そして、甦る―(22/34)
「──っ……」
重い瞼をゆっくりと持ち上げると、視界に黒い影が差しました。
「……お姉ちゃん……!」
……あ……真理ちゃん……。
「トロちゃん!! 起きたの!? 死んでなかったの!?」
ちょ、声が大きいですよナルシーさん。
ちなみに体も大きいですよナルシーさん。
私が寝ている間に暴飲暴食しましたね。
……っていうか……。
「……今って……」
「安心して、あなたはほんの30分ほど寝ていただけよ。ここは保健室」
答えたのは百合花先生でした。
「あの子達は、さっき特秘委員会に引き渡したわ。そのまま警察に連れていかれたはずよ。私達もあとで事情聴取されるかもしれないけれど、正当防衛を言い張れば、大丈夫だから」
「そうですか……」
私はベッドから体を起こしました。
「お姉ちゃん……大丈夫……?」
「うん、特に痛いところもないから……」
微笑んでそう答えると、ナルシーさんは「お前誰だ」と言いたげに睨んできました。
無視無視、無視です。
「──凛」
「?」
声がしたほうを振り向くと、隣のベッドで横向きになって寝ていたおじいちゃんの姿がありました。
なんか偉そうだな。
「8×4は?」
「……32」
「54÷9は?」
「……6」
「ふむ、間違いないな」
「「「「「「?」」」」」」
いきなり変な問題出さないでくださいよ。
皆さんが不審な目で見てるじゃないですか。
「……えっと……今のは何ですか……?;;」
会長さんは訝しげに尋ねます。
「記憶喪失になった後の凛には、足し算と引き算しか教えておらんからの。記憶が戻っておらぬ限り、掛け算も割り算もできぬはずじゃ」
「えっ!? トロちゃんってそんなにバカだったのぉ!?」
仕方ないじゃないですか。
「僕は0歳の時からできたというのに……フフフ」
もうなんかクレイジーです。
「トットロはバカだったんだな!! 俺っちでもそのくらいできるぜ!! 1×1=2!!」
うん、間違ってるから。
「いつも私をからかったりバカにしたりして、鬼のような人だと思っていましたが……まさかそんな弱点があっただなんて……」
よし、ピーチさんは屋上から突き落とすの刑だ☆
「今までの記憶、全部思い出したのかい?」
「うーん……多分……」
まだ頭がボーッとしてて、よくわからないけど……。
「……真理のこと……全部……思い出した……?」
「うん、思い出したよ。──
「……!」
真理ちゃんは嬉しそうに抱きついてきました。
「モガミマリ……? 〝マモリカミ〟は偽名だったのですか?」
「……so……嘘の名前……」
あ、エラお嬢様、おでこにデッカい絆創膏貼ってる……なんか面白い。
「傍から聞いていると、まるで他人のような物言いだけど……二人はやっぱり、姉妹じゃなかったのかい?」
「厳密には……違いますね。血縁関係はないので……」
私が会長さんに答えると、隣でゴロゴロしていたおじいちゃんがおもむろに口を開きました。
「凛と真理は、実の姉妹のように仲が良かったんじゃ。学校でいじめに遭っていた真理を、凛が助けたのがきっかけでな。いつ何時でも、二人は一緒におったわい」
「い、いじめから助けたぁ!?!?」
「あのトロちゃんがぁ!?!?」
ピーラーさんとナルシーさんは、天変地異が起きたと言わんばかりにのけ反りました。……失礼ですね。
「お主らがどう思っとるかは知らんが、昔の凛は、大層正義感の強い子でな。そりゃもうワシにそっくりじゃった。育て方が良かったんじゃな。ハッハッハッハ!」
頭に乗るなよ。
「……もしかして……」
――?
「もしかして……君は……
「え?」
桜坂凛。
それは、紛れもない私の本名……。
「そうですが……。何故、会長さんがそれを……?」
「Σやっぱり! 春ヶ崎小学校にいた、桜坂凛さんだよね!! まさか、また会えるなんて!!」
「「「「「「「?」」」」」」」
私達が困惑するなか、会長さんは一人興奮しているご様子。
「Σあ、ご、ごめん! つい、嬉しくて……;;」
「い、いえ……。会長さん、私のことご存知だったんですか……?」
「うん。君は、校内でも有名だったからね」
そういえば、会長さんも春ヶ崎小の生徒でしたね。
「それに僕、学校では話せる友達もいなくて、クラスにもうまく馴染めなくて、いつも一人ぼっちだったんだけど、君はそんな僕にも話しかけてくれたから……」
会長さんは懐かしげに話し、
「それが嬉しくて、僕からも君に話しかけようと思ったことはあったんだけど、君の周りにはいつもたくさんの生徒がいたからね。その輪には、ちょっと入りづらくて……」
と、苦笑しました。
「でも、一度だけ話せたことがあるんだけど……憶えてない、かな?」
「え……」
うーん……。
と言われても……いろんな子がいたからな……。
どの子だろ……。
「あ、思い出せなかったら別にいいんだ。うん……逆に思い出せないほうが……こっちとしては……;;」
「?」
会長さん、何か隠してるな……。
「い、今の話は聞かなかったということに! とにかく、僕は君に感謝してるんだ」
「そうですか……」
今はスルーしといてあげよう。
「私は感謝されるようなことをしたつもりはなかったと思いますが、それで会長さんが嬉しかったというのであれば、私も自分の行いに感謝です」
「そんな子へと育てたワシへの感謝は?」
「ありません」
「何故じゃ!!」
「冗談ですよ」
おじいちゃんにもちゃんと感謝してますから。
「ふふ。よかったね、加美くん──じゃなくて、真理ちゃん。素敵なお姉さんに出逢えて」
「うん……! でも……」
「?」
「……お姉ちゃん……優しいお姉ちゃんなのに……。あの日……真理を一人にして……帰って、来なかった……」
「!」
「ずっと、待ってたのに……。帰って来なかった……。だから……真理は……!」
私の腕を掴む真理ちゃんの手が、震え始めました。
あの日……。
確かにあの日、私は真理ちゃんを一人先に家に帰しました。
だけど、そのあと真理ちゃんに……何が……?
何が……あったの……?
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