第39話 この人達と共闘ですか?

 橋の建設に協力しながら、レイニーについて考えます。


 私を育ててくれた人。私にとってのお母さん。


 私の本当の親は、魔物に殺されてもういません。まだ赤ちゃんだったから、顔も、声も、名前すらも覚えていません。


 それでも私が親子について語れるのは、レイニーが実の娘のように愛してくれたからです。彼女と一緒にいて、孤独を感じたことなんて、ただの一度もありませんでした。


 会いたいです、レイニー。会って、お母さんと呼びたいです。


 失って初めてわかるものがあります。レイニーと暮らしていたときには知らなかった寂しさが、時折私の胸に降りかかってきます。


 今回は特に容赦ない孤独が責め立ててきます。きっと、ガレちゃんとワイズの関係を目の当たりにして、余計にレイニーがどれだけ私を愛してくれていたか思い知ったのです。


 その気持ちを紛らわすように、私は作業に没頭しました。そしてルドレー橋の建設現場に来てから、早くも五日が経過しました。


「…………で、で、出来たあー!」


 疲労困憊になりながらも、大工さん達が歓声を上げます。私も力が抜け、その場に尻餅をつきました。


 できあがった橋は木と石と金属、その全ての素材を活かしたものになっています。

 

 橋の付け根は、前回の橋を活かした石造り。壊された中央部分には木製の橋を新たに架けました。

 

 石と木が切り替わる部分には鉄柱を建て、三角形に鎖を張って、木造部分を支えています。これで馬車が何台通ろうと、重さに耐えられるはずです。


「祝杯を上げるぞー!」

「今回はハンナ先生のおかげですごい速度で完成したぜ!」


 元気ですね、大工さん達。私は金属の加工はもちろんのこと、最終的には橋そのものの建築にも協力したので気力がついていきません。


 時刻はまだお昼過ぎ。魔物はいつも夜に出るそうですから、しばらくはダラダラしていられるでしょう。

 

 そう思って川べりの芝生にごろんと寝転がると、近づいてくる足音がしました。


「――とても冒険者には見えないな。肉体労働者に転職でもしたのか?」


 あー、せっかくの達成感を台無しにする声が降ってきましたよ。

 

 ぱちりと目を開けると、やっぱりそこにいたのは憎たらしくも美しい、鎧を纏った青髪の少女です。


「なにしに来たんですか、セシル」

「ふん。お父様から橋を守るように命じられたんだよ。キミがいると知ってたら来たりしなかった。決まり切ったことさ」


「へええ。じゃあ今からでも帰ってもらえません? 橋を守るのは私ひとりで充分ですから」


「本当に? さっき大工から聞いたけど、キミが来てからも橋は壊されているらしいじゃないか」


「だからそれは到着してたとは言えないタイミングだったんですって! 全く、大好きな『お父様』に認められたくて必死なのはわかりましたが、必要ないのでティアレットに戻ってくれません? ファザコンさん」


「はあ?」

「はああああ!?」

 

 睨み合う私達。割って入るのはいつものローゼリアです。


「まあまあ、ふたりとも。仲よくしようよー。せっかく同期が集まったんだからさあ」


 また虫のいいことを言ってます。誰でしたっけ、在学中に私を馬鹿にしまくってたの。


「ま、よく考えたらこれは僥倖だね。どうせキミ、本当は魔物の味方なんだろう? だったら、ボクが来なきゃまた橋は壊されていたわけだ」


 うわ、さらっとすごいこと言い出しましたよ。この女の偏見は底なしですか?


「もしくは魔物と結託して、退治したと見せかける茶番を用意してるのかな? 残念だったね。ボクが来たからにはそうはいかないよ」


「馬鹿言わないでくださいよ。なんでわざわざそんなことしなきゃいけないんですか!」


「ふん。まあ、魔物が現れれば化けの皮もはがれるだろ。そしてキミが欲しがっている魔物退治の名誉は、ボクが全部もらう。そうすればキミの店も潰れて、一件落着だ。お父様もきっとお喜びになるだろう」


「あ、あなたね……! 頭が腐ってチーズにでもなってるんじゃないですか?」


 堪忍袋の緒が切れた私を無視して、セシルはワイズの家があるほうへと歩き出します。これは挨拶したあと、魔物が出るまで居座るつもりに違いありません。


 くそー。これ、絶対に理事長、私がここにいるの知ってますよね。だからこそセシルに、手柄の横取りをさせようってわけです。


 汚い。本当に汚い。


「もーセシルってば、ハンナとも仲よくすればいいのにね。素直になれないお年頃なのカナ?」


 ローゼリアはお気楽なものです。こっちは絶対、脳味噌にパンが詰まってますね。気持ち悪くなるくらい甘いやつが。


「あ、そうそう。アタシ、前よりもヤッバい魔法覚えたから、魔物が出たらハンナにも見せてあげる! 期待しててね☆」


 ローゼリアからの投げキッスをかわして、私は大いにげんなりするのでした。

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