第4話 エピローグ
「全く無茶苦茶しましたね」
「ついはしゃぎすぎてしまった」
やることを終えたあと、大統領は神の元へ帰ってきた。
驚くことに、神は最初に会った時に比べて筋肉がついていてガッシリしていたのだ。
「しかし、まさか私が魔王と戦っている間にここでは5年経っていたとはな」
「この5年間、私はひたすら筋トレに励みました。どうです? 中々のものでしょう?」
そう言って神はモストマスキュラーのポーズをとって鍛えた筋肉を見せつける。
大統領程ではないが、少なくともジムでトレーナーを務める事はできそうだ。
「いい筋肉だ。しかし上半身に偏ってしまっているからもう少し下半身を鍛えてバランスを取った方がいいだろう」
「なるほど、参考にしましょう」
心做しか性格も変わっている。筋肉は性格を変えるのだ。
「それはそれとして、実は今度腹直筋と結婚するんですよ」
「ほう、それは目出度いな。馴れ初めは?」
「私が一目惚れしてそのまま勢いで、初恋でした」
「結婚式には呼んでくれ」
「えぇ是非、そうだ今回の報酬をあなたの執務室に置いておきましたよ。プロテイン一年分」
「それはありがたい。喜んで頂戴しよう」
「では大統領、さようなら」
大統領は振り返っていつの間にか存在していた扉を潜る。来た時と同じく真っ白な光に包まれ、そして……光が収まると執務室に戻っていた。
携帯端末を見ればトラクターを受け止めたあの時からまだ一時間しか経っていなかった。
「む、これか」
机の上にダンボール箱が置いてある。上面に「賞味期限を考えて少しずつ毎週送ります」と書かれたメッセージカードが貼られていた。
「早速いただこうか」
箱を開けて、早速中のプロテインをシェイカーに移してドリンクを作る。それから勢いよく飲み干した。
「これは……
――――――――――――――――
とある世界のとある記事にて。
数十年前、魔王戦役と呼ばれる大戦があった。一人の強大な魔王は世界の国々をあっという間に蹂躙していき、人々を恐怖と絶望に落とし込んだ。
これに対し国々は国境を超えて連盟を結び、10万人に及ぶ大軍を編成して魔王討伐に向かった。
多くの犠牲を出しながらも何とか魔王を滅ぼし、辛うじて人類は平和を取り戻したのだ。
だが、本当にそうだろうか?
本当に魔王は倒されたのだろうか?
疑問に考えた我々はかつて10万人の軍勢を率いていた元隊長に話を伺った。するととんでもない話を聞けたのだ。
「あいつは死んでない、そもそもあの戦いは我々の敗北だったのだ」
それは一体どういう事ですか?
「魔王は、たった5分で10万人を打ち倒したのだ。あれは人が手を出していい存在じゃない、恐ろしい」
なんと、では何故魔王はそのまま世界を滅ぼさなかったのでしょう?
「知らん、だが奴はその10万人を一人として殺してはいない、手加減していたのだ。そんな奴が本気を出せばおそらく人類は数時間で滅ぼされていただろう」
なんと恐ろしい。見逃してくれたのが奇跡ですね。
「奴は10万人を倒した後、こう叫んだ。『お腹が空いたから帰る。もうこの世界に用はない』と、奴にとってあの戦争はお遊びだったんだ」
それから元隊長は恐怖のあまり身体を震わせるばかりで、それ以上何も語ろうとしなかった。
我々記者は更に、その魔王と面識のあるという人物に出会った。広背筋が翼のようになってる男だ。
「あれは魔王なんかじゃない」
なんと彼は元隊長とは違う見解を述べた。
「俺も一度しか会って話したことはないが、あいつは魔王と呼べる存在じゃなかった」
では何だと思いますか?
彼は少し微笑み、それから力強い憧憬の視線をこちらに見せてこう言った。
「大統領だよ」
〜異世界大統領 完〜
異世界大統領 芳川見浪 @minamikazetokitakaze
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