人は、変わる―(11/21)


その一年間は、すごく平和だった。


絶対に行かないと決めていた修学旅行にも行って、体育祭にも文化祭にも参加して、周りに振り回されていたといえばそうなのかもしれないけど、誘われれば断らない自分がいて、卒業式の日は──寂しく感じた。


クラスメイトで同じ高校に進学するのは、例によって彼だけ。

他の人達とはもうあまり会うことはないんだと思うと、寂しいと思う半面、ちゃんと立派な人間になってと笑顔で別れを告げられた自分もいた。


長い人生の中で、たった一年間だけを一緒に過ごした人達。

意見が合わず喧嘩をしたこともあったけど、なにより楽しかった。


〝ありがとう〟が言えて、よかった。







「──遅刻しそうだからもう行くわ」


「待て! まだ話の途中だぞ!」


高校の入学初日の朝。

入学の心得を長々と説いていた師匠を振り切って家を出る。


「……さすがに初日から遅刻はできないよね」


「ごめんなさい」


外で待っていた彼も犠牲にしてしまった。


電車に乗るために駅へ向かい、事前に購入しておいた定期券で改札を通る。


ゆう、そっちじゃないわ。3番線よ」


「あれ、そうだっけ?」


正反対のホームに行こうとした彼を引き止め、通勤ラッシュでごった返す駅ナカをかき分ける。


「百合花がいなかったら大遅刻だったね」


「笑いごとじゃないわよ」


楽しそうに、いつもの穏やかな笑みを浮かべる。


──彼と同じ高校を選ぶつもりなんてなかった。

たまたま、彼が希望していた学校のパンフレットを見たら、特待生制度があって、特待生なら学費が免除になることを知って、それならと受けてみたら受かって、彼も同じくして受かって……今に至る。


そもそも進学するつもりもなかったけど、偏差値の高い学校ならバカにみたいにうるさい人もバカみたいなことをしでかす人もいないだろうし、せっかく受かったんだからと周りの後押しもあって入学を決めた。


相も変わらず、師匠が一番喜んで一番はしゃいでいた。




学校に着いて、玄関前に貼り出されていたクラス表を確認すると、彼とは同じクラスだった。


「泣きそうなくらい嬉しいよ」


「そう言っていつも泣かないじゃない」


あなたが泣くところなんてあの引きこもり以来見たことないわ。


玄関で靴を履き替え、割り振られたクラス──一年B組の教室へと向かった。


すると──。


「イエ~イ!! 入学おめでトンボォォォォォ!!!!」


「あたし達今日からクラスメイトだネ~!!☆」


教室の中を走り回る二人の生徒がいた。


……なにアレ。


「おい!! そこのお前とお前!! 朝のホームルームが始まるまで五分を切っているぞ!!」


「十分前行動ができないなんてナンセンスよネ!!」


指をさされ、睨まれる。


「高校では十分前行動がルールなんだね。次から気をつけるよ」


優は嬉しそうに笑う。


「おっ、ニコニコ顔のお前は話がわかるな~! ──オレの名は、フォルゴーレ浅田あさだ!」


「あたしはパルメザンチーズ・スズメ!」


今なんて言った?


「僕は玉野優司だよ。……二人は外国の人なの?」


「ハハッ!! どう見てもニッポン人だろうが!! お前の目は猿とゴリラも見分けられないのか!!」


「ウホウホだネ~!」


…………。


なんなの……。


「で、そっちのギロギロおめめのお前は?」


誰がギロギロよ。


「……如月、百合花……」


「あれ!? もしかして二月生まれ!? あたしと同じだネ!!」


「違うけど……」


この人達、本当に新入生なのかしら……。

勝手に入ってきた不法侵入者じゃないわよね……。


「……とりあえず、席に着きましょう」


優の腕を引っ張り、黒板に貼ってあった座席表を見て席に着く。

さすがに彼と席までは近くならなかったけど、代わりに背後には甲高い声が突き刺さった。


「よろしくネ!! ギロギロ百合花!!」


最悪だわ……。


そのあと確認したところ、二人の本名は浅田鉄平あさだてっぺい金原きんばらすずめだった。


あのヘンテコな名前が本名じゃなくて安心したような危機感を持ったような……。

予想通り、バカみたいに変な二人だった。


お昼になれば──。


「ネェネェネェ! 一緒にお昼食べようよ! ここの学食はめちゃくちゃ安くてめちゃくちゃ豪華でめちゃくちゃ美味しいんだって!」


「お弁当持ってきたから遠慮するわ」


「えっ、そうなの!? あたしも食べる! ちょうだいちょうだい!」


「女子の手作り弁当だとぉ!? オレにも食わせろ!!」


「ちょっと割り込まないでよ鉄平!!」


「フォルゴーレ様だ泣き虫すずめ!!」


「泣き虫じゃなくてパルメザンチーズ!!」


私のお弁当は二人の餌食になって一瞬で抹消される。


「…………。優、学食に行きましょう」


「お弁当持ってきたから遠慮するよ」


「(ギロッ)」


「じょ、冗談だよ;」


授業中だって──。


「ネェネェネェ! 見て見て! お菓子の空箱に割り箸ぶっ刺してロボット作ってみた! 名づけてパルザン400!!」


「…………」


「空気ミサイルが400発も撃てるハイパーボディ!!」


「オレはパルザン4000を作り上げたぞ!! ビーム、ロケットパンチ、巨大衛星レーザー等々なんでもアリだ!!」


「なんですって!? どんなにハイスペックでも元祖の400には勝てるわけないのよネ! 喰らえ、パルンルン砲!!」


「相殺だ!! ザケル!!」


「──お前達!! 静かにしろ!!」


…………。




本当になんなの……。



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