第55話 魔人の能力、ホラーです。

「ご主人様、こっちっス!」

「鈍器スキル【ぶちかまし】!」


 カーン!


「今度はあっちっス!」

「鈍器スキル【飛びつぶて】!」


 チュォォォン!

 

「この人も、一緒にいる人もそうっス!」

「鈍器スキル【千本釘】!」


 ズ鈍鈍鈍鈍ドドドドォオオオン!

 

 まさに水を得た魚。私達は街を駆け回り、次々と偽者を退治していきます。

 

「この……!」


 偽者のほうも、最初は叩くまで人間のフリを続けていましたが、それでは騙せないと気づいたのでしょう。次第に見つかった瞬間から剣やナイフ、あるいは魔法で対抗するようになります。

 

 が、残念!

 

 そんなもの、鈍器の前では無駄! 圧倒的鈍器力が、人間もどきを駆逐していきます!


「ふはははははは! 私の鈍器にひれ伏しなさーい!」

「ご主人様、カッコいいっスー!」

「そうでしょう、そうでしょう! カードなんて軽くて薄っぺらなものが、重厚なる鈍器様に勝てるはずがないのです!」

「みんなどいてくださいっス! 鈍器姫、ハンマー・ハンナのお通りっスー!」

「あ、そのあだ名は言わないで……!」


 上がりきってたテンションが一気に下がりましたよ。その通り名、ほんとどうにかしたいです……!


「な、なんなんだ一体……」

「テロ? テロなの!?」

「ひえええええ……。な、殴らないでぇ……!」


 う、ううむ。

 

 妙に楽しくなってしまってたせいで、ヤバい人に思われてしまいました。

 

 勝負についてご存知な方は応援してくれますが、全く知らない人は明らかに怖がっています。

 

 すみません……。もっと地味に倒したいとも思うんですが、鈍器を使っている時点で無理なんですよね。スキルを使わなくても、ハンマーで脳天をぶっ叩くことになりますし……、人様に与える恐怖度では大した違いはありません。

 

 ただ、怖がられた甲斐もあって、午前中のうちに集めたカードは7枚。二日目開始時点でのセシルの枚数に追いつきます。どうやら魔力感知で偽者を探すより、ガレちゃんの嗅覚のほうが効率がいいみたいです。このペースで行けば、余裕で勝てます!

 

 ――そんな風に考えていた時間が、私にもありました。

 

「むー、マズいですね……」


 順調に行っていたカード集めですが、お昼を過ぎると陰りが見え始めました。ガレちゃんの嗅覚をもってしても、なかなか偽者が発見できなくなり、ペースがガクンと落ちてしまったのです。

 

 多分、あらかた偽者を狩りつくしてしまったのでしょう。私達、セシル達、そしてスラッドさん。三手に別れて偽者を倒しているのですから、無理もありません。もしかしたらスラッドさんは飲んだくれているだけで、全然集めてない可能性もありますが……。


 そうこうしているうちに、完全に日が暮れてしまいました。集まったカードは11枚。午前中の7枚に比べ、午後に入ってからは4枚。ペースダウンは明らかです。


「うーん。いったん、ギルドに行ってみます。ガレちゃんは先に店へ戻っておいてもらっていいですか」

「了解っス!」


 元気よく応えて、店のほうへ走って行くガレちゃん。

 セシルがどれだけ集めたのか気になります。同じようにペースが落ちているとありがたいのですが……。

 

 冒険者ギルドに着くと、そこにはセシル、ローゼリア、それにスラッドさんが揃っていました。揃っているといっても、テーブルは別々。セシルとスラッドさん、仲が悪いですからね。


「よっ、ハンナちん。カードは集まってるかい?」


 スラッドさんの顔は真っ赤です。これはだいぶ前から酒を飲んでいますね……。偽者退治、本当にやっているんでしょうか?

 

『俺っちに倍以上の枚数差をつけられたらダメ』とかキメ顔で言ってましたけど、こんなんじゃむしろ普通に勝ってしまいそうです。


「ハンナー。どんくらい集めたか、枚数教えてよ。ギルドのみんなも、興味あるみたいだし☆」


 椅子にもたれながら、ローゼリアがニヤニヤと声をかけてきます。確かに、みんなの注目が私に集まっているのを感じます。相手の枚数を知るには、自分のほうもさらさなきゃいけませんよね。


 私は鞄から集めたカードを取り出し、手元で拡げてみせます。


「11枚です」

「……ふん、一日でよくそこまで行ったものだね。やっぱり油断のならないやつだよ、キミは」

「そういうセシルはどうなんですか?」

「15枚だ」


 私に対抗して、カードを拡げてみせるセシル。


 うわあ、結構集めてますよ。今日一日での枚数は勝ってますけど、ここに来ての4枚差は痛いです。


「おー、このまま行くと俺っちの連れはセシルちんか。意外な展開」

「意外なものか。ボクの勝利は最初から決まりきったことさ」


 自信たっぷりなセシル。今回はローゼリアの魔力感知に頼りきりなクセして、偉そうに。まあ私もガレちゃんに索敵はお任せしちゃってるんで、人のことは言えませんが……。


「ハンナちんは、こうなったら魔人ダウトの本体を倒すしかないかもねー」


 グラスに注いだ酒をグビリと飲みながら、スラッドさんが言います。


「術者本体……! そいつもやっぱりティアレットに来ているんですか?」

「ああ、そりゃ間違いないね。こんだけの量の偽者を操ってるんだ。絶対近くにいるって。……でも隠れるのが上手いんだねえ。俺っちもまだ見つけられてないんだよ」


 いやあなたはここで酒を飲んでいるからでしょう……、というツッコミはぐっと抑えます。

 

「本体を倒してもカードが手に入るのかい?」

「そりゃそうでしょ。よく考えてみてよセシルちん。ダウトは偽者を作るのにカードが必要なんだから、たくさん持ってるって。それこそ、セシルちんがよく言う『決まりきったこと』じゃん?」


 なるほど。確かに一発逆転を狙うのであれば、悪くない手です。

 

 問題は魔人を見つけられるかどうか、そして――倒せるかどうか。

 

 魔人とは、魔物を束ねる者。邪神が生み出した、戦闘に特化した生命体です。


 どれだけ弱い魔人でも、Aランク冒険者になってようやく互角に戦えるかどうか、といったところ。邪神直下の四天王クラスにもなると、特A冒険者であるスラッドさんやレイニーが、四、五人でパーティを組んでやりあう相手となります。

 

 魔人ダウトは四天王の配下ですし、多分魔人としてそれなりに強い部類に入るはず――


「ちなみにだけど、ダウトは魔人のなかじゃ、あんまり強いほうじゃないよ」


 スラッドさんは私の考えを読んだみたいです。

 

「そうなんですか?」

「ただね、やり口がくそほど厄介。やつの作り出す偽者は『元々存在していない人間』だけど、やつ自身は『本物の人間』をカードに変えて、いつのまにかすり替わっちまうんだな、これが」


 え……、なんですかそれ。

 

 じゃあ友達とか、知り合いとかが、いつのまにか別人に入れ替わってるかもしれないってことですか?

 

 しかも、四天王配下の魔人に?


 怖ッ!

 

 私の『通り魔・鈍器アタック』がぬるく思えるくらいホラーなんですが……。


「いくら姿形が同じでもさー、話してみればすぐに別人だってわかるんじゃないの?」


 口を挟んできたのはローゼリアです。


「ふーん。ちなみにローゼちんはどうやって見破るつもりなの?」

「表情トカ、喋り方トカ、話す内容トカ、色々あるじゃん? アタシ、セシルが偽者になってたら、見破る自信あるよー。だって親友だもん☆」


 スラッドさんに対し、妙になれなれしいローゼリア。昨日の時点は敬語を使っていたはずのに、もうタメ語になってますよ。でも、スラッドさんも注意しないですし、違和感も全然ないですね。チャラい者同士で波長が合っているからでしょうか……。


「うんにゃ、魔人ダウトはカードにした人間の記憶を丸っと引き出せるからな。そんなトコじゃボロ出したりしねーのよ」

「えー、なにソレ……。コッワ―い! それじゃ親友でもわかんないの?」

「わからんわからん。【白昼夢】の居城攻略のときにも、俺っち達の仲間のひとりにすり替わってたことがあってよー。そん時はレイニーが看破してくれなきゃ全滅してたな――って、なんでハンナちんが嬉しそうなんだ?」


 あ、頬が緩んでいるのバレました?


「いや、やっぱりレイニーはすごいなあーと思って」

「ああー、そういやハンナちんはレイニーファンなんだっけか」


 ファンっていうか、娘みたいな存在なんですけどね……。まあ、今話すことでもないので否定はしないでおきます。

 

 難度Aクエストへの同行を勝ち取ったら、そのとき説明しましょう。レイニーが最近どうしているかもちゃんと聞きたいですしね。

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