再び、取り戻す―(16/26)


午後3時過ぎ。

昼食を食べ終えた私は、寮の自室へ戻ることにしました。

ずっと保健室にいたと思っていたのですが、実際は寮側の医務室でした。

そういえば、今日は土曜日で、校舎は閉まっていますもんね。


「あ~……。どうしよぉ……」


これからどうすればいいんだろ……。

謝らなくちゃいけないんだとは思うけど……勇気が……;

また怒られたらどうしよう……怖いなぁ……;


「──あ……」


とか思ってたら、階段の途中で止まっているピーチさんを発見しました。


棚からぼた餅。

階段から白桃。


……よし、捕まえよう。


「──だーれだ」


「Σわっ!!」


私は、背後から目隠しをしました。


「そ、その声は!! 凛さん!?!?」


「いいえ違います」


「えっ、でも確かに凛さんの声……」


「違います」


「じゃあ誰なんですか!?」


「あなたの一番好きな人です」


「Σえっ!! でも会長はそんな女性っぽい声じゃないです!!」


「ほほぉ、あなたの一番好きな人は会長さんなんですか」


「Σそ、そそそそそそれは//!!」


「予想通り過ぎて何も面白くないですね。もしかしてマサハルくん!? とかいう衝撃の新事実を期待していたのに」


「そんなこと言いませんっ//!!」


私は手を放しました。


「熱血さん可哀相」


「やっぱり凛さんじゃないですか!! ──って、その服……どうしたんですか……!?」


ああ、そういえばまだ武道着だった。


「一戦交えてきたんです」


「Σ喧嘩!? ダメじゃないですかそんな危ないこと!!」


喧嘩ではないよ。


「大丈夫です、相手はおじいちゃんでしたから」


「そ、それならいいですけど……ってダメですよ!! また倒れたらどうするんですか!!」


ツッコミが多いな。


「心配……してくれるんですか?」


「当たり前じゃないですか!!」


「その理由は? 一番好きな人の妹だから、媚びを売っているんですか?」


「はい!? そ、そんなの関係ないです!! だって……──あれ、どうしてだろ……;」


そこは困っちゃいけない。


「友達……じゃないですよね?;」


「あなたと友達になった覚えはないですね」


「え、えっと……じゃあ……いつもお世話になっているから……?;」


私は近所のおばさんかい。


「私、お世話なんかしましたっけ?」


「うーん……そういえば……迷惑かけられてばっかかも;;」


「言いますね」


「Σご、ごめんなさいっ!!;;」


冗談ですよ。


「でもっ、確かにいじめられてばっかですけど……なんかこう……ほうっておけないというか……。凛さんのこと、嫌いじゃないですしっ、心配なものは心配なんです! 理由なんてありません!!」


「…………」


そうですか。

まあ、最初からわかっていました。

ピーチさんは、そういう人だから。


「ピーチさんは優しいですね」


「そ、そんなことは……」


「実は、以前は、私の言うことなんか何一つ信用してくれなかったのに、私の記憶が戻った辺りからすごく優しくしてくれるようになったので、やっぱり媚びてるのかな~って、思ってたんです」


「えっ……」


きっと、最初の頃は〝凛・トロピカル〟というヘンテコ人間に警戒していただけなんでしょう。


「でも、あなたはそんな人じゃないですもんね。私の過去を知って、気を遣ってくれるようになったことには気づいています。案外、私のことを一番気にかけてくださっているのはあなたかもしれません。ありがとうございます。目障りだって言ったのも、嘘ですから」


私は両手でピーチさんの手を握りました。

すると、彼女は何故かボロボロと泣き始めました。


「Σちょっ、なんであなたが泣くんですか」


「だってっ、だってぇぇぇぇ!;;」


ああ、私の手にしずくが……。


「つらいのは凛さんのほうなのにっ、私にありがとうって……!; ありがとうって……!!;;」


え、おかしかった……?


「凛さんのほうが優しすぎますぅぅぅ純粋過ぎますぅぅぅぅ!!;; でも〝ピーチ〟って呼ばれるのは嫌ですぅぅぅぅぅ!!;;」


さりげなくクレーム入れてきた。


「嫌だったんですか? それならそうと言ってくれればよかったのに」


「だって……そんなこと言ったらまたいじめられるかと思って……;;」


「そんなことしませんよ~。ハッハッハ」


いや、したね。


「では、何と呼べばいいですか? 桃子ちゃん?」


「ちゃんづけはちょっと……;」


「じゃあ、モコモコの桃子?」


「モコモコってなんですか!!」


「私はトロトロのトロですよ」


「もっと普通のでお願いします!!」


「普通って言われても……」


盛利さんや桃子さんじゃ遠いし……かと言っていきなり呼び捨てにすると、エラお嬢様辺りに文句言われそうだし……。


「──じゃあ、桃っちさん!」


「Σ桃っちさん!?」


「はい。アダ名+さんづけで、微妙な距離をとってみました」


「何故、微妙な距離を……?;」


「うーん……なんとなく。もっと仲良くなったら、さんづけはやめます」


「そ、そうですか……;」


「あ、心配しないでください。桃っちさんがお兄さんと結婚しても、絶対に〝お姉さん〟とは呼びませんから♪」


「Σけ、けけけけ結婚///!?!?!?」


桃っちさんは、久しぶりに鼻血ブービーになりました。


「……私が血まみれに……」


「Σハッ!! ごごごごごごめんなさいっ!!!!;;」


「かまいませんよ」


どうせシャワーを浴びに行こうと思ってましたし。


「今度、お返しに楽しいことしてあげますので♪」


「Σ楽しいこと!?」


「はい。心臓が止まるくらいスリルチックなことを」


「嫌ぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!;;」


よくそんな大声が出ますね。


「冗談ですよ。変なことはしませんから、早くその鼻血を何とかしてください。なんなら、医務室まで運んであげますよ」


「え、遠慮します!!;;」


まあ、あなたもいろんな意味で行きたくないんですよね。


「じゃあ、このティッシュをどうぞ」


私は桃っちさんにポケットティッシュを手渡しました。


「あ、ありがとうございます……。あと、すみません……服とか諸々汚してしまって……;;」


「別にいいですよ。どうせ今から洗いますので。──では、私はこれで」


私は段飛ばしに階段を上り、その場をあとにしました。






「──凛さんは、やっぱりああでなくちゃダメですよね! 元気になったみたいで、よかったです!」


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