第126話 憧れと安らぎ
「その……今日は本当にすみません」
王女様の提案で、次のお忍びで使いたい服があるとかで、服屋に来たのだが、可愛い娘の町娘スタイルに今か今かとワクワクしていると、サラッと着替えたセリュー様が小声でそう言ってきた。
「それはセレナ様の件に関してですか?」
何となく、声のトーンからして違うだろうと分かってはいたが、相変わらず自由奔放で気ままな姉の行動に関してなのかと問うとセリュー様はどこか申し訳なさそうに言った。
「それもですが……その……僕、こうしたお出掛けは初めてでして……はしゃぎすぎたと言いますか、実の子供でもないに、フォール公爵に甘えてしまったので、その……」
肩車やらのことに関してだろうか?
服屋で時間も空いて、冷静になってきたのだろう。
まあ、この子にしてみれば、年上どころか誰かに甘えるのすら気が引けるのだろうなぁ。
どうにも繊細な子のようだし、王太子の立場もあって、父親である国王陛下もあまり構うゆとりがなく、王妃様もお忙しいし、結果的に寂しくても溜め込んでしまうのだろう。
そのまま成長していって、後々乙女ゲームのヒロインというオアシスに出会えば自然と堕ちるのも仕方な……いや、仕方なくはないけど、でもまあ、子供というのはやっぱり育った環境で変わるのだろうと改めて思わされるものである。
「構いませんよ。甘えて下さっても」
「……え?」
小声ではあるが、普段の話し方の方がどこか落ち着きつつ、不敬を承知で、親子設定を盾に、俺はセリュー様の頭にポンっと手を乗せて軽く撫でながら言った。
「子供には大人に甘える権利があります。相手が望んで、それを受け入れられるならですが……少なくとも、今日はセリュー様は私の子供ですから。多少は父親に甘えてもいいんですよ」
厳しい父親の姿に慣れてるのだろうし、多少は甘えてもいいだろう。
この子は本来賢いくて不器用な子なのだろうし、そういう子には早いうちに甘え方を覚えさせた方がいい。
無論、むやみやたらに甘やかすのは良くないが……多少ワガママなくらい子供としては当然とも言える。
はぁ……この子はローリエの婚約者候補なのだがなぁ……本当に俺は余計なお節介が過ぎるらしい。
「折角のお忍びです、私達も楽しみましょう」
「……!は、はい!」
優しく微笑むと、セリュー様は自然な笑顔を浮かべて頷く。
本当にこのまま真っ直ぐに育って欲しいものだ……まあ、ローリエを悲しませるようなら容赦はしないが、それでも前途ある若者は優しく見守りたい所存。
「あの……では、早速1ついいですか?」
「何でしょう?」
「……このまま、頭を撫でては貰えませんか?」
「分かりました」
ローリエがヤキモチを妬いてまた可愛くなるかもなぁと思いながら、俺はセリュー様の求めるまま頭を撫でるのであった。
……というか、そんなに撫でられるの嬉しいの?
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