【59本目】リトル・ミス・サンシャイン(2006年・米)

 いや確かにオリーブは美人とはいえないけど他の出場者の女の子たちもルックス的には微妙じゃなかったか……?


【感想】

 郊外の一戸建ての家に、家族みんなで暮らすという暮らしが、1950年代のアメリカ人にとっては普通の生き方でした。しかし1960年代以降、個人の生き方が重視されるようになる中で、家族の絆なんてものはただの幻想なんじゃないか?という考え方が徐々に広まっていきます。1980年の【普通の人々】や1999年の【アメリカン・ビューティー】は、それを映像の中で象徴した作品と言えるでしょう。

 21世紀にはいるとインターネットなどや携帯電話の登場でメディアの個人化みたいな流れも進んだりして、家族の絆と言う概念はますます希薄なものになりつつあるかもしれません。

 今回紹介する【リトル・ミス・サンシャイン】はその流れの中で、【それでもやっぱり、家族は素晴らしい!】と叫んだ映画と言えるのではないでしょうか。


 2006年のアカデミー賞で作品賞含む4部門にノミネートされ、うち助演男優賞(おじいちゃん役のアラン・アーキン)、脚本賞を受賞したこの映画では、ミスコンと言う女の子の憧れを通じて、一つの家族が再生していく光景を描いた物語になっています。


 郊外で一家団欒の生活をする人生が1980年代の時点で普通じゃなくなった、という話は上にも書きましたけど、じゃあもう家族なんてどうでもいい、個人として好きなことを追求していけばいい!という結論に達したのが、【アメリカン・ビューティー】でした。


 ただ家族に縛られずに、個人としての生き方を追求するのって、まだまだ難しいんですよね。それは社会からの抑圧がどうとかじゃなくて、他人と比較したり、自分の過去を振り返ったりすると、急に「自分はこれでいいのかな?」って自信がなくなったりするわけですよ。

 そういう悩める個人に対して、【そういう時こそ、家族がお互いに支えてあげればいい】という、家族の新しい存在意義をもたらしたのが、この映画と言えるでしょう。

 オリーブに対しておじいちゃんが【負け犬とは、負けるのが怖くて挑戦しない奴のことを言うんだ】と語るシーンは、正に【個人を支え、応援する家族】というこの映画のテーマを象徴したような名場面でした。

 フランクがドウェインに対して【どんなにつらい経験でも、今の自分を形成してくれた大切なものだ】と語るシーンも然り。


 ところでこの映画2006年の上映なんですけど、あと三年、下手したら一年でも公開が遅かったら、って考えてしまいますね。2009年とかの公開だったら、絶対あの大会でのオリーブのダンス動画がYoutubeにアップされて、ミスコン優勝者どころじゃない人気を勝ち得ていた、なんてシナリオになっててもおかしくなかったはずですからw


【キャラについて】

 1stガンダムで、前半で皆あんまし仲良くなかったホワイトベースのクルーたちが、割と誰からも好かれていたリュウさんの戦死を契機に結束を深めていく流れが大好きなんですけど、【リトル・ミス・サンシャイン】の流れも非常にそれに近いですよね。

 食事に集まる時ですら気まずい崩壊寸前の家庭だけど、そんな中で誰ともきさくに接するおじいちゃんは正に陰から一家をつないでいた人物でしたし、そのおじいちゃん仕込みの形容しがたいダンスによって、バラバラだった家族が再び一つになるという流れは、一本の脚本として芸術的ですらありました。


 あと親父のやたら勝ち組負け組を強調するキャラは【アメリカン・ビューティー】にいたアンジェラと一緒で、負け組に近い立ち位置だからこそ虚勢を張ってTEDにたまに出てきそうな意識高い人間を演じている、という、アメリカの資本主義における【勝ち組】【負け組】思想みたいなものの病理を描いたようなキャラでしたね。


【好きなシーン】

 クラッチの呼称したバスをみんなで押して速度が出たら飛び乗る、という劇中で何度も繰り返されるシーンは、崩壊寸前の家族の数少ない共同作業って感じで好きなんですよね。あの作業のシーンを繰り返すことで、徐々に家族が再生されていく様が表現されてるんですよね。

 フランクの「僕は全米一のプルースト学者だぞ!」という劇中で2回発される台詞が、1回目と2回目で全く意味合いが異なってるのもベタだけど好きですw

 ドウェインも最初嫌々だけど後半やる気出してたみたいに見えたけど気のせいかな?


 でもそれ以上に、オリーヴのパフォーマンスで退室者続出、審査員のおばさんもやめさせろと喚き散らす一方で、ミス・カリフォルニアのお姉さんは終始動じず笑顔だったところに自分めちゃくちゃ感動したんですよね……本場に生きる人間の懐の深さというか、多様な価値観みたいなものを見せてもらえた気がしましたよ。


 


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