第10話

10

そして当日。

「卒業生入場、皆さま温かい拍手でお迎え下さい。」

時間になり、式が始まった。

まずは1番の案内によって入場曲が流れ2番を始めとする生徒会に先導された卒業生が入場して来る。

生徒会は間違えずにそれぞれのクラスを着席させる案内が成功。

その後、校長の言葉・学校役員の言葉なんだが。

「長すぎないか?」

「と言うより、数が多すぎるのよね。」

「もう先輩方、ウトウトしてませんか?」

予定ではせいぜいが一時間の筈が、もう二時間は経ってる。

俺は平気だが、椅子に座ってる人達はつらいだろう、長い話と睡魔と戦っている。

校長・卒業生父母の代表・生徒指導責任者・PTA会長・理事会の代表などなど。

「なんで校長と理事会が別でいるんだ、同じだろ。」

「卒業生父母の会とPTAをなぜ分けてるの?」

「祝電ってこんないっぱい来るの?全部読まなくてもいいじゃ‥。」

本来は午前中に終わるはずがもうすでに午後に入っていた。

「‥やっと終わりそうだな。1番、そろそろ。1番?」

「は!はい!大丈夫です、ちょっと緊張して。」

「そう、緊張ね。それなら安心ね。」

違うな1番は、今ウトウトしていた、緊張していただろうが、長すぎて疲れていたんだろう。

そして、プログラム上で最後の祝電が始まった。

「あ、あの私やってきます。見てください、2番、4番君。」

「わかってるわ、落ち着いていつも通りにね。」

「大丈夫、ずっと練習してきたんだ。頑張ってこい。」

「はい!」

そう言って1番の背中を見送る。そして、次期会長による送る言葉の時間が来た。

登壇しスポットライトが当たった1番は堂々としていて大きい瞳が輝いて見えた。

「出だしは順調だな。」

「ええ、登壇も問題なし。」

1番は今までの事を完全に自分のものにしていた。

もう送る言葉の半分が終わりもう後、数分で終わる予定だった。

「次は降壇だな。」

「最後まで気を抜かないで。」

1番は練習で降壇の時に、気を抜いてしまい踏み外しそうになっていた。

「そろそろ私は行って来るから、しっかりと1番を見ていてね。」

「ああ、わかった。」

2番が退場の先導のために、舞台の袖からいなくなった。

二カ月は長かった。

最初はひどかった、真面目だがどうにもならなかった、けどなんとか形にはなっていった。

そして事件がおこり、同じ生徒会の一人が消えて、場所の変更の可能性があった。

だけど、もう1番は堂々とスピーチをしている。

俺は舞台の影から、輝く1番を見ていた。

「‥‥。」

やめろ出てくるな。

始まると思っていた。俺が一人になるとこれが始まる。

頭が凍りつく、足で掴んでくる、手が震えてくる。

お前がなんでいるんだよ。

もう、1番にお前は必要ないだろう!消えろ!

頭の中で誰かが叫んでいる。

違う、二人とも俺が必要だと言ってくれた。

頭の中で何か戦う、一昨日は勝てなかった。だけど。

黙れ!消えろ!消えろ!

お前のせいで、事件になった!

今俺は1番を見ている。

お前があの時消えれば講堂も使えてた!

お前がなんでいるんだよ!

もう俺は確かにこの場に必要ないかもしれない、あの姿を見ればもう誰も俺を必要としないだろう、だけど俺は1番を信じてる、俺を必要だって言ってくれた1番を。

俺にこの場を預けてくれた2番を信じる。

消えろ!消えろ、消えろ‥

最後の心配事、それを俺は伝える。

あの声はもう聞こえない、もう今は俺の役割しか見えてない。

「階段に気をつけて、下を見て。」


「では今回の卒業式の成功を祝って乾杯!」

「「「「かんぱーい!」」」」

1番の言葉にこの場の全員が返事をした。

時刻は5時、卒業式が終わり、三年生は記念撮影も終わりそのまま親と一緒に帰っていった。

俺たちは片付けをし少し時間を潰して貸し切りの学食にいた。

「一時はどうなるかと」「ていうか、学校側遅くない?なんで2日前に言うの?」

「本当にな、しかも最初は高等部でいきなり本番の可能性があったんだろ。」

「しかも長すぎるのよ、あの祝辞。」「つまんないし、なげーし。眠かった。」

もちろん、酒ではないが緊張感が抜けたせいで、みんな本音を暴露している。

「それで5番はどうなったの?」「なんで5番?そういえば見てないな。」

「知らないのかよ、講堂が使えなくなったのあいつのせいだぞ。」

やはり、そこに行き着くか。俺自身も今どうなっているのかわからない、あのグループも色々言ってはいるが結局よくわからないと結論が出たようだ。

「やあ、4番君。楽しんでる?」

3番がコップ片手に話かけてくる。

「ああ3番か。助かったよ、本当は倉庫をあさるなんて仕事聞いてなかっただろ。」

「あれぐらい平気だったよ、準備から完遂までが放送委員の仕事だから。」

3番が、頭を振って言ってくれる。

回収された機材や備品の代わりは倉庫にある、なんてざっくりした事を言われて放送委員総出で倉庫中をひっくり返したらしい。

「正直骨が折れたけど、どうにかなったよ。やってみるもんだね。」

「委員長最初の仕事がそれだもんな。」

「はははっ。そうだねもう僕が委員長だ。」

笑いながら3番が返事をしてくる、やっぱりこいつコミュ力あるな。

「その委員長がいいのか?俺に構ってて、放送委員の何人かがお前を見てるぞ。」

「え?そうなの?じゃあ、僕は行ってくるよまた後でね。」

3番が委員の輪に入って行く。

「アイツ、自分がモテてるって知らないのか?」

皆んな、料理や飲み物に会話を楽しんでいる。

今まで俺はこの手のことには自分から関わらなかったし、家の付き合いで行ってもすぐに飽きていた。

だけど、今回は悪くない空気だった。


10-1

目だけで二人を探すと2番は生徒会のメンバーと話していたが1番が輪から離れた所からこちらをチラッと見てトイレとは違う廊下に向かっていった。

どうしたのかと追いかけ見つけた1番に話しかける。

「どうした?何かあったか?」

「来てくれたんですね。4番君、楽しんでますか?」

別に何のことも無いという返事をするが。

「ん?ああ、悪くないよ。」

「ふふっ良かったです。つまらなかったらどうしようかと。」

口に手を当てて軽く笑う。

かわいい‥、この大人しい子が無邪気に笑う姿に目を奪われた。

「それでどうした?話しか?」

「はい、改めてお礼を言おうかと。」

そう言うと1番は少し離れて位置に立つ。

「この度の式へのご協力、本当にありがとうございます。貴方には感謝してもしきれません。今度は私が貴方を助けてみせます。」

軽い笑顔を浮かべお礼の言葉をした後、1番は深くお辞儀をした。

美しい姿だった、1番の動きに合わせてスカートがなびきどこか神々しさを感じ、礼を言われてるのにこちらが跪きそうになった。

お辞儀が終わり、1番は軽くはにかんだ。

「ふっ‥やっと言えました。ふふっ。」

緊張していたのか胸に手を当てて1番が笑顔で見つめてきた。

しばらくの間、二人で無言で見つめ合い信頼を確かめあった。

「俺からもありがとう。1番が信じてくれたから俺も安心して式に臨めた。」

俺は手を前に出し握手を求めた。

「わぁ‥。」

こういう男な対応は初めてだったのか少し驚いたようだ。

でも、無言で手を握ってくれ俺も握り返す。

暖かくて小さい手だ。

そうか、1番はこの手で俺を守ってくれたのか。

「約束だったな、春休みどこかに出かけよう。」

「あ‥はい!覚えててくれたんですね。」

心の底から嬉しいのか満面の笑みで言ってくる、眩しい、少し暗い廊下で1番の顔は光り輝いていた。

「私、外を家の人以外と歩くの初めてなんです。嬉しいです。」

それが俺でいいのかと少し申し訳ないがそう言ってくれるなら俺も努力しよう。

「よかった、なら行こう2番と一緒に。」

「‥‥4番君、少し話があります。」

1番が握手の力を強めた、柔らかい。

「4番君はどうしてそんな事言っちゃうんですかね。」

そう言うと1番が急に手を引き少し体制が崩れた所にゆらりと顔を近づけてくる。

こ、この香りは、前に抱きしめてくれた時の香り。

怒っていて気づかないのか1番の息がこちらの唇にあたりくすぐったい。

前髪から覗く1番の目がどこか虚ろだ、だが目線が外せない。

しかも握手した手を1番はさほど力を入れていないのに外れない、魔力か何かのような圧力が1番から発せられる。

「ど、どうした?何か言ったか?」

急いで何が悪かったか聞くが1番の目から更に視線が外せなくなる。

「そうですね、まず言っておきたいのは私は貴方とだけ行きたいです。」

貴方とだけか、それは二人きりでという意味か。

そうか、1番が不安だと思って2番と一緒にと思ったがそれがいけなかったのか。

「わ、わかった。二人きりで行こう。」

「はい、そうしましょう!。」

良かった、1番の圧力が少し軽くなった。

「そ、そうだ!春休みの間は両親がいないんだ。一緒に家で食事でもしないか?」

「え!そっそれは‥。」

驚いたのか、距離を離し慌て始めた。

よし!よく考えずに言ったが1番からの圧力がかなり消えた。

「‥それは4番君の家でですよね。」

「おっおう、そうだ。」

1番はさっきまでの魔力を消していつもの優しい1番に戻ってくれた。

「ダメか?‥。」

最後の確認のために聞いてみる。

「いいえ!ダメじゃないです、勿論いいです!私頑張って料理しますから!期待してくださいね!」

少し暴走気味で怖いがどうにか機嫌が良くなったようだ。

自身も自分が暴走していると気づいたのか落ち着くために深呼吸を始めた。

「そっそろそろ戻らないか?」

時間にして10分だが、そろそろ誰かが気づいて探し出すかもしれない。

「はい!そうですね、戻りましょう。」

そう言って歩き出そうとするがまだ握手していることに気づき。

「あ!すみません。」

1番が急いで手を離して謝ってくる。

「いや、大丈夫だ。行こう。」

振り返って会場に戻ろうすると「あっあの、やっぱり手を‥。」と1番が言った。

「ん?どうした。」

「‥4番君もまだまだですね。」

何か小声で言ったようだが、俺には聞こえなかった。

「いいでしょう、まだそれで。」

1番は言いながら俺の傍を通って行った。

「行きましょう。みんな待ってますよ。」

「そうだな、行こう。」

俺は1番の後ろと歩いて会場に戻った。

1番は2番と話があるとかで2番をどこかに連れて行き俺はまた一人になった。


「‥少し、話すか。」

カップ片手に生徒会や放送委員に話しかけてみた、やはり俺は自分から話しかけるタイプに見られてなかったようで、驚かれたが迎え入れてくれた。

「4番がいるって聞いて驚いたが、上手くやってるみたいだな。」

「本当にねー。4番君、ちょっと怖い感じだったから。」

皆、思い思いの想像をなげかけてくる。

そんな中。

「ねぇねぇ、聞いてもいい?」

生徒会の一人の女子生徒が聞いて来た。

「ん?何について。」

「決まってんじゃん、1番さんと、2番さんどっちと付き合ってるの?」

会場が静まりかえった。

だが空気は待ってました、という感じだ。

「ちょ!」「まだ早いって!そういうのはもう少し」「いいじゃん、気になってたでしょ。」「やっぱり付き合ってたのか。」「どっちかな?知ってる?」「いや、わからない。」最初はザワザワしたが。聞き耳をたてるため静かになってきた。

「で?で?どうなの。」

「どっちかな?」「1番さんじゃないか、じゃないと手伝い来なかっただろう。」

「でも、誘ったのは2番さんなんでしょ。」「え!そうなの!」

野次馬根性を隠すつもりも無いようで周りもどんどん集まってきた。

「今なら、二人ともいないから、早く。」

今二人ともトイレでいなかった。

正直言うと2番と付き合っているつもりだが、言ってもいいものか。

不安な事が頭に浮かんだからこの子を俺は煙に巻くことにした

「こういうのはフェアじゃないと思う。」

「え?フェアって。」

「俺が嘘をついてどちらかと付き合ってると言ったら、あの二人の両方にも迷惑がかかるかもしれない。それはあの二人にとっても「そういうのはいいから、早く教えて。」」

くそ、ダメか。

「早く!早く!」「あ!逃げた!聞き出せ!」「捕まえろ!面白そうだ!」

結局逃げてしまった。


「どこいった?」「わからないな。」「逃げるってことは、言えないくらいの事があるんじゃ。」「まさかの二股!」「1番さんと2番さんが一緒になるものだと思ってたのに。」

3番のやつもいやがる。あと、後ろの女の子が危険な思考を持っているようだ。

そう簡単には捕まるつもりは無い、捕まった所で話す気もないが熱狂したあの人数に捕まるのは身の危険を感じる、だがこのまま隠れててもいずれ見つかる。

だがしかし、俺には秘策があった。

そして秘策は隠れるためだけじゃない秘策が。


「灯台下暗し、戻ってくるとは思わなかっただろう。」

俺は学食の屋上に駆け上がり、大声で俺を探しているのを見下ろしている。

「とりあえず、二人が帰って来るまで待つか。」

この屋上庭園は全面ガラス張りで解放感があって、気に入ってる場所だ。

庭園の中にあるベンチに座る。

「思ったよりあっという間だったな。」

色々思い出す事もあったがもういい。過ぎた事だ。5番の事件は。

だけど、まだ心の傷は残っている、消える事はないのだろう。

その事を振り払うため、少し一人になってよかったかもしれない、自分の部屋以外では久しぶりの孤独だった。

風の音が聞こえる、春一番には程遠いが結構強いみたいだ。

「どうしたの、皆んな外であなたを探してるみたいよ。」

振り向くと2番が屋上に上がって来ていた。

「よくわかったな。」

「なんとなくね、それにあなた昼間の時から私に用があったみたいね。

だからそんなに遠くなくて二人きりになれる場所はここぐらいでしょ。」

やはり俺は単純なようだ、2番には思考が読まれてるように感じる。

「それで、どうしたの?」

ベンチの隣に2番が座って優しく話かけてくれる。

「前に心的外傷について話したの覚えてる。」

「うん、覚えてる。」

俺の事を親身になって聞いてくれるこの人に、2番に聞いて欲しかった。

「俺、本当は講堂の会場に入るの怖かったんたんだ。」

「そう。」

いつものように抱きしめてくれる、何回されても落ち着く抱擁だった。

「でも、2番がいてくれたから大丈夫だった。」

「うん。」

「だから、もう平気なんだ。もう怖くない。」

「うん、強くなったね。」

認めてくれた、強くなったって、2番の言葉は自分の言葉より信じられる。

「ありがとう、2番に話せてよかった。」

「うん。あっ。」

口づけ。

あの時から数えて三度目の口づけ。

「キスをするとき積極的ね。今度は私からって言ったのに。」

今度は向こうからしてきた。

頭が痺れる、けどだめだこれはクセになる。

「大人のは、後一年待ってね。じゃないと止まらないでしょ。」

2番は自身の唇を指で撫でて、そのまま俺の唇の撫でてくれた。

「はい、こっち。」

「‥‥。」

もういちいち確認を取らずに2番の足を枕にする。

当然のように頭を撫でてくれる、優しく。

「ここ最近、二人きりになると謝ってばかりね。私。」

悲しそうに自虐気味に言ってくる2番を見て俺はつらかった、この人を悲しませたくなかった。

「‥大丈夫。俺が笑わせて見せるから。」

手を伸ばして2番の顔に触れる。

「ふふっ‥ありがとう。ねぇ、いいの?」

頭を撫でながら見下ろしてくれる彼女が女神のように見える、いやきっとこの人は俺にとって。

「ん?何。」

「今日は触らないの?」

「‥‥今日は大丈夫。でも。」

少し迷ったがでも、もっとしたいことがある、だから今日は我慢する。

「でも?」

「キスがしたい。」

もうすでにクセになっていたようだ、俺は2番とのキスの虜になっていた。

「ふっふふ‥キス好き?」

「‥もうだめ?」

「どうしようかな?なら私のお願いを聞いてくれたらしてあげる。」

このいじわるな顔も好きだ、好きでたまらない。

「わかった、なんでもするから。」

「ふふふっ、はいじゃあ、じっとしてて」

いつもそうだ、この人は俺のワガママに何度も付き合ってくれる。長い口付け、俺は逃げ場がないため、2番にされるがままになる。

腰を折り無理な体勢で優しくしてくれる、2番の髪の匂いに包まれる。

「大人のが待ちどしいわね。」

「後一年は長いな。」

「だーめ、私だって我慢してるんだからあなたも我慢して。」

少し恥ずかしいそうに言ってくる。この困ったような顔もただただ美しい、ずっと見てられる。そうか、この人も我慢しているのか、なら我慢しよう。

「それで、私からのお願い聞いてくれる。」

「わかった、何をすれば良い?」

「もう少し一緒にいましょう。それだけでいいから。」

少し?そんなの俺が耐えられない。

「わかった、ずっと一緒にいよう。」

2番が微笑みながら頭を撫でてくれる、どうやら講義の結果が出たらしい。

もう頭にはあの声は聞こえない、また聞こえるかもしれないけど2番がいてくれる。

今の頭の中には2番にどうすれば笑わせられるかしか考えてなかった。


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