ねっとりねとねとした黒い彼女と醗酵臭

自分の不勉強もありますが、「こういうお話です。読んだらこういう気持ちになりました」という感想を書くことが難しいお話です。
そこにあるのは、生々しい感情と、リアルな日々の生活や関係性。そして、ねばねばの海苔。

男女の関係性、とりわけ主人公が彼女に対して抱く思いが伝わりやすく描写されていて、まるで自分もその体験をしているかのような臨場感がありました。
型にはめにくいもの型にはめることなく、そのまま描写する技術の高さに引き込まれ、一気に読了しておりました。
海苔の佃煮がやけに女性的でなまめかしく感じられました。これも描写力の高さゆえだと思います。

型にはめにくいものの一例は人の感情です。必ずしも「嬉しい」「悲しい」などと明確に分類されるものではない。ごちゃごちゃしていて曖昧だったり、いくつも入り混じっているのが自然なのではないか。それをありのまま描写しているところに、この短編の凄味があるのではないでしょうか。
人間の関係だってそうです。例えば恋人、片思い、友達、セフレ、夫婦、無関係。そんな一言に当てははまらない男女の関係もあるのでは……。傍から見てそれが純粋で健全な好意で結ばれただけの関係性に見えなくても(実際にそうであっても)、周囲の者があれこれ口出しするのは野暮なことなのかも……。その人にとってはそうあるのが当然のことなのかもしれないのだから。そんなことを読んでいて思いました。

謎めいた最後の言葉の解釈といい、読んだ人それぞれがそれぞれに違った感想を抱くことのできる、万華鏡のような小説ではないかと思います。

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