第68話 収穫祭の模擬店

 授業して決裁して種の判別をして。

 おまけに部下である教員や寮監の勤務評定も定期的につけなければならない。

 秋の授業開始からそんな感じで色々振り回されている。

 おかげで収穫祭に関する学校関係の指導は他の先生方にお願いするしかない。

 まあその辺は先生方皆さんわかってくれているけれど。

 秋になってからは俺とイザベルは平日は稼働しっぱなしという感じだ。

 あまりこの状況が続くと前世の二の舞になるよな。

 つまり社畜・メンヘラ経由泥沼直行便だ。

 幸い安息日はしっかり休んでいるし大司教方も皆様協力的なので何とかなっているけれども。

 でも来年度はもう少し教員の数を増やして貰おう。

 寮監の先生もあと3人は欲しいところだ。


 そんな厳しい日々を続け、やっと種の選別が一通り終わったと思うと収穫祭。

 雑務が忙しすぎた俺やイザベルはほとんど関わっていない状態だ。

 なので皆さんが何をやっているのか楽しみでもあり不安でもある。


 取りあえず祭りの開始時に校長として挨拶をして、その後スタートだ。

 まずは学校長として生徒の出し物を重点的に回ってみるべきだろう。

 そんな訳でいつも通りイザベルと2人で巡回開始。

「まずは3組の方から見ていくのですよ」

 心臓に悪くない方からという提案、了解だ。


 行ってみるとなかなかいい。

 木工や陶芸、布類等の作品展示兼即売会だ。

 茶碗や水差し、木製のお玉や生活用具の小物が中心。

 小さくて可愛い小物も結構ある。

 微妙に場違いな分厚い炒め物鍋は……やっぱりグレタちゃんだ。

 なかなかいい感じに出来ているなと思った直後、俺の背後にいた一般客にささっと買われていった。

 確かに一般的な商品よりも安いけれど物は悪くない。

 そう思うと色々お買い得だ。


「ちょっとこれが可愛いので買っておくのですよ」

 イザベルが陶器製の小さなネコを2個購入。

 ちゃんと色がついていて三毛猫とキジトラ白猫とわかる。

 これで1個正銅貨5枚500円ならいいかもしれないな。

 俺もここで手ぬぐい4枚を正銅貨4枚400円で購入。

 教団配給品より絵柄や手触りがいい感じだったから。

 改めて見ると思ったより一般客がいる。

 近くの村とか町とかからも結構来ているようだ。


 2組はある意味お約束の模擬店だった。

 メニューは飲み物が牛乳と茶色い麦芽飲料でホットとアイスがある。

 食べ物はクレープ風のもので、卵と小麦粉を牛乳で溶いた生地を焼いたものに色々挟む形式だ。 

 挟む物は水飴&バターなんて甘い物からポテトサラダ&パストラミなんてがっつり系まである。

 俺は甘党なので麦芽飲料ホット水飴入りと水飴&バターのクレープを注文。

 うん、どっちもなかなかいける。

 麦芽飲料はほどよく香ばしくてちょっと甘めでいい感じ。

 クレープはまさに俺の好みで甘さとバターのコクがよくあっている。

 ちなみにイザベルは冷たい牛乳にポテトサラダとパストラミ入りクレープ。

「なかなか美味しいしお腹にちょうどいいのですよ。教団の昼食にも採用して欲しいのです」

と結構満足気だ。


「さて、ここからは気合いを入れていくのですよ」

 イザベルにもこの先が危険という事はわかっているようだ。

 2年1組の出し物も模擬店らしい。

 それも食べ物屋のようだ。

 看板に『奇食屋~あなたの常識と胃袋に挑戦!~』とある。

 非常に嫌な予感、ビシバシ。

「なあイザベル、このまま見なかった事にして回れ右するという案はどうだ?」

「その方がいい気がしてきたのですよ」

 二人の意見が一致した。

 さて回れ右しようとした時だ。


「校長先生、副校長先生。ようこそいらっしゃいました」

 キアラちゃんに見つかってしまった!

「さあ、どうぞどうぞ」

 有無を言わせぬ感じでテーブル席に案内、もとい連行される。

 中は結構人が入っていた。

 それも圧倒的に若者が多い。

 時々聞こえる『うわーっ!』とかいう声。

 何が起きているか考えたくない状態だ。


 ささっとクロエちゃんがやってくる。

「校長先生、副校長先生、ようこそおいで下さいました。こちらがメニューになります。お決まりになったらお声がけ下さい」

 メニューを見てみる。

  ○ チーズサラダ(特製チーズ使用)……正銅貨3枚300円

  ○ 黒いパスタ……正銅貨5枚500円

   (ナッツ?の香りが香ばしいイチ押し)

  ○ 押麦パエリア……正銅貨5枚500円

   (厳選材料入り。味だけは保証)

  ○ おつまみフライ……正銅貨2枚200円

   (見てのお楽しみ。小指大が10個)

  ○ おつまみ茹で物……正銅貨2枚200円

   (フライより小さめ。最上級者向け)

  ○ 豆珍味……正銅貨1枚100円

   (上級者向け)

  ○ 口直し用牛乳……正銅貨1枚100円

   (妙な混ざり物なし。一般的な牛乳)

  ○ お得なセット……正銅貨7枚700円

   (サラダ、パスタ、パエリア、フライ、豆珍味、牛乳)

  ○ カップル割……小銀貨1枚と正銅貨2枚1,200円

   (セット2人前におつまみ茹で物追加) 


 うん、非常に嫌な予感がする。

 ここは牛乳だけを頼んで逃げるのが正解だ。

 俺はそう理解した。

 理解したのだけれど……


「これはおそらくカップル割がお得なのですよ」

 こらイザベル、そこに引っかかるんじゃ無い!

「パスタとパエリアを2人前ずつたのむとそれだけで小銀貨2枚2,000円なのです。そう考えると非常にお得なのです」

 イザベルやめろ。

 これは孔明の罠だ!

 そう思ったのだけれどもだ。

「はい、カップル割ですね。承ったのです」

 アウロラちゃんが横でそのまま注文を取りやがった。

 油断も隙も無い。

「あ、俺は……」

「カップル割1つ、校長先生と副校長先生分お願いします!」

 問答無用でオーダーを通しやがった。


 仕方無い。

 処刑場前で待つ死刑囚のような気分で何が出るかを待つことにする。

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