再び、取り戻す―(22/26)


「「!?!?!?」」


私と隼人さんは、同時に一本の木を振り返りました。


――カッキーが、悲鳴を上げた!?


なんてことはなく。


『も、桃子くん!! そんなに大きな声を出したら……!!;』


『Σハッ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!!!!;』




「「…………」」




──何やってんだあの二人!!


「オイお前ら!! そこで何やってんだよっ!!」


『Σひぃっ!! 桃子のせいでバレてしまいました!!;; ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!!;;』


『そ、そんなに謝らなくても大丈夫だよ、多分;』


カッキーの陰に隠れた二つの人影は、そろそろとその姿を現しました。


なんで気づかなかったんだろ……そのことにすごいショックが……。


「……ごめんね、盗み聞きするつもりはなかったんだけど……;」


いえ、バッチリ盗み聞きしていましたよお兄さん。


「会長は何も悪くないんです!! 寮の見回りをしていたらたまたま裏庭にいるお二人を見つけて! 何を話しているのか気になって最初に覗き始めたのは私なんですから!!」


過程より結果が大事です。


「桃っちさん……」


私は彼女に歩み寄り、そのローツインを50%ほどの力で引っ張りました。


「なんであのタイミングで悲鳴を上げたんですか!! せっかくイイところだったのに!!」


「い、痛いです痛いです!!;; だ、だって会長がっ……今田さんを見ながら私の耳元でっ……〝君もあんな感じだったね〟って囁いたからっ……つい……!!;」


桃っちさんは耳が弱点なんですね、ほうほう。


「おい王子っ!! 俺をこんなバカと一緒にすんな!!」


「バカとは失礼だよ隼人くん;」


いえ、桃っちさんは至極バカです。

私の比ではありません。


「隼人さんは別に愛の告白をしていたわけじゃ……。あれ? 違うんですよね?」


「違うに決まってんだろ//!!」


もう、赤くなっちゃって♪


「隼人さんは意識しすぎなんですよ。愛の告白じゃないのなら、サラッとかっこ良く言えないと。誰かさんみたいに」


「僕はみんなのことが好きだよ」


「はひっ////!!!!」


お兄さんの言葉に、桃っちさんは顔を真っ赤にしました。


んー……。

でも改めてみると、天然なのか意図的なのかよくわからんな。

もしわざとやってるのなら、ある意味ママより怖いよお兄さん。


「いや、サラッと言えるのはチャラ男だからだろ!」


「会長がチャラ男!?!? そんなわけないじゃないですかっ!! サイテーですね今田さん!!」


「お前にサイテー呼ばわりされる筋合いはねぇよ!」


「サイテーはサイテーです!! 幼なじみのくせに、会長のこと何もわかってないんですね!!」


「お前よりはわかってるっつーの! だいたい、王子が素を隠してるってこともあり得るだろっ!」


「会長は嘘なんてつきません!!」


「嘘つかねぇ人間なんていねぇよ!!」


あれ、なんか始まっちゃった。

っていうか、散々嘘つきは嫌いだって言ったあなたがそれを言っていいのですか隼人さん。


「会長は特別なんです!!」


「なら百歩譲ってそういうことにしてやる! だが、いくら天然でも、そういう言葉を簡単に口にできるってことは、王子がお前に一切の恋心を抱いていないからだ!! それ以前に、女として見てねぇのかもな!!」


「Σそ、それは……;;」


ちょっと!

いくらなんでも言いすぎですよ!

桃っちさんが泣きそうになってるじゃないですか!


「そ、そんなことわかってますよっ!;; 私なんか……今こうして副会長をやっていられることが奇跡ですしっ……おそばにいられるだけでも十分ですもん!! 別に好かれなくてもいいですもんっ!! 今田さんのバカっ!!」


「最後のは余計だろ!!」


「いいえ最も重要ですっ!! バカなものはバカなんですから!!」


「てめぇ……!!」


今日はバカ祭りですね。

早く止めてあげてくださいお兄さん。


「──二人とも、こんな時間に大声は禁物だよ」


違う!!

そうじゃないだろ!!


「Σご、ごめんなさいっ……!!」


「チッ……」


舌打ちをするな。


「二人がどうしてそんなに熱くなっているのかはわからないけど、僕はいつでも思ったことをそのまま口にしてるだけだよ。でも、僕だって隠しごとをすることはあるし、桃子くんのことはちゃんと女の子としてみてるし、どれが嘘でどれが本当のことかなんて……僕にもわからないよ」


この人が一番バカだった。


「お兄さんは、天然っていうより純粋なんですね。いや、純粋なのは桃っちさんか」


「どちらも同じことだよ。ただ、素直でいればそれでいいと思うんだ」


「難題ですね」


「個性があるからね」


「じゃあ、素直な所感で答えると、結局、お兄さんは桃っちさんが好きなんですか? 恋愛の意味でも」


「Σえっ、そ、それは……」


「ちょっと凛さん//!! 何聞いてるんですかっ//!!」


「桃っちさんだって、そろそろちゃんとした答えがほしいですよね?」


「そ、そんなことっ……ないって言ったら嘘になりますけど!! 別に今聞かなくてもいいじゃないですか//!! 凛さんと今田さんもいるんですから//!!」


「どのみち私達にもバレるんですから、オッケーオッケー」


「よくありません//!!」


どうして今さらすぎることでそんなに恥ずかしがるのか、わかんない。

ますますいじめたくなっちゃう☆


「……で、お兄さんの答えは?」


「……えっと……;」



「……その……」



「……うーん……」










「……わからない;;」


でしょうね。


「桃っちさん可哀相」


「わ、私は別にっ……!!; 自分の想いが伝えられただけでも幸せですし!; 下手にフラれるよりかは無回答のほうがいいです!;;」


「伝えられただけでも幸せ、か……」


「? どうかしたんですか、隼人さん」


「いや、別に……」


いやいや、気になるじゃん。


「僕、やっぱりまだわからないよ……恋愛感情っていうものが……」


「普通は幼稚園児でも持っている感情ですよ」


「君も持ってるの?」


「…………」







「──あれ? そういえばない気が……」


「「「ガクッ!;」」」


「冗談ですよ」


そんなわけないじゃないですか~。


「じゃ、じゃあ! 凛さんにも好きな人がいるんですか!?」


「いますよ」


「Σそ、それは一体……!!!!」


「──真理ちゃん」


「「「え?」」」


「だからぁ、真理ちゃん」


「「「…………」」」







「「「それは恋愛感情じゃない!!」」」


「えぇっ!?」


そんなバナナ!?


「でも!! もし究極の選択で、誰か一人しか助け出せないとしたら私は真理ちゃんを助け出します!!」


「それはお姉さんだからですよ!! それ以前に逆です逆!! 凛さんは女性なんですから、誰を助けるかじゃなくて誰に助けてもらいたいかを考えるんですよ!!」


「え、私は自力でなんとかできますのでそこはノープロブレムです」


「そうじゃなくて……!;; というか! 凛さんは女性同士で結婚するつもりだったんですか!?」


「え? 桃っちさん、頭がおかしくなったんですか? ここはジャパーンですよ。同性同士の結婚はNGデース」


「だって、恋愛の最終地点は結婚じゃないですか!! 真理さんが恋愛の対象なら、そういうことになるんですよ!!」


「Σハッ!!」


そういえばそうだった!!


「ということは! 結婚相手としてふさわしいと思う人を考えればいいんですね!」


「まあ、そういうことですね;」


「でも、高校生の分際で結婚なんか考えられませんよ」


熱血さんじゃあるまいし。


「まだそこまで真剣でなくとも;」


「真剣でなくても!? あなたはそんな軽い気持ちで〝会長大好き!!〟とか言ってたんですかぁ!?」


「ちちち違いますよ!!;; そういう意味じゃなくて……!!;;」


「チャラ男……いえ、チャラ女です!! お兄さん! 桃っちさんはチャラ女です!! ここにチャラ女がいますよ!!」


「違いますって!!;;」


「このチャラ女!! 気安くお兄さんに近寄るな!!」


「ごめんなさいっ!!!!;;」


謝ったし。


「凛、冗談でもそういうことは言うもんじゃないよ」


「すみません……」


私が怒られたじゃないですかぁ!!


「何やってんだか……」


「隼人さんも黙って見てないで止めてくださればよかったのに。お兄さんはツッコミが下手なんですから!」


「入る隙がなかった」


「ダメですね~。そんなんじゃこの先やっていけませんよ」


「お前がもっとおとなしくすればいいだけの話だろ」


「元気印の凛ちゃんが廃る!」


「元気っていうよりじゃじゃ馬だな」


「あなたには言われたくないです〝カス〟さん」


「今はそこに触れるな」


「あれ? 実は結構無理してるんですか? ヘンテコモード」


「いや、別にそういうわけじゃねぇけど……」


勉強が得意なツンデレ男と、学校一の暴走問題児……。


ダメだ、まったくギャップ萌えしない。


「そういえば、今田さんはすごい変わりようですよね; ヘンテコ人間になりきってる時は……」


「そうだね、僕も初めは驚いたよ。別人かと思ったほどに」


「まあ……あれは……ストレス解消っつーか……」


「なるほど、親に束縛されていた日々の表れなんですね」


「あと、王子への嫌がらせも少々」


「Σえっ!? 僕何かした!?」


「お前の行動の8割は腹が立つ」


「そ、そんなっ……!!;」


なんと、驚きの事実が判明したぞ。


「な、なんてこと言うんですか!! あなたはそれでも会長の親友ですかっ!!」


「親友になった覚えはねぇよ」


「Σ酷いっ!!」


ああ、きっといつものアレですよアレ。


「お兄さん、桃っちさん、安心してください。隼人さんは只今ツンツンモードになっているだけです」


「ツンツンモードってなんだよ! ただの冗談だっつーの!」


「な~んだ、デレないんですか。面白くない!」


「お前はいちいち腹立つな」


「嫌いになりました?」


「多少はな」


「Σオイルショック!!」


「意味わかって言ってんのか?」


「…………」







「──クソッ!!」


墓穴を掘ってしまった!!



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