第78話 わくわくサーシャ

「夜会ですか?」


お茶を飲みながらサーシャが首を傾げる。それに俺は笑顔で言った。


「ああ、国王陛下主催の夜会なのだが……パートナー同伴でね。サーシャが嫌でなければ一緒に行って欲しいんだ」

「それは構いませんが……私、今着れるドレスが……」

「それは大丈夫。手配するから」

「旦那様がですか?」


不思議そうな表情のサーシャに俺は頷いて言った。


「知り合いにその手のことが得意な人がいてね」

「でしたら、問題はありませんが……」


そこで少しだけ表情が曇るサーシャ。俺はそれに優しく微笑んで言った。


「何か思うところがあるのかな?」

「いえ、そんなことは……」


しばらく優しくみつめていると、サーシャはポツリと言った。


「あの……夜会は本当に久しぶりで、私大丈夫かなと思いまして……」

「心配なのは夜会そのものかな?それとも自分が夜会に行くことについてかな?」

「……多分両方です。私、本当は少しだけ楽しみではあるんですが、でも、その……子供を産んでから体型も変わりましたし、その……旦那様に見せて大丈夫かどうかがその……心配でして」


そんなことを言うサーシャ。け、健気すぎるだろ!なんだよこんな可愛い奥さんと夜会行けるのかと思うとテンション上がってくるが、俺はサーシャを優しく抱き締めてからゆっくり撫でて言った。


「大丈夫。サーシャはいつでも私にとっては宝石よりも綺麗に見えているから。それに、もしサーシャのことを侮辱する者がいれば私がそいつからサーシャを守る。絶対にね」

「旦那様……」

「すまなかったな。サーシャの気持ちをもっとわかるようになりたいのだが……私はまだまだだ」

「そ、そんなことはないです!むしろ私こそ旦那様のことをもっと知りたい――というか、あの、えっと……」


あわあわするサーシャ。可愛いすぎる!やはりサーシャを愛でるのは楽しいと心底思いながら俺はサーシャとの時間を楽しむのだった。





「なるほど……それで私に依頼しに来たのですね」


別室にて、俺は本日ローリエに会いにきていたセレナ様に事情を話してお願いしていた。


「ローリエさんの衣装の前にまさか奥さんの衣装を作ることになるとは思わなかったですが……確かに、奥さんも可愛いですからいいですよ」

「引き受けて頂けるのは嬉しいですが、妻に手を出したら黙っておりませんからな」

「ふふ、そんな怖い顔しなくても人妻には手を出しませんよ。それに私にも愛する婚約者がおりますから」


マクベスさん、あんたも大変ねと思いながら俺はため息をついて言った。


「婚約者と円満なのは構いませんが、仕事はきちんと受けてくださいね」

「ええ、もちろん。にしても、こんな幼女に仕事を与えるなんて鬼畜ですわね」

「ははは、ただの幼女がチートなみの裁縫スキルを有するのですか」

「ふふふ、どうでしょうね」


互いに笑うが、上辺だけの笑い。なんとも腹黒同士の会話っぽいが、まあ、自覚はなくはないので否定はしない。別に俺は腹黒ではないがね。いやだって、腹黒って本来もっと頭が切れる人にこそふさわしいでしょうが。俺はあまり頭の切れはよくないのでおこがましいというかね。うん。


そんな感じでなんとかサーシャの夜会用の衣装は準備が終わって、あとは装飾品の到着と当日を待つだけになったのだった。



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