第4話 アーカムからのエアメール 3 − 二枚目の便せん

 そろそろって時間になってもアデリン叔母さまは起きてこなくて、それでわたしとルイーザの二人だけで教会へ行ったの。

 昨日は慌ただしくて建物の様子とかろくに見ていなかったけど、小さくてもどっしりしいて、歴史の有りそうな上品な造りだったわ。

 庭や霊園の手入れも良く行き届いてた。


 牧師さまは墓地の、昨日ルイーザと居たのと同じ区画に立ってたの。

 真っ白な髪の、品のいいおじいさん。

 寂しい感じだったけど、お墓ってそんなもんじゃない?

 墓石の形や大きさが、判で押したみたいに似たようなのがそろっていても、この町ではそうなんだなってぐらいにしか思わなかったの。

 刻まれている日付けが全部同じだなんて、言われるまで気づかなくっても、妹に観察力がないみたいに言われるほどのことじゃあないわよね?


 とにかくわたしは牧師さまに、昨日は妹がお世話になりましたってお礼して、さっさと帰ろうとしたの。

 だけどルイーザはわたしが手を引っ張ってもビクともしなくて。



 ルイーザと牧師さまの会話は、何それ? って思うようなことの連続だったわ。

 録音したり、その場でメモを取っていたわけじゃないから、細かい部分は違うかも知れないけど、だいたいこんな感じよ。



ルイーザ「昨日の話の続き。四十三年前にパトリシアと別れてから、サン・ジェルマンに何が会ったのか教えて」

牧師さま「子供に聞かせられるような話ではありません」

ルイーザ「今日は大人も連れてきたわ」



 わたし、ちょっとびっくりしちゃった。

 ルイーザがこんなことを言うなんて。

 でもこれはまだ、ほんのちょっとのびっくりよ。



ルイーザ「ここにあるのはすべて、四十三年前の鉄道事故の犠牲者のお墓」

    「その汽車に、サン・ジェルマン・ルルイエとパトリシア・ルルイエが乗っていた」

    「事故の生存者はこの二人と、生まれたばかりだったヘンリーだけ」



 牧師さまはとても驚いていらしたわ。

 わたしは驚くを通り越してキョトンよ。

 わたしは同じ家族の姉よ?

 なのに何で、姉のわたしが知らないことを、妹が当たり前みたいに話してるのよ?

 ああ、この時は驚きに飲み込まれて、ただただキョトンとしていたけれど、今から考えると悔しいわ。

 ルイーザが家に来たとき、この子のことを異分子みたいに思ったけれど、弾き出されたのはわたしのほうだったのよね。




 こんな話より列車事故のほうをオリヴィアは知りたいわよね?



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