第9話
「2番、怖かったな‥、なんであんなに豹変するんだ。」
2番から処世術を少しばかりの蹴りをくらいながら、正座で学んだこの二時間。
「キジも鳴かずば撃たれまいか、なぜ何度も繰り返して言ったんだ?」
2番の講義は、まずは話した事を褒めてくれた。
しかし、その後は言っても良いこと、ならない事などの判別方法から始まり。
なぜか、秘書さんとの関係と1番をどう思っているか、最後に2番の好みについて。
「悪いこと言ったんだろうが、わからない、途中まであんなに優しかったのに。
もう5時だしとりあえず帰ろう。」
2番は「まだ教える事があるけど、今日はここまでね。‥次は首輪でもつけようかしら‥」っと、言っていたがここの購買には首輪を売っていないので恐らく大丈夫だろう。
思い返すと、操作室での事件からまだ二日しか経っていなく、まだはっきりと覚えてる。
あまり思い出したくないが、やはりあの状況は危なかった。
「‥あいつは、今どうしてるか‥。」
5番は一昨日から実家に引き取られているらしいが、昨日でも今日でも警察から話を聞かれているだろう。
こっちは助けが来なければ、どうなっていたかわからないんだ、普段のあいつを知らないが正直もう会いたくない。
「考えてもしょうがないな、もう会うこともないだろうし。」
式まで後、20日間。
それが終わり、春休みが開けると、俺は三年。
「卒業まで後、一年か‥。」
いよいよ、この学校との最後の1年が始まる。
退院から二週間と数日、卒業式までの最後の土日。
他校だと、もう自由登校で授業への参加を強制されないだろうが、この学校はほとんどが内部進学のため、大半の三年の生徒が授業を受けていた。
むしろ、実家に帰らず高校の寮への引っ越しや、部屋の掃除と忙しなく学校内を動いていた。
「俺たちも後一年で、引っ越しか。」
今、俺たちは寮の学食で朝食を取っている。
「そうだね。しかも後、半年ぐらいで新しい寮への手続きで棟を選ばないといけないし。」
基本的には二人部屋の寮だが、中等部での経験で高等部は一人部屋が良いという生徒が、多く生まれたため、学校側が学内に寮というよりホテルのような個人部屋専用の建物を幾らか建てていた。
「早く決めないと、二人部屋にされちゃうし、できれば皆んな同じ棟が良いね。」
「当然だよな。高等部で今更、彼女でも出来ない限り新しく仲良いやつなんて出来ないしな。」
内部進学がほとんどの為、例えクラスが変わろうとも人間関係はそのまま継続される。
場合によっては他校からの入学生もいるらしいが、それもほとんどいないらしい。
「お前はどうなるんだ?よく知らないけど、学術都市にも寮とかあるんだろう。」
「俺は、爺さんが投資用に買った部屋を使う事になってる。写真すら見てないけど、見取図だとかなり部屋も多くて悪くないみたいだな。」
「いいよなー。部屋を買ったて事は学校関係ないんだろ?彼女が出来たら誘えるじゃんか。」
コイツはそればっかだな。
「それにしても、忙しいそうだな先輩達。俺なんてせいぜい着替えと、教科書と私物の筆記用具しか持ってないのに。」
どうにも妙だ、俺は行こうと思えば今日にでも引っ越せるが、先輩達は異常なぐらいに朝から走り回って荷物を運んでいる。
「は、ははぁ。そうだな、お前はそういう奴だよな‥。」
ん?なぜか6番が乾いた笑いをしてくる。
「だって、そうだろ。持ち込みが許されてるのは、それぐらいだろ。」
「私物が少ないってのはこういう時便利だな、俺は耐えられないけど。」
「僕は、今からでも荷物を整理しておかないと。」
「僕も今度帰る時に、いくらか持って帰るかな。」
なんだ?3人共、そんなに物があるのか?
「お前は、外でいろんな楽しみを知るべきだな。」
6番が悟ったように言ってくる。
「なんだよ?お前達、まさか持ち込み不可の」
「さて、俺は朝練に行ってくるか。」
「僕も実験器具の確認をしてこなくちゃ、破損があったら大変だし。」
「じゃあ、僕は放送部で会議をしてくるよ。4番君後でね。」
三者三様で、散らばって行った。
「6番ならまだしも、科学部と3番もか。人は見かけによらないな。」
6番は漫画とかだろうが、科学部はなんだ?あいつまさか部屋で実験とかしてないよな、卒業前に何もないといいが。
3番は、持って帰ると言っていたので、恐らくは本とかだろうな。
「俺は‥、部屋に何を置こうか‥。」
生活に必要な物は、冷蔵庫などの家電。
「そういえば、テレビとかの家電がついてるらしいな。」
テレビは、スマホの登場によって事故や事件など報道について速度を抜かれているが、やはりまだまだテレビは生活必需品としての価値が大いにある。
「とりあえず、俺も行くか。」
講堂での警察の立ち入りは終わり、進入禁止は解けていた。
そして今日、卒業式での会場の最終判断が下される。
「はい、わかりました。では、準備しますのでこれで失礼します。」
「失礼します。」
1番と2番が、教員棟の一室から出てきた。
「どうだった?」
「大丈夫、中等部の講堂で卒業式をやるそうよ。」
「あっ‥、警察に回収されてた物はまだ返ってきてないけど、備品の代わりが倉庫にあるからそれを使って式をやります‥。」
俺の質問を2番が真っ先に答えて、1番がなぜか残念そうに補足した。
「わかった。僕は委員会に伝えに行くね、倉庫の確認があるから先に行ってるね。」
3番がそれを聞いた瞬間、急いで廊下を歩いて行く。
「私達も急ぎましょう、大まかな流れは変わらなくてももう時間もない事だし。」
「はい、放送委員との調整も、急がないと。」
ここは教員棟、中等部と高等部、幼稚舎と初等部までの教員達が集まる場所で、生徒は一年に一回入るかどうかの棟であった。
今日は卒業式二日前。
今日の最終判断を聞く為に、生徒会の次期責任者が呼ばれて、放送委員の次期委員長の3番も早く結果を知る為にここに来ていた。
「それで、そっちはどうだったの?何か嫌な事を言われたなら言って。私が」
「大丈夫だから、今日来てたのはカウンセリングの先生で、優しい人だったから」
俺は少し前から、病院での診断や事件後の生活について話すようにカウンセリングとして呼び出されていた。
最初の呼び出しでカウンセリングの先生と、あの仏頂面がいたが、仏頂面が「君にも責任があったじゃないか」や、「5番君とは同じクラスで友達なんだから許してもいいじゃないか。」などを言ってきて、カウンセリングの先生も苦い顔をしていた。
その旨を、2番と1番に軽く愚痴ったら仏頂面の態度が怖いくらい軟化し、カウンセリングにも参加しなくなった。
「それより、講堂まで急ごう。生徒会のメンバーも呼ばないと。」
「そうね、急ぎましょう。」
3人で急いで階段を降りる。
「4番君は、生徒会の皆んなを講堂に集めて。私と2番は講堂に急ぐから。」
俺に生徒会を呼んでくるように命令してきて驚いたが2番を見ると、微笑んでいるように見えた。
俺が生徒会のメンバーを連れて講堂に着くと、1番と2番は壇上にいた。
「早速だけど、通しでやってみるから。放送委員にそう伝えてきて。」
2番が生徒会の一人に言い、操作室に向かわせる。
「皆んなは、卒業生の入退場の先導の準備をして。4番君は私の言葉に抜けがないか確認してて、もし私が間違えたりしたらマイクで教えて。」
そう言うと1番は小さいスピーカーを耳につけ、髪で隠し俺には小さいマイクの襟元につけるタイプを渡して来た。
「それは倉庫の中にあったの、4番君とはもう何度もやったから私の苦手な部分はわかるはず、だから私を見てて。」
「何度もやったって。」「苦手な部分って‥。」「1番さんって結構‥。」
生徒会の面々が何か相談している。
何かしらの段取りがあるのだろう、彼らもショックを受けていただろうに。
「頼りになるメンバーだな。」
「ええ、そうね誤解は後で解くとして、1番には内緒にしときましょ。」
「ああ。そうだな。」
1番に内緒で皆んなが練習していたのだろう、俺達の練習みたいに。
それを1番に言うのは野暮だな。
まず、放送委員が卒業生の入場を告げ、生徒会委員がそれぞれの組の前を歩き先導。
着席後に校長や、学校役員の言葉や祝辞に激励など。
そして、次期会長による送る言葉のスピーチ、校歌を歌い、最後に退場。
簡単な流れはこんな所、長くとも一時間半程。
だがこの時間のために二カ月かかった。
「大丈夫、今の所どこも抜けてないから。これは練習なんだから肩の力を抜いて」
「はい!わかりました。」
「練習の成果が出てるぞ、これなら本番も安心して見てられる。」
「は、はい!私も安心して出来てます!」
進行は基本的に放送委員がやるがプログラムの紹介スピーチは生徒会がマイクで行う、そこで1番と2番が交互に話している。2番と交互でやってるとはいえ、事実1番は前とは比べものにならない程、ハキハキと式の進行とスピーチをしていた。
今は放送委員が校歌が最後まで流れるか確認している。
「最後は、校歌と退場だな。」
「はい、私が生徒会を代表して卒業生の先導をして終わりです。」
「今日はこれで終わりそうね。判断が遅かったせいで。」
「そうだな、でもぶっつけ本番にならなくて良かった。」
「ぶっつけ‥?。はい、ぶっつけ本番じゃなくてよかったです。」
ぶっつけという言葉を、初めて聞いたのか、1番は首を傾げた。
「でも、講堂で出来る回数はもうないわね。」
明日は三年生が入退場の練習をするため午前も午後も放課後も使えない。
「どうだった?ちゃんと放送出来てた?」
3番が操作室から降りて会場に入ってきた。
「はい、入退場も校歌もライトも大丈夫でした。」
「よかったよ、少し前まで高等部でやるんじゃないかってヒヤヒヤしてたよ。」
高等部での設備は中等部とあまり変わらないと聞くが実際わからなかった、
しかも、高等部でも練習をしているのだから、本当に中等部はぶっつけ本番になっていたかもしれない。
「今日はもう終了だよね。委員の皆んなに伝えて来るよ。」
そう言うと3番は会場から出て操作室に向かって行く。
「‥放送委員も忙しいそうだな。」
「そうね。」
放送委員は計測もやっていた。
大体はプログラムで決まっているが、入退場の時やそれ以外でも時間がかかった場合に曲を流し続け、手動で音楽を切らなければならない。
ライトにしても俺達が練習している時は明かりは一箇所に当てていたが、本番では動く卒業生に当てて自力で動かさないといけない。
「あーあー、今回の練習は終りましたので全員一度会場に集まってください。」
3番が放送でそう呼びかけると放送委員と生徒会が集まってきた。
集まってきた皆んなを確認して1番が壇上に上がる。
「では、今日の練習はここまでです。明日は講堂を使えないのでそれぞれで練習して下さい。本番もよろしくお願いします、お疲れ様でした。」
1番が代表してそう告げる。
それを聞いた生徒会や放送委員が「お疲れ様でした」っと返事をしてそれぞれ確認の会話をしながら帰り始めた。
「スムーズに出来たね。今回、初めて合同練習とは思えないよ。」
「そうだな、順調に出来たな。」
本番もこうなら問題ないだろう。
「じゃあね、僕は操作室の鍵を確認して帰るから。」
軽く話し3番が帰る頃には、もう3人しか残ってなかった。
「4番、明日も生徒会室に来てもらえる?」
「わかった。朝から行くことにするよ。」
「じゃあ、お願いね。私達これから一度校舎に戻るから。」
「今日はありがとうございました。本番もお願いします。」
2番と1番がそう言うと、会場から出て行く。
「‥‥。」
誰もいなくなり静かになった講堂。
「トラウマか‥。」
心臓が苦しい、目眩がする。
立っていられなくなり、席の一つに座る。
「余計なもの残していきやがって‥。」
もう来たくない、1番と2番にそう言え、なんで俺を呼んだんだって。
頭のどこかでそう聞こえる。
「ただ、あの箱で殴られそうになっただけだぞ、なんで‥。」
講堂の外観では大丈夫だった、控え室でも大丈夫だった。
けど、会場に入るだけで怖くなる、もう操作室には入れない。
頭中の血が凍ったように冷たい、手が震えて力が入らない、足を床から伸びる手が掴んでいるように重い。
頭の中で聞こえる。5番の声と俺自身の声が。
なんでお前がいるんだよ。
ここに入った時から聞こえてた。冷たい頭蓋骨を割りそうな程、頭に響いている。
俺は、二人を‥
黙れ!早く!消えろ!
ずっと聴こえていた、入った時も1番のスピーチの時も。
なんでお前がいるんだよ!
俺は‥
黙れ!黙れ!
消えろ!消えろ!消えろ!
「でも‥、2番も1番も守るって決めたんだ‥。」
凍った頭も重い足も無視する。
「帰ろう。」
この感情も、明後日で終わりだ。
「春休みどこ行くよ?」
「僕は博物館巡りをしたいな。今、古代文明の遺物とかを大々的にやってるんだ。」
「僕は家族と旅行だよ、ポーランドに行って来るよ。」
「俺は、‥わからないが、とりあえず帰る予定だな。」
2番とデートだよ、とは言えない。
「皆んな、いいよなぁ。俺なんか合宿だぜ部活の。」
寮に戻り、風呂に入って夕食も終わり雑談している時である。
もう卒業式を終えたら、すぐに春休み、大半の生徒は実家に帰る筈だ。
科学部は歴史についても興味があるようだ、これは考古学って言うのか?
3番のポーランドはショパンが生まれた国だ、ワルシャワで音楽を聞きに行くのだろう。
「そんなに合宿が嫌なのか?て言うかどこ行くんだ?」
「聞いてくれよ、大学と高等部の人達と一緒にやるんだけど結局この学校で寝泊まりだぜ。」
「‥なんて言うか、いつも通り?」
「まさか!高等部とか大学の奴と試合になるかよ!殺されるわ!」
6番は剣道部だった。
「それを何日も続けるんだぜ、やってられるか!」
「それは‥大変そうだね。頑張って応援してるよ。」
「お前はその時、旅行だろ!俺のことなんて忘れてるだろ!」
否定できないのか3番は笑って誤魔化している。
「博物館って事はチケットでもあるのか?」
空気(興味がない6番の話)を変えるために科学部に聞いてみる。
「うん、そうだよ。親にお願いして、抽選に送ってたんだ、良かったよこれで春休みが待ちどうしいよ。」
科学部は楽しいようで、目当ての文明の事を話してくれるが、内容がマニアック過ぎてイマイチわからない。
「4番君は、どうするの?親との喧嘩は終わったのかい?」
「とりあえず、もうネチネチ言われる事はないだろうな。それに親父達は家にいないらしいし。」
「そりゃー、忙しいだろうよ。お前のとこ旅行会社もやってるんだろ。」
「そうなんだが、両親で旅行に行くみたいだな。」
「お前を置いて行くのかよ。」
「いや、前からこの時期は二人で旅行に行ってるな。だから、俺は一人だ」
大体10日程いないので、ほとんど顔を合わせないだろうな。
「じゃあ、一人で家事をやるの?」
「そうだな、高校生活のためにも一人で出来るようにならないとな。」
土日はお手伝いさんがいるが、恐らく俺に楽させないためにいないだろう。
「じゃあ、ずっと一人?寂しくないの?」
「どうかな、だけど秘書さんが待ってるって‥。」
「秘書さん!?テメェー!俺が苦しんでる時に年上の人とイチャつくきか!?」
6番のセンサーに秘書さんという、言葉が引っかかったようだ。女性とは言ってないはずだが。
「いや、別にイチャつくのは秘書さんじゃなくて‥」
「イチャつくのは秘書さんじゃない?他の子とイチャつくってことかよ!」
ダメだ、どこを掘っても墓穴になりそうだ。事実だけど。
「お前だって、女子部員がいるだろう。その子達と話してろよ。」
「うっせぇよ!もう全員に話かけたに決まってんだろ!でも‥、そういう感じで話すのには準備がいるだろう。」
コイツ、普段は彼女だなんだと言っているがここはビビリか。
「わかった、前の忍び混むってのは女子部員の所に」
全て言う前に6番が消えるように逃げた。
鮮やかだ、もしかしてアイツは剣より忍びの方が向いてるのでは?っと思う程の素早さだった。
それを見ていた、俺たちは顔を見合わせて。
「‥寝るか。」「うん‥。」「そうしよう‥。」
今日の、カウンセリングはどうでしたか?
落ち着いて話せましたか。
今日もゆっくり聞いてくれました。
ありがとうございます、気にかけてくださって。
昼間のカウンセリングの愚痴を2番と1番にした後の、仏頂面の態度が変わり驚いた日の夜
こちらでも対処しました。これからは何かありましたら教えて下さい。
という、連絡がきた。
怖いので2番と1番と秘書さんが何をしたのか聞かない事にしている。
明後日、卒業式の予定ですね。
その後、お変わりないですか?
はい、大丈夫です。
二人にも、もう話ましたし。
話したことは、秘書さんに既に伝えていた。
それは良かったです。
卒業式の成功の報せを待っています。
春休みまで大事が起きないように祈っています。
そこで連絡をやめた。
「明日は、休みだが。生徒会室に朝から行くか‥。」
二人が生徒会室で待ってるらしい。
「‥いや、大丈夫だ。明日は行かないし、明後日も操作室には行かない。」
あの鼓動も、目眩も今は感じない。
「俺は‥決めたんだ。最後まで。」
自分に聞かせるように言葉に出す。
今日はもう寝よう、明日を待とう。
「今日まで、練習を手伝ってくださり、本当にありがとうございました。」
朝、生徒会室に向かうと1番と2番がいた。
1番が、笑顔で頭を下げて感謝の言葉をくれた。
「本当にありがとう。あなたのお陰でここまで来れたわ。」
2番が微笑みながら言ってくれた。
もうこれだけでこの二カ月の苦労が吹っ飛びそうだ。
「それでなんだけど、あなたは明日にも参加するのよね。」
「ああ、そうだな。」
「なら、あなたは舞台の袖で1番の手伝いね。」
「お願いします。私も迷惑かけないように頑張ります。」
昨日の練習を見ていると、俺は必要よう無いように感じるがそれでも。
「わかった、俺に出来ることをやろう。明日は成功させよう。」
「‥はい!」
1番が元気に返事をした、1番はもう迷いがない吹っ切れた顔をしている。
俺も練習に付き合った甲斐があったと思う。
「それじゃ、はいこれ。」
2番が何かの名簿を渡してきた。
「これは、卒業式が終わった時の打ち上げ参加の名簿よ。もう生徒会も放送委員も書いてあるから、後はあなた一人ね。」
1番に2番と生徒会メンバーそして3番の放送委員の名前が書いてある。でも、これは。
「‥いいのか?俺は、生徒会でも放送でも」
「最後まで続けるなら最後まで参加しない?。」
2番が試しているように優しく言ってくる。
1番を見ると、期待してるような目で見てくる。
本来、この空欄にはあの5番が名前を書いていただろう、学校が好きだったのか、学校に所属している自分に自惚れてたのかわからないアイツの名前が。
始まりは2番に誘われた、その後1番にお願いされた、誰かに言われないと俺は何もしなかっただろう。だけど。
「わかった。‥仕方ないな。」
俺は初めて自分の意思で参加したのかもしれない。
9-1
「じゃあ、私は届けてくるから。そっちはお願いね。」
そう言って2番は生徒会室を出て行く、さっきの表を学校側に届けるらしい。
「なら俺たちは。」
「はい、最後の練習です。」
1番のお願いで最後の練習をしたいと言われた、もうスピーチは問題ないと思うが念のためらしい。
今更原稿は必要ないので何も持たないでスピーチをしている。
これで最後か。
別に名残惜しいとか思っているわけじゃない、ただ多くの事があった。
この二カ月何の前振りもなく色々な事が降ってきた。
だが、1番は戦いきった。
俺や2番、生徒会と放送委員に助けて貰いながらも一人で戦った。
傷ついて悔やんでもそれでも立ち上がって同じように倒れた俺に手を差し伸べてくれた。
ならば俺も1番に手を差し伸ばすしかない、何の役に立たなくてもすぐ近くで見届けよう、1番はそう望んでくれた。
「どうでしたか?」
1番のスピーチが終わり感想を聞いてくる。
「素晴らしいよ、何も問題ない。」
無意識のうちに拍手をしてしまった、それぐらい1番のスピーチは完璧だった。
「ありがとうございます。私も自信が持てました。」
自分でも会心の出来だったのか、言い終わった後でも興奮さめやらないらしく肩で息をしている。
これなら大丈夫、心の底からそう感じた。
「4番君。」
ふいに名前を呼ばれて少し驚いた。
「私、最初はひどかったと思います。でも貴方は優しいから何も言わないでくれました。」
「‥‥。」
1番の独白に無言で答える。
「でも、一カ月で二人のお陰で形になりました。私も自分で上手くなってるって感じて嬉しかったです。」
最初の一カ月は試行錯誤の連続だった、俺も2番も勿論1番も並みも努力じゃなかっただろう。
「‥でもあの後、私もうやめようってやめるべきなんじゃないかって思いました。つらいのは貴方なのに私逃げようとしたんです。」
「‥そうか。」
事件直後の1番は確かに心ここにあらずだった。
知らなかった、1番はそう思っていたのか。
「それでも‥私。楽しかったんです、あの練習が。何も出来ない私を二人が守ってくれて嬉しかったんです。」
楽しかったか。1番にとってあの練習は楽しい思い出なのかもしれないな。俺も楽しかったから1番にあそこまで付き合ったのかもしれないな。
「だから、私貴方にお願いしたんです。助けてって、貴方はそれに答えてくれました。なんの見返りもないし苦しませてしまうかもしれないのに2番もそう言ってのに。」
もしかしたら1番と2番は気づいてたのか、俺の事を。
「でも貴方は何も言わないで私を助けてくれた。私はもう怖くないです、貴方がいてくれるから。だから最後までお願いします。私を見守ってください。」
会った時には考えられない自分勝手なお願い、でもこの子は俺が必要だと言ってくれた、あの事件から立ち上がるチャンスをくれた。
なんだ、もう決まってたじゃないか。
「そうだな‥。俺も今更やめる気は元からない。明日は見守るよ、俺はそれだけを頑張ろう。」
簡単な事だ、1番のスピーチを見守るそれだけでいい。
「はい!お願いします。」
1番がそう言ってくれる、俺も答えよう明日この笑顔に。
「怖くなったら言ってください、私がいますから。いつでも貴方を守ってみせますから。」
嬉しかった、俺は誰かに守ってもらえないといけない人間だ、こう言ってくれる人がいる。それだけで俺は立ってられた。
「それで‥ですね‥あのえっと‥。」
「どうした?」
1番が急にモジモジし出した。
この光景は前にも見た気がする、あの時は1番が頭を抱いてくれた。
「あ!あの!」
「お、おう。」
急な声に俺はなんとか返事をする。
「あの!ひざまくら好きなんですか!」
急な攻撃に頭がパンクしそうになった、なぜ知っているのか。
「それは‥」
「答えてください!」
「はっはい!。」
1番の怒号にビビり正直に答えてしまった。
「なら‥こっちに。」
そう言うと1番はあの時の2番と同じように座った。
「いいのか?」
「はい、大丈夫です‥」
もしかしたら俺以上に緊張している1番から許可が出た。
ならばと1番の足を枕にする。
「わぁ‥ど、どうですか。」
これはすごい、2番とは違い頭がどこまでも沈むようだ、しかし足には少しながら筋肉があり柔らかく頭を支えてくれる。
しかも1番の胸が微かに頭にあたりこれがすごくいい。
「どう、どうですか!」
「‥もっとここにいたい」
隠せない、もう正直に言うしかない。
「そ、それは良かったです。」
想像以上に恥ずかしいのか1番は微かに震えているが、その度に俺の頭に胸が触れて頭が沸騰しそうになる。
「あの!頭を撫でてもいいですか?‥」
っ!ここまでしてくれてしかも頭も撫でてくれるのか!
「おっお願いします‥。」
そう言うと1番は震える手で頭を撫でてくれた、気持ちいい。
「わぁ‥思ったより頭小さいんですね。」
少し慣れてきたのか遠慮がなくなってくる、悪くない。
「ふふっ、いいみたいですね。4番君って甘えん坊ですね。」
甘えん坊か、自覚はないがそうかもしれないな。2番に甘える時を考えると確かにそう言われても仕方ないように感じる。
「気持ちいいですか?」
そう聞かれるとなぜか恥ずかしくて返事が出来ない。
「なんで答えないんですか?」
少し1番の声に余裕が出てきた、ドキドキする。
「どうですか、いいですか?ふふっ」
1番は無自覚でやっているのか胸が顔に乗っかった、これは足と胸でホールドされているみたいだ。
「もう、ふふっ答えないとやめちゃいますよ?」
「気持ちいいです。」
正直に答えた、もう完全に1番に主導権を握られたが、それも悪くなかった。
「正直ですね。ふふっ可愛い。」
今思うと1番は意外といじめっ子体質なのかもしれない、俺に対してだけ。
しばらく1番にひざまくらからをしながら頭を撫でてもらって眠りそうになったところで。
「そろそろ帰りますか。」
そう言うと1番が軽く体を叩いてきた。
「もう時間ですし、このままじゃ寝ちゃいますね。」
やっぱり気づいてたのか、本当はもう少しこのままでと思ったが1番は撫でるのをやめてくる。
「そうだな、もういいかな。」
俺自身ももう大方満足したので、素直に1番の足から離れる。
「今度はもう少しゆっくりしましょうね。」
1番が優しく言ってくる、2番とはまた違う約束の言葉に心臓が一つ強く鼓動した。
「あっああ、そうだな。」
「ふふっ」
さっきまで1番の膝の上の寝ていたのに急に恥ずかしくなり1番に背を向ける。
「じゃ、じゃあ俺戻るから鍵よろしくな。」
「はい、任せてください。」
そう言って逃げるように生徒会室から出る。
明日までに1番の顔を正面から見れるようにならないといけなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます