを賭けた全身全霊の最後の一撃であり、普通なら避けられない絶妙なタイミングのその一撃で俺に向かってくる。
「――何者だ?」
その問いが聞こえたのは俺の真横。
急加速してから、反転したのち俺の横に回り込んだその最後の一撃は……残念ながら俺に届くことはなく、寸前で止まっていた。
先程と同じように俺に腕を掴まれて止められてしまったのだ。
避けるまでもない――ただそれだけだった。
「なに、ただの可愛い妻子持ちのおっさんさ」
その答えに……男はどんな顔をしたのだろうか?
それを見るまでもなく、俺は男を地面に沈める一撃を放つ。
手加減した攻撃では意識は奪えそうもないので、いつもより気持ち強くしたその一撃は、地面にクレーターを作り、目的通り男は意識を手放した。
……ただ、少し強すぎたかも。
死んではないとは思うけど、そこそこ整った顔が悲惨なことになっていたし、男がもう少し柔ければ、ローリエ達に凄惨な現場を見せることになってしまったかもしれないと少し反省する。
とはいえ、予想以上の強敵と突然の他国からの介入……嫌な予感しかしないけど、あの女の子がどんな風に利用されようとしたのかは知らないといけないのかもしれない。
全く……ただのお忍びでこんな事になるとは、ローリエには怖い思いをさせてしまったので、俺としてはそれに怒っていた。
全く!迷惑な連中め!
とはいえ、そんな事は口にせず、近くの住民に警備兵の要請を頼んでから、全員を縛って無力化する。
無論、当分起きないくらいには強くしたので、本当に念の為だけど、暗器とか隠し武器系も全て没収してから、面倒な連中をまとめて放っておく。
さて、とりあえず向かってくる娘でも慰めようかなと、俺はそんな事を思いつつ表情を優しいパパカリスさんに戻してローリエを抱きとめるのであった。
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