第3話 映画館火災の生存者への取材

 名前まではわからないけど、たぶんその二人だと思うよ。

 最初は親子かと思ったんだけど、娘のほうが連れを『おばさま』って呼んでたからね。

『アデリンおばさま』かどうかまではちょっと……

 だってたまたま席がとなりだったから聞こえたってだけで、別に聞き耳を立ててたわけじゃないからね。


 いや、そんなこと僕に訊かれても……

 消防署の人に訊いてよ……

 気がついたら炎が上がってたんだよ。

 スクリーンが燃え落ちて。

 うん。火元は前のほうだと思うよ。


 物語がちょうど火事のシーンでね。

 最初は、すごい迫力の映像だな、なんて思って眺めてたんだよ。

 そのせいでみんな、逃げ遅れたんじゃないかな。

 満員だったのに助かったのが数人なんてね。

 映画が発明されたばかりのころには、走ってくる汽車の映像を観た客がかれると思って本気で逃げ出したなんて話もあるのに、おかしなもんだよね。


 僕は……例のその……親子連れっぽい二人。

 あの二人が真っ先に本物の炎だって気づいたみたいでね。

 逃げる際に僕の足を蹴っ飛ばしていって、そのおかげで僕は現実に引き戻されたんだ。

 それくらい、のめり込むシーンだったんだよ。


 そうさ。それくらい、のめり込める映画だったんだ。

 あんなすごい映画は初めてだよ。

 本当にすごかったんだ。

 だけどおかしいな。

 どんなストーリーだったか全く思い出せない。

 火事のショックのせいかな。


 もう一度、観に行かなくちゃ。


 もう一度……


 もう一度……


 観に……行かなくちゃ……





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