【5本目】ヒアアフター(2010年・米)
【あらすじ】
誰もが一度は抱いたことがあるこの問題をめぐって、年齢も住む場所も違う三人の人生はそれぞれの形で揺れ動いていた。
東南アジアの津波で死にかけて以来、死後の世界を意識するようになったフランス人記者のマリー・ルレ。
交通事故で死んだ双子の兄を忘れることができず、里親との新しい生活にもなじめない少年・マーカス。
死んだ人間と会話できるという能力を持て余し、孤独に暮らす青年・ジョージ。
それぞれ異なる環境で、異なる悩みを抱えていたはずの彼らの人生は、【死後の世界】という一つのテーマを軸に意外な形で絡み合うことになる―――
【感想】
この映画は、2010年の映画を対象とした第83回のアカデミー賞で、視覚効果賞にノミネートされています。同年同部門のノミネートがどんな作品群だったかというと、【インセプション】【アイアンマン2】【ハリー・ポッターと死の秘宝part1】【アリス・イン・ワンダーランド】とCGを最大限に駆使した派手な映像美がスクリーンを彩る作品がそろっています。
それらの作品に比べてこの【ヒアアフター】は、演出面でも世界観のスケールでも、それらの作品群に負けていないとは言い難いです。正直言ってしまうと、上記の作品群に混ざるとかなり浮いています。
ならばなぜ、この年の視覚効果部門にノミネートされたのかというと、定期的にほんの一瞬だけ映る【死後の世界】が持つ神秘性に、その理由があったといっていいでしょう。
この映画のほかにもクリント・イーストウッド監督作を観ている、という方ならご存じでしょうが、彼の監督する映画ではあっさりすぎるくらい人が簡単に死にます。多くを語るとネタバレになってしまいますが、70年代の西部劇から2000年代のヒューマンドラマまで、彼の映画が人死にに関してはかなりシビア、ということは間違いないでしょう。
ですが、そのような死の描写はリアルと言えばリアルです。現実でも災害や交通事故などで、彼の映画以上にあっさり死に目に合うことは珍しくありません。
本作の主人公の一人のマーカスという少年は、愛する人間が突然の死に見舞われたとき、何にすがって生きていけばいいか、というテーマを体現する人物と言えるでしょう。フィクションの世界だと若いうちに両親が死んでも里親に愛されて元気に育つ、というパターンは珍しくないですが、マーカスの場合はそういう風に単純にはいきません。ドラッグ中毒の母親からは引き離され、里親や学校にもなじめず、亡くなった兄のことが忘れられずにいる彼にとって救いになるのが、【死後の世界】でした。
終盤、ジョージ(マット・デイモン)との出会いで【死後の世界】とそこにいた兄・ジェイソンとの対話で、マーカスはある程度の救いを得ます。そこで一瞬映った【死後の世界】の神秘性は、ぼんやりとしていながらも、天国の光のような救いと癒しをはらんでいました。(書いてから思いましたけど、あの世界を強調するために全編通して現実世界のシーンが薄暗いんですね)
いろいろな新興宗教やら何やらによって、何かと悪いイメージのついてしまいがちな【死後の世界】の話ですが、その世界が本当に存在した場合、それによって救われる人間もいるのではないか?というテーマをこの映画は持ち合わせています。そういう意味では大げさかもしれませんが、発達する科学技術の中で人々が唯物主義に陥りがちで(僕も若干そうです)、【死後の世界】などを話題に出せば一笑に付されそうな昨今の社会に、一石を投じた映画とも言えるのではないでしょうか。
【好きなシーン】
公開時期(2011年2~3月)的にトラウマをフラッシュバックさせる人が出かねない、という理由で同作が日本で公開中止となる原因となった、冒頭のあまりにリアルすぎる津波のシーンも印象的ですが、個人的にさらに印象的だったのは、出版予定の本の内容が原因でジャーナリストの仲間たちとの間や恋人のディレクターとの間に不和が生まれたシーンでしょうか。
ジャーナリスト仲間からしてみればミッテランに関する本を執筆してくるはずだったのになぜかスピリチュアル本持ってこられているわけだから当然と言えば当然ですがw、それほど彼女にとって津波による臨死体験が衝撃的だった、ということがあの本の執筆に現れているシーンでもあります。しかし【死後の世界】に執着しすぎるがゆえに元々の仲間たちとの関係に亀裂が走ったことも事実であり、【死後の世界】はマーカス少年に与えたような救いを誰にでも与えるわけじゃないんだよな……と思える場面でした。(間接的に、災害の被災者と非被災者の間の齟齬を描いているようにも見えます)
来世の人間と対話できる能力ゆえに孤独に苦しみ、自らの能力を呪いとすら考えていたジョージや、彼の能力によって親とのトラウマを掘り起こされるメラニーなど、【死後の世界】が救いではなくむしろ呪いとなる人物はマリー以外にも描かれています(むしろマーカス少年のように単純な救いとなった人物の方が珍しいような?)人によってかの世界の存在は救いにも呪いにもなる、という展開は、イーストウッド監督(および製作のS.スピルバーグ)のベテランならではのバランス感覚を見ているようでもありました。
あとイーストウッド映画を見ていて改めて思いましたが、彼の映画の序盤や終盤で流れるアコースティックギターのメロディは本当に心癒されます。一生懸命生きた人間に対して、結果が良くてもダメでも肩をポンと叩いてくれるような安心感があのメロディには詰まっているような気がします。
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