【48本目】オズの魔法使(1939年・米)
今から【ジュディ・虹の彼方に】に向けてテンションを挙げていく。【スタア誕生】も見たい。
【感想】
1900年に出版され、大人気を博したライマン・フランク・ボームの児童小説【オズの魔法使い】を、【風と共に去りぬ】のヴィクター・フレミングが実写映画化した作品です(調べたらあの映画と同年に公開されててたまげた……どんなモチベーションやねん……)。ちなみに正式な邦題は【オズの魔法使い】じゃなくて【オズの魔法使】だそうですので、オズの魔法使い警察と話すときはご注意ください。
当時まだ超珍しかったカラーフィルムを効果的に使用するわ、上映から80年以上経過しているにもかかわらずその辺の高校生でも一度は聞いたことある名曲【虹の彼方に(Over the Rainbow)】を初めて世に出すわ、主役・ジュディ・ガーランドがこの映画で一躍トップスターの座に躍り出るわ、1939年のアカデミー賞で6部門ノミネート、3部門受賞するわで、【風と共に去りぬ】ほどではないものの十分すぎる伝説を当時のハリウッドに残した作品です。
全編通して楽しいミュージカルが展開されるファミリー映画ですが、この映画が製作された理由の一つが、これまた伝説の映画【白雪姫】だそうです。戦時中のアニメ映画製作者が【ファンタジア】とか見て「あ、負けるな」って思ったっていう逸話はたまに聞きますけど、戦前に日本人がこれらの作品を見た、みたいなエピソードってないのかな。少なくとも映画人が見てたら「絶対戦争しちゃダメだ」って思いそうなもんだけど。
脚本はというと、ベタベタな展開(というか、この絵本がそのべタな展開の元祖なんだろうな)だからこそ、それが心地いいです。旅の仲間たちの「欲しくてたまらなかったものは、とっくに持っているものだった」っていうオチも、ベタだから視聴後感のいいおとしどころって感。
ただ劇中で、当時の倫理観が今とは全く異なってたんだなってのを思い知らされるシーンがいくつかありましたね。
ドロシーの家につぶされて圧死する魔女とか、今だったらマンチキンの誰かが【事故死か……奴の最期は事故死……】って呟いて重苦しい空気になりそうなもんなのに、あんなに大騒ぎでドロシー歓迎パレードやっちゃってんのw色鮮やかな絵面で完全に映像としては魅力的なんですけども、それはそれとして現代の価値観と明確に齟齬を感じさせる場面でしたよ。
でこの映画、ずっと後の時代に太平洋の向こうの国で大ブームを巻き起こす異世界召喚ものが、大昔から人気のコンテンツだったということがよくわかる映画でもあります(まあこれ以前にもアリスとかガリバーとかありましたが)。
今深夜にやってる異世界アニメとかだとそもそもあの世に未練が全くなかったりしますけど、この映画で異世界に飛ばされるドロシーは終始元居た世界に戻ることを目的としているのが一周回って新鮮ですね(でもオズの魔法使いの正体とかはかなりなろう主人公の老後的だな)。
ただ最終的に【家が一番!】というメッセージを掲げてるのに、劇中曲で一番有名になったのが【虹の彼方に】というどこか遠くの世界へ行きたいと願う歌、という事実は、ちょっと考えさせられますね。家が一番は行ってもああいう異世界行けるものなら現実から離れて行ってみたいんだよ!というファンの反応が見事に表れた結果、というか(そう考えると現実世界が味気ないモノクロ、異世界が鮮やかなカラーっていうあの映画の映像構成もなんか象徴的だな)。
【キャラについて】
動くカカシ。動くブリキ人形。喋るライオン。他にも小人、魔女、空飛ぶ魔女の部下、と普通の人間が一人もいない。そんな空間だからこそ、何の変哲もない少女であるドロシーが主人公であることに重要な意義が生まれますね。よく【どんな人にも共感を持たせやすくするために主人公は個性控えめに】なんてのがキャラクター創作論では言われたりしますけど、異世界ものの場合個性控えめな主人公の視点で物語が展開するからこそ、異世界の異世界っぷりが際立って見える、という利点も理由としてあるんでしょうね。
ライオンが【ライオンなのに喋る】→【喋るライオンなのに臆病】っていう感じで、【ギャップの二段構え】みたいなキャラクター造形も、より興味、親しみを持たせようとした結果って感じですごい、なんか、創作の参考にできそうです。
【好きなシーン】
モノクロの世界で竜巻が周囲を荒らしまわった後、ドロシーが何気なく扉を開けた先に、色鮮やかな魔法の世界が広がっていた……という例のシーンは、1930年代のハリウッド映画で最も美しい場面の一つではないですかね。ドロシーが【何気なく】扉を開くっていうのがポイントで、扉を開ける直前まで気を抜いていた視聴者はその先に待っている色彩の洪水に度肝を抜かれること請け合いです。カラーフィルム映像の印象的な見せ方では、【白雪姫】に圧勝だったと思いますよ。
後は脳みそを求めるカカシ、心を求めるブリキ、勇気を求めるライオンに対して、教授が「君たちはとっくにそれを持ってる」的なことを言いつつも、学位証書やメダルなど【オブジェクト】を与えて手に入れた気にさせてあげるくだりかな。作品自体が孕む優しさが、このくだりに表れていたような気がして。
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