魚群、現る―(13/13)
──というわけで、私はピーチさんを連れて校舎に入り、保健室の前までやってきました。
「な、何をする気ですか!」
「何ッテ、盗ミ見&盗ミ聞キ」
「は、犯罪じゃないですか!!」
「ビックボイスノーノー」
「あっ、ご、ごめんなさい……」
以後気をつけるように。
「気ニナリマセンカ~? 会長サンノ、アノ挙動不審」
「えっ!! そ、そりゃ……気にはなりますけど……!」
「ダッタラ~アナタ共犯」
「そ、そんな無理矢理な……!」
「本当ハ?」
「超覗きたいっ!!」
気持ちイイほど素直だ。
「デハOKデスネ~」
「あなたも気になるの?」
「オフコ~ス。会長サンノ弱味ヲGETスルチャンスデ~ス」
「会長に変なことしたら許さないから!!」
「オ静カニ。変ナコトスルノハ~アノ人デース」
私は扉を5センチほど開けて、中を覗きました。
ピーチさんも私の顎下から覗き込みます。
「──ブフッ!!」
途端、ピーチさんは鼻血をブービーしました。
会長さんが、上半身裸の状態でベッドに腰かけていたのです。
「チョ、チョットッ……汚イデース!」
「会長のハダッはだっハダッ!!」
上だけじゃないですか!
男性の場合普通のことですよ!
あ、ちなみに私達は、ちゃ~んとちったい声で話していますよ。
「初めて見たっ……キャー//!」
ああそうですか。
じゃあ飽きるまで見ればいいさぁ。
『──服、乾いたら持っていってあげるから、これでよければ着て帰ってちょうだい♪』
先生は体操着の半袖を手渡します。
『あ、ありがとうございます……』
会長さんは視線を泳がせます。
『いいのよ、私とあなたの仲じゃない♪』
先生は会長さんの隣に座りました。
『でも、私怒っているのよ。
…………え?
「オウちゃん!?」
「デデデデートぉ!!!?!!!?」
な、なんだ今の発言は!?
聞き間違えか!?
『そ、それは……;』
『どうしてダメなの?』
ははは……いやいやまさか……。
『やっぱり……人目があるところでは──』
否定して会長さん!!
お願いですから違うと言って!!
『一緒にいるところを知り合いに……特にこの学校の関係者に見られてしまう恐れがあるので……』
……──……──。
『あら、いいじゃない♪ 私は公表してもいいと思っているのよ♪』
『だ、だめですっ! 僕が学校に居づらくなりますっ……;;』
…………。
ハイ、ノーコメントで。
『王ちゃんには私がいれば十分でしょう?♪』
『ぼ、僕には、まだやらなければならないことがありますっ!』
会長さんが顔を上げると、百合花先生は会長さんの頭を優しく撫でました。
『わかっているわ。それが成し遂げられるまでは、今のままの関係がいいのでしょう?』
会長さんはゆっくりと頷きます。
『仕方ないわね。でも、あんまり冷たくしちゃうと──』
先生は意地の悪そうな笑みを浮かべます。
か、顔が近い!!
顔が近いぞ!!
『お仕置きするわよ♪ チュッ♪』
『∑///!』
わぁぁぁぁぁっ!!!!
やると思ったぁぁぁ!!!!
先生がぁ!!!!
先生が会長さんのおでこにキャーッ!!
「今ノ見マシタカピーチサン! ……──ピーチサ~ン?」
私が視線を下げてみると、ピーチさんは彫刻模型のように固まっていました。
やれやれ、ウブな少女には少々刺激が強すぎたかな。
「ハローハロー、応答セヨ」
「────」
ダメだこりゃ。
「………会長の………」
ん?
「──会長のぉっ!!!! ブァカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」
スタタタタタタタ!!
∑ピーチさん!!!?
えっ、何あの人!?
いきなり走り去っていったんですけど!!
っていうかそんな大声出したら……!!
「──そこで何をしているのかしら、ロボちゃん♪」
ほらみろ見つかったぁ!!!!
って、ヤバいの私だけ!?
「ハ、ハローハロー、トロチャンデース☆」
「そこで何をしているのかしら」
「ニッポン語ワカラナーイ☆」
「そこで何をしているのかしら」
誰か助けて。
「何モ見テナーイ聞イテナーイ」
「嘘をつく子にはお仕置きよ♪」
「ごめんなさい」
わかってるんなら聞かなくてもいいじゃないですか!
「それで、何をしていたのかしら?」
「校内の見回りです」
「どうして見回りなんかしていたの?」
「暇だったのでなんとなく」
「どのくらいここにいたの?」
「10秒くらい前です」
「全部本当?」
「本当です」
ここは冷静に対応するべきだ。
「さっき大きな声が聞こえたけれど、誰?」
「存じ上げません。通りすがりの発狂魔です。私には一切関係ありません」
「あらそう。じゃあこの血は何?」
「えっ」
百合花先生は、ヒールのつま先で床をコンコンと突きました。
そこには、ピーチさんの鼻血が散らばっていました。
「…………;;」
「何?」
「……ワ、私ノ鼻血デース……」
違う!
本当は違う!
私はそんなキャラじゃない!
「あら、それは大変ね♪ それじゃあ少しベッドで横になっていきなさい♪」
「大丈夫デース!!」
今この状況下で敵の陣地に入り込んだらなんか気まずくなりそうだ!!
「遠慮しなくてもいいのよ?」
「急ギノ用事、アッタデース! 床ハ後デ掃除シマース!」
「あら残念」
早く逃げなければ!
「ソレデハ失礼シマース!」
私は走り出しました。
「──ちょっと待ちなさい」
キキーッ!
……ま、まだ何か!?
「これをあなたに。さっき、渡しそびれちゃったから」
そう言うと、先生は私に一通の手紙を差し出してきました。
私に手紙……?
私はすぐに封筒を裏返して、差出人の名前を見ました。
「──!?」
そこには、私の武道の師匠である、おじいちゃんの名前が書いてありました。
「あなた達が帰ってくる20分ほど前に、70代くらいの男性が学校に来て置いていったの。そういうの本当はダメなんだけど、今回は特別よ♪」
「…………」
どうしておじいちゃんが……!?
黙って出てきたから、私がここにいることは知らないはずなのに……!
「もしかして、ラブレター?♪」
「…………」
……き、気持ち悪い……。
「……シ、失礼シマース……」
私は駆け足でその場をあとにしました。
そして寮の部屋に戻り、慌てて中を確認します。
そこには、確かにおじいちゃんの字で書かれた文章がありました。
「なんだろ……説教かな……」
──しかし、そこに書いてあったのは、思いもかけない、衝撃的な内容でした。
……なに……?
……どうして、今なの……?
私は、おじいちゃんが今まであまり話したがらなかった〝私の両親のこと〟と〝記憶をなくした時のこと〟について、初めてその詳細に触れることとなったのです......
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