【64本目】シカゴ(2002年・米)

 ふたりはプリキュアを原作放送の2年前に実写リメイクした映画、などと意味不明な供述をしており……


【感想】

 昨年上映された【ジョーカー】で、貧困と無理解の中に生きる主人公が、【狂ってるのは俺なのか?それとも世界なのか?】という自問自答にふけるシーンがあります。この映画や【ファイト・クラブ】や【タクシードライバー】など、定期的にこれ上映して大丈夫なの?と思わせるようなインモラルな映画が公開されることがありますが、そのたぐいの映画の主人公たちは常にこの自問自答に囚われています。


 今回とりあげる【シカゴ】は、ある意味でそれらの映画を完全に凌駕してしまった作品だと思っています。

 なぜならこの映画で自問自答にふけるのは登場人物たちではなく、【狂ってるのはこの映画なのか?それとも見ている僕らなのか?】と考える我々だからです。


 2002年のアカデミー賞で見事作品賞を受賞、そのほか11部門にノミネートされ、5部門を受賞するという超好成績を残したので、ある意味でこの映画はこの年を代表する映画といっていいでしょう。


 僕は基本的に映画はあらすじを見ないで、広告だけ見て行くか決めるタイプなんです。そっちの方が驚きがまして面白いからって理由なんですが、この映画も軸となる展開とか、元ネタになった劇とか全く知らない状態で視聴し始めました。だからパッケージデザインや冒頭の数分で、「あ、なるほど。このレニー・ゼルヴィガーがショーガールとしてスターダムにのし上がる物語で、キャサリン・ゼタ・ジョーンズは彼女のライバルなんだな。リチャード・ギアはまだ出てこないけどプロデューサーとかかな?」なんてベタな作品像をイメージしてたんです。


 しかし10分くらい経過したところで、なんとヒロインが不倫相手の男性を殺してしまうではないですか!亭主の用語もむなしく彼女は刑務所に入れられるという展開に、啞然としつつも一気に引き込まれました。

 で、そっから更に15分くらい経過して、ロキシーと同じ囚人たちが踊りながら殺人の過程を語るミュージカルパートに入り、「囚人たちをスターに見立てて、獄中生活を描くミュージカル映画かな?」と思ってたんです。

 しかし中盤で、物語は獄中を飛び出して裁判所や一般社会をも巻き込む物語へと展開していきます。弁護士ビリーのサポート(プロデュース?)によって記者会見で一気にマスコミに注目されます。

 で、そこから人一人殺しているロキシーが、その犯行ゆえに絶世のアイドル・流行の最前線として扱われるという異常な展開!殺人犯の女性が一般社会でスターとなることを登場人物の誰一人として疑問に思わない世界観を見せつけられ、滅茶苦茶キマってるな!!最高!!!!って思わされました。


 しかし一方で、このキマってる登場人物たちは、現実社会の暗喩なのかもしれないな、って考えもしたんですよね。ママ・モートンが割と序盤の段階で「シカゴでは殺人は市民の娯楽の一つさ」とさらっと本質を漏らしますが、秋葉原殺傷事件ややまゆり園殺傷事件なんかに対する反応を見ればわかりますけど、僕らが生きてる社会だって、犯人を半ば芸能人のように消費していることはある意味で変わりないんですよね。アメリカじゃテッド・バンディなんてスター的な人気を勝ち得てしまったシリアルキラーまでいたくらいですし(エド・ゲインとかもそうか)。

 そういうことを振り返ってからこの映画を観てみると、ある意味【シカゴ】の登場人物たちは完全に狂っているとは言い切れないですし、むしろ悪趣味な自分をごまかさずに生きているという点で、現実世界の我々よりもまともかもしれない。上で書いた、【狂ってるのはこの映画なのか?見ている僕らなのか?】っていうのは、そういうことなんです。


【キャラについて】

 上記の通り登場人物が全員頭いかれてる映画なので、その時点でキャラクターと言う点では申し分ないんですが、面白いのはロキシーとヴェルマという、いわば主人公とライバルの共通点と相違点ですよね。

 二人とも人殺しのスター、という共通点がありながら、ヴェルマは物語が始まった時点で人殺しと人気獲得の両方を達成しています。対してロキシーは物語が始まった時点では、まだデビューもしていなければ人も殺していない、ヴェルマに憧れるだけの素人といった具合ですね。より視聴者が感情移入しやすいロキシーと、憧れであり超えるべき壁のヴェルマ、というアイドルアニメ的なキャラクター設定ですね(マクロスFのシェリルとランカがこの二人に近いかな?)


 そして劇中では、劇場型の裁判でロキシーが人気を勝ち得る一方で、ヴェルマの影が薄くなって行ったり、ロキシーの無罪判決を妨害するためにヴェルマが証言台に立ったりと、アイドルものと法廷もののベタ展開を通じて二人の殺人アイドルが殴り合う映像が展開されます。世界観がキマっているからこそ、キャラ設定や展開がベタと言うか王道なのが絶妙なバランス感覚ですね。


 そんな風に火花を散らすような対立をしつつ酸いも甘いも経験してきた二人だからこそ、終盤で二人とも落ちぶれた後にユニットを組む、というラストにはベタベタながら感銘を受けるわけです。

 正に【お互いピンチを乗り越える度、強く近くなるね!】【Your best! my best! 生きてるんだから、失敗なんて、メじゃない!!】って感じの二人ですよ。


【好きなシーン】

 ハイな世界観自体を楽しむ映画なので、特にここが好き!というシーンは見当たらないんです。

 ただ上にも少し書きましたけど、囚人たちが殺人の過程を喋りつつ「自分は悪くない!!」と言い訳すらせず開き直っているさまは、ワンダーウーマンやブラックウィドウとは全く異なる【女の強さ】を見せつけられた気がしましたね。テレビドラマ版リメイクだかで、あの6人+ロキシーがアイドルユニット組む展開が見たい。


 あと1930年代のトーキーニュース映画っぽいトーンで、ロキシーがトップスターであり流行の最先端となっているさまが映される中盤のワンシーンは、白黒映像の汚さと早送りっぷりが当時のニュース映画の再現って感じでリアルすぎたので、【映像の世紀】とかで流れるニュース映画に性癖(?)を刺激させられる身としては非常にツボでしたw


 ちなみに主人公・ロキシーの吹き替えは松本梨香さんです。

 びっくりするくらいセクシーな吹き替えをしてるので、サトシしか知らない人にぜひ見てほしいですね。

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