【41本目】国家が破産する日(2018年・韓)

【感想】

 本日(2月10日)、2019年度のアカデミー賞の結果が発表されました。見事作品賞に輝いたのは、外国語映画では初の受賞となる、ポン・ジュノ監督の【パラサイト-半地下の家族-】でした。

 同映画でテーマなっているのは、【上流家庭と下流家庭】【経済格差】です。この映画がまず韓国で大ヒットしたのも、階級格差のリアルさが観客に響いたことが大きな理由としてあると思われますが、じゃあなんでかの国で格差が重大な問題になったの?という問いに適切すぎる答えを与えているのが、この経済映画・【国家が破産する日】です。


 最初に書いてしまうとこの映画でテーマとなる1997年のアジア通貨危機で韓国の失業者は130万人を超え、更に自殺率は前年比42%を超えました。

 つまり史実の悲劇を描いた物語なのでバッドエンドルート確定の映画であり、決して見た後前向きになれるような作品ではないのですが、それでも韓国本国では12日間で260万人もの動員を記録する大ヒット映画となりました(韓国版アカデミー賞こと青龍映画賞でもチョ・ウジンが助演男優賞を受賞、ほか2部門ノミネート)。


 立場の異なる三人の主人公を描く形で物語は進行していきますが、どの主人公のパートでも繰り返しテーマとなるのは【経済危機では銀行もマスメディアも信用できない】【経済の危機になっても国家は何もしてくれない】という救いのないメッセージです。

 この作品のような韓国の社会派映画では、さほど昔でもない時代の政府をボロクソに批判する、という日本映画では(クレームやら何やらで)できないようなことをビシッとやってのける光景は珍しくありません。


 それに加えて、国連の専門機関であり、権威ある組織のはずのIMFが、いかにろくでもない組織であるかを訴えている、という点が、この映画独自の強みとなっていると思います。映画では【オーシャンズシリーズ】【ブラック・スワン】にも出演した名優ヴァンサン・カッセル演じるIMFの専務理事がいかにも説得力あるような感じで韓国銀行に選択を迫ってくるのですが、主人公の一人であるチーム長は、ある大国の人物と訪韓していたことを見破ります。過去の韓国政府を批判する韓国人の自己反省的映画と見せかけて、国際機関や他国をも臆することなく批判しているところに、この映画の思い切りの良さが表れているような気がします。

 日本で【国家が破産する日】が公開されたのと同時期くらいにIMFが日本に更なる消費税増税を提言してきたなんてニュースが流れてきましたけど、この映画を観た人であればその提言は絶対に間に受けちゃいけない!とほぼ反射で思うことでしょう。


 ただ国家の悲劇を描くだけだと陰鬱なだけの映画になりそうなところを、ユ・アイン演じる金融コンサルタントのパートで、ある種のカタルシスを感じさせる構成になっているところにも、独特のバランス感覚があるって感じで唸らされました。

【マネー・ショート-華麗なる大逆転-】を彷彿とさせる金融コンサルタント率いるあの3人のパートには、【誰かにとってのバッドエンドは誰かにとってのハッピーエンド】という残酷ながら当然の法則と同時に、【経済危機が静かに進行している状況では、結局信じられるのは自分一人】という、これぞ自由主義経済って感じのメッセージも体現されていたように思います。


【好きなシーン】

 もう後半のホ・ジュノ演じる工場長のパートはかわいそうすぎてみていられなかったですよ……信じていた国や銀行に裏切られて、終盤である人物への頼みも断られてしまうという福本漫画に出てきそうなレベルの悲惨な境遇。

 ラストを見る限り最悪の選択はしなかったようで、まあその辺でちょっとした救いはありましたが。


 あとキム・ヘス(調べてびっくりしたけど、この方アラフィフなんだ……若さがリサリサ様の域じゃん)演じる韓国銀行の通貨政策チーム長が、性別ゆえの差別発言を受けていたのも興味深かったですね。1990年代はまだまだそういう時代だったっていう事実をさりげなく、それでいてリアルに表現した印象深いシーンでした。

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