魚群、現る―(11/13)


※~[凛・トロピカル]視点~※



「あの問題児達、どこへ行きましたの!?」


ここに一人いますよー。


「逃げ足が速いです!!」


それは認めよーう。


「富~士子すわぁ~ん!!!!!」


熱血さん、ナルシーさんのこと好きだったんだ。

痩せたバージョンだけかな?


「もしかして、もう帰っちゃったのかな……」


どっちでもいいんですが、会長さん、いつまで掴んでるんですか。

前ばっかり見ていないで後ろを見てください。

私は守護神ではありません。

ただのエセヘンテコ人間です。


「加美くんはどう思う?」


いや、だからってそのタイミングで振り向かれても。


「……エット、アノー……」


どうしよう、バラしたほうがいいのだろうか。


「か、加美が普通に喋っていますわ!」


「ついに狂ったか!!!?」


え、この程度で珍しいのか!?


「……あれ? 加美くん、黒いコートの下にそんな服を着ていたのかい?」


「巫女服じゃないんですね」


そういえばあの人、今日は真っ黒クロスケみたいな格好をしていましたね。


「それに、なんだかいつもより背が高いような……」


「私より高い!?」


「わたくしとほとんど変わりませんわ!」


「正生徒会のマスコットがそれでいいのかぁぁぁぁ!!!!!」


マスコット!?

マスコットだったのか!?


「ア、イヤ~ソノ~……」


気づいていただけるとありがたいな。


「君もついに心を開く時が来たんだね!!」


「奇跡ですわ!!」


「何センチのヒールはいてるの!?」


「いやっふぅ~!!! 俺っちは嬉しいぜい!!!!」


いや、絶対気づかないな。


「……仕方ガナイデ~ス」


私はサングラスを外しました。


「「「「──!!!?」」」」


さすがにこれなら気づくでしょう。


「わわわっ! いきなりそれはナシだよ加美くん!!」


「目を合わせてはいけませんわ!!」


「もももも桃子ガード!!!!」


「ぐはあぁっ!! やられたぁ!!」


…………。

こいつらバカだな。


「……ヨク見ルデ~ス。人違イデ~ス」


「「「「え?」」」」


正生徒会の皆さんはジロリジロリと私をなめ回すように見てきました。


「あ、あなたはっ、凛・トロピカル!?」


そうです私が変なトロちゃんです。


「トロピッカル~!!!?」


ピカッてはないです。


「私の宿敵!!!?」


そうなんですか?


「どうして君がここに!?」


あなたが連れてきたんだよ!!


「ハロ~コンニチハ~」


「「「「ハ、ハロ~コンニチハ~」」」」


返してきたよ。


「会長サーン、私ト~加美サンヲ~間違エマ~シタ~」


「え!? 僕が!?」


そう、君が。


「では、加美はまだ中に!?」


「イ~エ、カスサンガァ、誘拐シマシタ~」


「「「「誘拐!?」」」」


「イエ~ス」


いや、実際は私と間違えただけだと思いますけどね。


「桃子くんの次は加美くんを誘拐!? 今田くん……なんてことを!!」


いやいや、ピーチさんは迷子になっていただけじゃないですか。


「バカハル! 匂いで追うのです!!」


「ハッハァ!! 任せな!!☆」


熱血さんにはそんな特技があるんですか。

まるでエリザベスさん2号じゃないですか。


「クンカクンカ……──よしっ、富士子さんはあっちだ!!」


「みんな行くよ!」


「「「「ラジャー!!」」」」


この人達も十分変な集団ですよね。


「イッテラッシャイマセ~」


「君も来るんだよ!」


チッ。

私はしょうがなくついていき、出口の改札を抜けて外に出ました。

すると、水族館前の時計台の近くで、ナルシーさん達が倒れたカスさんを囲んであたふたしているのが見えました。


……そうか、やられたのか。


「ちょっとカス! 早く起きなさいよ!」


「お前が指示出さねぇと僕達何もできねーじゃねぇか!」


「もう帰りたいです……」


アンタらはカスさん依存症か!


「──ゴホッゴホッ……き、君達!」


会長さんは走りすぎで咳き込みながら叫びました。


「ビューティフルレディ富士子!! なんとお美しい!! ハァハァハァ!!」


「トロちゃん!? どうしてサングラス取ってるの!? どうして富士子達を裏切ったの!? どうしてどうして!? サイテーね!!」


ナルシーさん、華麗なるスルーお見事です。

そしてこれは不可抗力です。

というか、多分シラを切り続けるのはもう無理だったと思います。

責めるのならカスさんを責めてください。


「ようやく相まみえましたわ! あなた達、よくも学校を脱け出してまで加美を誘拐しましたわね!!」


いや、脱獄した理由は別ですよ。


「はぁ!? 誘拐!? こいつはカスが勝手に連れてきただけで富士子達は全く関係ないし!!」


「いえ、立派な共犯者ですわ!」


それはこじつけだ。


「ナルシーサ~ン、私モ、誘拐サレマーシタ~」


「な、なんですって!?」


ふふふ、これで正生徒会とおあいこだ。


「ち、違う! 僕は誘拐なんてしていない!! 無実だ!!」


「黙らっしゃい! 富士子はアンタ達の言うことなんて信じないわ! トロちゃん、早くこっちに戻ってきなさい!」


「ワ~イ」


私はナルシーさんのもとまでスキップしました。


「加美! あなたはこちらに戻ってきなさい!」


さあ、あっちへ行ってください守護神さん。


「────」


なぜ直立不動!?


さらわれたヒロイン気取ってるのか!?


「加美! 聞いていますの!?」


「どうしたんだい加美くん!?」


「戻って来てくださいカミさん!!」


なんかピーチさんの発音がちょっと気になる。

奥さんに逃げられでもしたのか。


「────。…………zzZ」


ってよく見たら寝てるよこの子!!

立って半目開けたまま鼻ちょうちん膨らませてる!!

なんか可愛いぞオイ!!


「マッケンサン! シャッターチャンス!」


「任せてください……パシャパシャ」


後でお買い上げしよう。


「一枚5万円になります……」


高ぇよ!!


「……まあ、寝ているだけでしたのね」


「きっと力を使いすぎたんだ」


「安心しました……」


もっとツッコんでくださいよ!

っていうか力ってなんだ!

人を気絶させるアレか!


「とりあえず加美は返していただきますわ!」


いいですよ、別に要りませんし。


「これで一件落着ですね会長!」


「そうだね桃子くん。──ってまだだよ!?」


「はひっ!?」


出た!

会長さんのノリツッコミ!


「彼らがここにいることを問いたださないと!」


「ハッ! そ、そうでした……すみません;;」


ピーチさんは熱血さんの次くらいにバカなんですね。


「それで、何故君達がここにいるんだい? 外出禁止は君達も知っているはずだよ」


「あんた達だけ外出OKだなんて不公平よ! 富士子達も自由がほしい!!」


「確かに不公平かもしれないね。だけど、君達には多少束縛でもしないと、その人生を変えることはできないんだよ。我が校の方針を思い出してごらん」


「富士子は今のままが一番! 今のこの生き方が十分正しいもん!」


「その考えは嘘だ。君達は病人じゃない。自分達がしている行いを改善しなければならないことくらいわかっているはずだ」


「むっ……」


ナルシーさんが口をつぐんだ……。

やっぱり、自分達がしていることが、社会的にちょっと曲がってることだってこと、ちゃんと理解してるんだ……。


「──やめとけ、ナルシー」


その時、気絶していたカスさんがむくりと起き上がりました。


「こんな頭の堅い連中、相手にするだけ時間の無駄だぜ」


「カス……」


「な、なんて失礼な!」


「頭が堅いのはそちらですわ。理解力に乏しいのですから」


「理解力が乏しいのはそっちだろ。心が狭ぇやつらなんだからよ」


「心が狭いのはそちらですわ。人を傷つけても無関心なのですから」


「無関心なのはそっちだろ。こっちの個性も受け入れようとしねぇんだからよ」


「人殺しを好む個性など受け入れられるはずありませんわ!」


「バーカ。そんな病的なやつうちの学校にいねぇだろうが」


「うっ……」


カ、カスさんが押してる!


「……だいたいなんだテメェ。セイセートカイとか意味のわかんねぇもん立ち上げやがって」


カスさんは会長さんを一睨みします。


「何って……僕はただ、ヘンテコ人間だなんて呼び名をつけられている人達を、僕達と変わらない社会的真っ当な人に変えたいと思っているだけだよ」


「つまり、自分達のいいような形にこじつけようとしてるだけだろうが」


「違う。僕は偏見をなくしたいだけだ」


「じゃあ、なんでこっちの人間がそっちの人間に合わせなきゃいけねぇんだよ!」


「そ、それは……」


「どうせ、そのほうが手っ取り早くて現実的だとでも言うつもりなんだろうが!!」


「っ……」


カスさんがいつにも増して真剣だ。

もしかしたら、このまま正生徒会が消滅して、学校に平和が訪れるかもしれない!

よしっ、頑張れカスさん!!


「いい加減にしろよ!! お前らの存在はマジうぜぇんだよ!! ──お前らは! 〝正しい性教育〟がモットーじゃなかったのかよ!!」






「「「「「「「…………は?」」」」」」」


──は? なんだって?


「期待して損したぜ!! 堂々と書き出してやがるから、一体どんな教育をしてくれるのかと思いきや! 何も教えてくれねーじゃねぇか!! つーか! だいたいテメェら教師じゃねぇし!!」


「「「「「「「…………」」」」」」」


ねぇねぇ、カスさん、何の話してるの?

まさか、あの話じゃないよね?

アレの話じゃないよね?

違うよね?

違うよねぇ?


「……ちょ、ちょっとカス、あんた何言ってんの?」


「お前ら知らねぇのかよ!! 正生徒会室の看板に書いてあんだろ!!」


看板じゃなくてプレートね。


「それ書いたの、カスじゃん」


「……え」


そうそう。

初めて正生徒会室に殴り込みに行った時に、カスさんが書いてた。

いやぁ、懐かしいですなぁ。


「…………」


「────」


「──間違えちゃった♪ テヘッ☆」


だから可愛くないし!!


「や、やっぱりアレを書いたのは君達だったのか!」


〝達〟ではありません。


「わたくし達に昨日までずっと恥をかかせていたなんて!!」


気づいたの昨日かよ!


「俺っちが気づいたんだぜ富士子すわん!!」


あっそう。


「イヤァァァァァー!!!! 〝アレを書いたのは会長ですか!?〟なんて恥ずかしいこと聞いちゃった自分を思い出しちゃったじゃないですかキャー//!!;;」


そんなこと聞いたんだ。


「………zzZ」


あのお人形がほしい。


「ブハハ!! バーカバーカ!! あんな落書きにも気づかねぇなんてな!! そんなんだからいつまで経っても頼りにされねぇんだよ!! この大馬鹿鈍感生徒会役員どもが!!」


あなたも忘れてたじゃないですか。


「お、お黙りっ!! 名誉毀損と脱獄の罪で捕縛しますわ!! 行きなさいバカハル!!」


「イヤッフォ~!!!! 富~士子すわぁ~ん!!♪」


人選ミスだ。


「俺の下僕に手は出させねぇ!! ──喰らえ!! ファイアァァァァアァァァ……──って、あれ?」


ん、どうしたカス。


「ギザ10がない。落とした」


こんな時に!?


「他ノ物デ代用スルデ~ス!」


「無理無理、無理だから」


なんでやねん!!


「あんな超レアなものを落としたの!?」


「大馬鹿野郎はテメェじゃねぇかカス!」


「最低です……」


仲間からの罵倒がすごい。


「今のうちに捕まえるんだ!」


「「「ラジャー!!」」」


「逃げるぞ下僕ども!!」


「「「アイアイサー!!」」」


結局こうなるんですね。


「よしっ! あのバスに乗り込むぞ!!」


「「「ウィッシュ!!」」」


「DAIGO~!!」


今さらながら、この人達の絆が理解できない。

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