第56話 最後に①

 だから、もう表の感情に出ないと決めた。

 けど、その前に最後に佐阿と話がしたかった。抱きしめて欲しかった。キスをして欲しかった。

 これから先に味わえないであろう幸福感を感じたかった。

 ダメだ。もうこれ以上は。

 私の中でこのまま表の感情に居続けていたい気持ちが大きく膨らんでいくのが分かる。


 「もう、無理そうだから。じゃあね」


 「待って」


 「・・・まだ何かあるの?」


 佐阿と話を続けていたい気持ちを我慢して戻ろうとしているのに佐阿は何度も私を止めてきた。

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