【145本目】ノマドランド(2020年・米)【ネタバレ注意】

 こういう文芸的要素を秘めた映画と、商業大作のモンハンが同日に上映されてる光景っていうのが、映画館で映画を見る醍醐味だと僕は思ってます


【感想】

 劇場公開初日に見に行った映画で行きます。

 昨年度のアカデミー賞でも6部門にノミネートされ、早くも最有力とのうわさもささやかれている映画です。(対抗馬も【Mank/マンク】とか【ミナリ】とか強豪だけど)


 本筋は、普通の一戸建て住宅やマンション、アパートなどを住居とせず、車で移動しながら定住とは無縁の生活を送る【ノマド】の生活を描いた物語です。

 主人公・ファーンはリーマンショック以降、住んでいた家を手放し、車で移動しながら生活を続けている恒例の女性です。


 この映画、僕には【シェーン】などで古くから見られる、ハリウッド映画によくいる風来坊がどのような老後を過ごしたのか、みたいな映画ファン間で長らく語られてきたであろうテーマの答え合わせにも見えました。


 しかしそれ以上に自分の頭に浮かんだのは、1992年の映画【リバー・ランズ・スルー・イット】のブラッド・ピット演じる主人公の弟でした。

 【リバー~】では大自然豊かなモンタナ州の中で自由奔放に生きる弟の姿が、故郷を離れて出世街道を歩む兄の主人公とは対照的に描かれます。同作では大自然はそのまま神の象徴であり、神との対話として釣りが神聖なものとして描かれますが、自分らしく生きる弟に対する主人公の目線も、ある意味で自分よりも自然=神と調和している存在なのではないか、という神聖視の視点を孕んでいます。


 資本主義とはほぼ無縁な生活ながら、一般市民よりも大自然に寄り添って生きている(どこかの湖で行水してるシーンなんか象徴的ですね)【ノマドランド】のノマドたちも、どこか神聖的な存在として描かれています。ノマドへの視点は、ある種のアメリカ人の大自然それ自体に対する畏敬の念が込められているようにも見えました。


 また、古くは【ミシシッピー・バーニング】、最近だと【スリー・ビルボード】みたいな、米国のニューヨークやロスの華やかな都会とは異なる田舎に生きる女性を演じてきたフランシス・マクドーマンドが主演だからこそ、よりノマドとして生きる主人公が神聖的な存在に見えたのかもしれません。


 他、【グッドナイト&グッドラック】で激渋イケオジを演じたデヴィッド・ストラザーンが、今作では子供も孫もいる老人でありながら思春期のように悩む等身大の男性を演じていたのも印象的でした。


【好きなシーン】

 挙げていったらキリがないですけど、特にエグいなと思ったのは久々に訪ねた姉の家で、【不動産は今ねらい目】みたいな信じられない会話をしてる身内を見て「マジかよこいつら……」みたいな顔して見てるシーンですかね。

 かたやそれきっかけで家を追い出されてるのに、かたやそんなことがあったことも忘れてのんきに不動産投資に目を付けようとしているっていう描写。血を分けた姉妹でもここまでリーマンショックに対する影響が違うのかって、ある意味背筋が凍りました。


 あと後半のどこかだったと思いますが、ファーンが人っ子一人いない町を歩いている途中、アベンジャーズ上映中の文字列が看板に並んでる映画館を見つめるシーンも印象的でした。劇中でMCU映画の名前が出てくる映画はこれまでにも何回か見ましたが、あんな哀愁漂う空気の中で【アベンジャーズ】のタイトルを見ることになるとは思いませんでしたよ……

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