クラゲ虫が湧く、十二月

作者 詩一@シーチ

液体と化した感情の行き着く先はこの箱庭

  • ★★★ Excellent!!!

恋人(?)の美羽花はある日、別の物体になっていて――。
『僕』は変わり果てた美羽花に対して、どんな振る舞いをするのか。

端的に書けば、本作の着想とシナリオラインはこのようになります。
そして『僕』視点で語られる本作。その文中では、『僕』の自語りによって『僕』と美羽花がどのようにして現状に行き着いたかという説明がなされます。
なされる……のですが。

わたしはこのレビューの冒頭、「恋人」に「?」をつけましたね。

そうなのです。『僕』と美羽花は恋人なのかどうか、わからないのです。
そもそも『僕』にとって美羽花は何者なのか、どのような関係になりたいのか。また、美羽花にとって『僕』は何者なのか、どのような関係にたどり着きたいのか。ものすごく自語りで説明されている……その説明は非常に丁寧で細かいにも関わらず、二人の関係と未来がまず見えてこない。きっと読者は色々と考えることでしょう。想像、妄想。詩一氏の優れた文章に酔いながら、思考の海を漂い続ける。なんで「バカ」っていう置き手紙があったのか……もう冒頭から考え続ける。まんまと詩一マジックに乗ってしまったわけです。類い希なる場景描写力はあなたととりこにし、『今あなたがいる場所』や『物語中のセカイそのもの』から浮遊させます。
そしてわたしは……ついにこう考えるに至ったのです。

『僕』と美羽花は、分離された箱庭の中に生きていることに。

『僕』の美羽花への接し方は『僕』にとって当然だし、美羽花もその接し方をある程度予想している。そして主体を美羽花に変えてもそれは同じ。
本作、二人が、二人だけの感性で生きる箱庭的セカイを描いているのです。
……と、勝手に思っています。
ああ、と気づきます。
だからこそクライマックスはあのシーンだったのか。あのシーンでなければならないのかと。
必然。
味噌汁の味噌や具が、小一時間で沈殿していくように。
ごちゃごちゃになっていた思考と世界は、ただ二つに分けるだけで全てが必然の物語として繋がります。

『僕』と美羽花 の世界。
『僕』と美羽花以外 の世界。

ちょっと変わった、明るく切なく、ちょっと不気味な箱庭。
あなたもここへいらっしゃい。
え。そんなの見たことないって?
なぁに、怖がっちゃだめよ。

男女の仲とはすべからく、この物語と同一なのですから。

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