第67話 マルちゃん、ご帰宅

 バイロンと一緒に竜人族の二人に付き添って、村長さんのお宅を訪問した。強盗は誤解だったと伝える為だ。単なる変な人達だけど、本人の前で言うのもねえ。

 私だけじゃなくバイロンも一緒にいてくれたから、ちゃんと信じてもらえたよ。やっぱり話に説得力がある。これから彼らがこの村に通っても怖がられないよう、皆に周知してもらう約束も取り付けられた。これで安心だね!


「ではこれで失礼します」

「バイロン様、いつかウチに遊びに来て下さいね~」

 竜人族の愉快な兄と弟が、バイロンに挨拶をして去って行った。本当に退屈してるんだなあ。

 二人と別れてから、今度はニーナとニコルの所へ向かう。 

 姉弟はブラックベリーを籠に半分ほど摘んでいて、これからお家でジャム作り。お姉ちゃんのニーナはお母さんを手伝って何度か一緒に作っているから、今日は私が生徒だよ。ベリーのジャムなら毎年作っていたけど、黒いのは初めて!

 いつもは採ったら終わりになるニコルも作ると言ってくれているし、皆で楽しくジャム作りをしよう。


 ブラックベリーのヘタを取ってきれいに洗い、ヘラで潰す。それから濾して種を取り除いて、砂糖をたくさんまぶす。お鍋で混ぜながらトロッとなるまで弱火で煮て、レモン汁を加えて終了!

 甘い香りがする、滑らかな赤黒いジャムはとても美味しそう。搾りかすはジュースになるよ。

「明日の朝はパンにこれを塗りましょう!」

 綺麗に仕上がって、満足なニーナ。

「楽しみだなあ。あとは冷めてから瓶に移すのね」

「冷めると硬くなっちゃうんで、冷たくなる前に入れますよ」

 そうなのかあ。気を付けないとね。

 マルちゃんも、そろそろ帰って来るかな。食べさせてあげたいね。


 ずっとバイロンが居てくれて嬉しいんだけど……、マルちゃんに怒られるのに慣れちゃったのかなあ。優しすぎてくすぐったい。

 狼姿のマルちゃんが戻って来たのは、次の日になってからだった。バイロンが家に馴染んでいて、驚いていた。

「マルちゃん来たの~!?」

 早速ニコルが廊下をバタバタ駆けて来る。ニーナも後ろから覗き込んだ。

「お帰りなさい、マルちゃん」

「話があるから、お前達は出ていろ」

「え~! マルちゃん、やっと帰って来たのに! 遊ぼうぜ」

「もふもふしたい……」

 ニコルとニーナはごねてたけど、しばらくもふもふしてから自室へ戻ってもらった。私も一緒に、もふもふしてた。普段はさせてもらえないんだもん。


「マルショシアス君は、子供にも人気だね」

「勘弁してください……、子守りはソフィアだけで十分です」

 私は子供じゃないよ! バイロンは笑っている。

「ソフィアの実家の様子はどうだった?」

「それなんですがね……」

 マルちゃんが言うには、実家はお母さんの継母が牛耳っていて、その息子夫婦は宝石には関心がないみたいだったとか。息子なら、私のお母さんの義理の弟だね。

「その継母が龍を呼びたがっていて、ソフィアを連れてくるよう命じていた。近い内にヤツらがまた来る」

「え~……、あの人達また来るの?」

 静かに聞いているバイロンを見上げた。どうしたらいいんだろう。


「……マルショシアス君は、どうしたらいいと考えている?」

「はい。実家へ行き、龍が呼べないと証明すべきかと」

「呼べるよ?」

 バイロン来てくれちゃうよ。と思ったんだけど、マルちゃんは呆れ顔。

「考えろよ、お前。渡したロケットの宝石では呼べないだろう。そもそもバイロン様に来ないで頂けばいいんだ。強制力はない」

「そっか、形だけ呼ぶフリをして、失敗したことにしちゃえばいいんだ!」

 なるほど。バイロンに来ないでもらえば大丈夫だね。それから、私が名前を呼ばないように。六歳で別れているんだもん、覚えてないで通せるね。


 うんうん、バッチリ!

 さあいつでも来い、実家の執事よ!

 ……まあ、あと一日二日は掛かるよね。大変だなあ、あの人達。何度もこの家に来ているみたいだし、来る度に嫌がられるわけだし。これで終わりになるといいな。

 話し合いが終わってのんびりしていると、扉をドンドンと乱暴にノックされた。

「姉ちゃん達、お話終わった? 一緒に寝ようぜ、マルちゃんと寝たい!」

 弟のニコルだ。そろそろ就寝の時間かな。

「あ、ズルいニコル! 私がマルちゃんと寝る」

 ニーナまで。マルちゃんは本当に好かれているなあ。

 

 バイロンは客室へ戻り、ニーナとニコルが一緒にこの部屋で寝る。二人はマルちゃんに間に来てもらって、仲良くシェアしていた。

「がが、尻尾を引っ張るな!!」

「尻尾もふさふさ~」

 マルちゃんは尻尾をニコルの手から引っ張って外し、ぶんぶんと振り回す。薄い掛布が足元に飛んだ。

「ニコル、マルちゃんをイジメちゃダメだよ」

「俺が人間にイジメられるか!」

 せっかくニーナが注意してくれたのに、どうやらプライドを刺激したようだ。

 ……楽しそうだなあ。


 久しぶりにマルちゃんと一緒の朝!

 ……という気がしている。離れてから数日しか経ってないのに。マルちゃんはバイロンに気遣って騎士姿になろうとしたけど、子供二人の為にまだ狼姿でいるよ。

「皆で作ってくれたジャムは、美味しいねえ」

 お婆さんはすごく喜んでくれている。私も気に入ったよ!

「ブラックベリーのジャムって初めてですけど、美味しいですね」

「ソフィアお姉ちゃんと作れて、楽しかったです」

「ああ、いい味だね」

 バイロンが褒めると、ニーナは照れくさそうに頬を赤らめた。

 二人の両親も、笑顔で見守っていた。


 今日はまだ来ないだろうから、畑のお手伝いをする。先生の塾でも家庭菜園くらいはしていたから、少しは経験があるよ。

 村の人の畑を手伝って、野菜を貰う。そしてそれをおかずにするんだ。

 午後から仕事をしていたら、途中でお婆さんが飲み物とお菓子を持って来てくれて、皆で休憩。

「いいお孫さんがいたのね」

「うふふ、ソフィアが訪ねてくれて、私も嬉しいわ。亡くなったお爺さんの分も一緒にいたいから、長生きしなきゃねえ」

 私の噂話をされると、照れるなあ。

 村の人達は私のお父さんの事情は知っていたから、何も尋ねないでいてくれた。もう亡くなっていたってことは、皆に知れ渡っているのかも。



 ついに実家の使いがやって来たよ。

 もう一度来ると知っていたとなるとおかしいから、驚いたフリをしなきゃいけない。彼らが来ることは、家族には教えていない。

「またお前達……、もう用は済んだんじゃないのか?」

 家の前に着いた馬車を目にするなり、嫌そうな顔をする叔父さん。

「……大奥様の命令だ。ソフィアという娘に、邸宅まで来てもらう」

「ソフィアを!? 今度は何を企んでいる、この娘に危害を加えるつもりなら許さないぞ!」

 叔父さんは玄関で執事達を家に入れないよう、立ち塞がってくれている。

 マルちゃんがまず、後ろから声を掛けた。


「……落ち着け。まずはどのような要件かを聞いて、判断しよう」

「こちらは悪魔の方でしたな。実は、あの宝石で龍が呼べるか実験をしたいだけなんですよ。彼女は召喚師でしょう、力を貸して頂きたく」

 前回話を丸くまとめてくれたマルちゃんが出たので、執事がホッとして表情を緩めた。聞いても貰えないんじゃ、交渉が出来ないもの。

「そんな危険な真似を、ソフィアにさせるのか!?」

 内容を聞いて、叔父さんは更に怒ってしまった。

「だーかーら、落ち着け。あんなひよっこに、龍なんて呼べると思うか? やれば気が済むなら、やらせてみればいいだろうが」

「その通りだ! 現れた前例もないし、呼べなくても仕方ない。成否は問わないんだ、身の安全も私が保証する」

 うんうんと頷く執事。命令をされているから、とりあえず私を連れて行きたいだけで、彼も龍が呼べるとは考えていないね。

 ちなみにバイロンは万が一にも気付かれないように、彼らが来たと気付いた時にここから離れている。


「……しかし、こちらには何のメリットもない」

 意地悪く髭をいじるマルちゃん。

「勿論、お礼はする。日数分の賃金と、移動中の食事なども全て支払うし、希望の物があったら言ってくれ。金でも宝石でも交渉に応じるよう、申し渡されているんだ」

「まず一つは、これ以上この家に関わらないこと。あと金銭的なことは、移動しながら話し合うか」

 執事は大きく頷いて叔父さんを見た。

「解った。どの道これさえ済めば、大奥様も興味を無くすだろう。私達も本心を言えば、これ以上何度も行かされるのは御免だからな。次に何か命令されても、取り引きをしたから無理だと、諦めて頂く」

 やったね、約束を取り付けたよ! さすがマルちゃん。


 叔父さん達に、また帰って来るから大丈夫だよと伝えて家を後にした。

 執事が乗って来た馬車に私も同乗させてもらって、お母さんの実家についに乗り込むぞ~!

 おー!

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