狂愛人間、現る―(15/21)


──14:59。


「それじゃあ、頑張ってきてね、二人とも!」


「おう! 任せとけ!!」


「富士子が押し潰してやるわ!」


熱血さんとナルシーさんは、ここ、正生徒会室から飛び降りていきました。


ナルシーさん、足骨折してないかな。


「マッケン、そろそろ準備してくれ」


「わかりました……」


マッケンさんが手に持っていた操縦器を操作すると、その傍らにあった小型ヘリコプターがふわりと浮き上がりました。

前々から開発に力を入れていた録画機搭載のやつです。

完成していたんですね。


ヘリは窓から外へ出ると、グラウンドの上空を浮遊しています。


「モニターの電源を入れてください……」


「へいよー」


カスさんが机の上に置かれたモニターをONにすると、その画面にグラウンドの様子が投影されました。


「うおー!! すげぇなぁ!!」


ホントにすごいです、こんなものを作っちゃうなんて。


以降、グラウンドの様子は、小型ヘリを通してモニターで見ているものだと思ってください。


「予告時間まで、あと、5・4・3・2・1──」


∑ドガァァァーンッッ!!!!!!


……始まっちゃった。


会長さんが0と言おうとした瞬間、外とモニターのスピーカーからものすんごい音が聞こえてきました。


「∑な、なんだ!?」


モニターには砂嵐が映っています。

しばらく待つと、画面には三人の人影が浮かび上がりました。

そして、穴が全て埋められていたはずのグラウンドに、大きな大きな大穴が空いていました。


「あ、あれは……!」


ナルシーさんと熱血さんの目の前に、木製のドデカいハンマーを携えたエリザベスさんが立っています。


ドンキーコングだ!


「あっぶな!! いきなり何すんのよ!!」


どうやって避けたのかはわかりませんが、ナルシーさんは無傷です。


「わっふぅ!! 気合い入ってんなぁ~!!」


熱血さんも元気です。


「…………は、どこ…………」


「え?」


「──今田くんはどこって聞いてんのよっ!!!!」


∑ドゴォォォーーンッッ!!!!!!


エリザベスさんはハンマーを降り下ろし、二人を威嚇しています。


「そんなの自分で探しなさいよ!! 富士子はね! あんたにボロカスにされたお菓子ちゃん達の恨みを晴らしに来たのよ!!」


「おうよ!! 食い物の恨みは怖いぜぃ!!」


熱血さんは関係ないのでは?


「3時のおやつを渡せぃ!!」


そういうことか。


「質問に答えないやつらは消す!!」


ヒュッ!


ん? エリザベスさんが何かを投げたぞ。

あれはまさか……五寸釘!?


「そうはさせねぇぜっ!!」


熱血さんはどこからともなくバットと野球ボールを取り出すと、球を打って釘を撃ち落としました。


「やるじゃない!」


「へへい!! 俺っちにお前は倒せねぇぜい!!」


逆だよ逆!

〝お前に俺っちは倒せねぇぜい〟だよ!

ちゃんと倒してよ!


「野球魂が燃えるぜぇぇぇ!!」


釘は次々と襲いかかります!


球も次々と襲いかかります!


カキーンカキーンカキーン!!


「まだまだぁ!!!!」


カキーンカキーンカキーン!!


「オラオラァ!!!!」


カキーンカキーンカキーン!!


「うれうれぇ!!!!」


カキーンカキーンカキーン!!


「球がなくなったぁぁぁ!!!!」


∑早っ! もっと用意しとけよ!


「ヒーップアターック!!」


隙をついてナルシーさんが攻撃を仕掛けます。


「邪魔だゴラァ!!!!」


エリザベスさんは、そのお尻をハンマーで思いっきりブン殴りました。……しかし。


ポヨ~~ン♪


ナルシーさんの脂肪はそれをものともしません。


「ふんっ! そんなもの痛くもかゆくもないわ!」


「コノヤロォ!!」


エリザベスさんの手から釘が乱射されます。

しかし、それもお腹のお肉に弾かれて地面に散りました。


ナルシーさん強っ!

熱血さんがいる意味ない気がする。


「このぉ!!!!」


ぶよん。


「せやぁ!!!!」


ぶよん。


しばらくそんな激闘(?)が続きました。


すると、変化は徐々に現れました。

ナルシーさんが細くなってきたのです。


「ヤバい、ナルシーの武器が!」


カスさんは珍しく気を揉んで見守っています。

しかし、変化はそれだけではありませんでした。

痩せていくにつれて、ナルシーさんの移動速度が早くなっているのです。


そして、ナルシーさんが完全にミニ不二子と化した時、彼女は忍者の如く素早い動きで反撃を繰り出していました。


「そりゃ!」


「うぐっ!!」


グラウンドの砂を敵に投げつけ、身動きを封じているのです。


「せい! とりゃ! はっ!」


「うっ! 痛っ! やめろ!!」


四方八方から飛び交う砂に、エリザベスさんは完全に自由を奪われています。

スゴすぎるよナルシーさん!!


──と、そんななか……。


「ビュ、ビューティフォ~……!!」


痩せたナルシーさんを見て、惚れ惚れとしている男がいました。

そう、熱血書記さんです。


「なんて美しい……!! あなたは女神だっ!! アイラビュー!!♪」


オイお前、仕事しろよ!

……とか思っていたら。


「∑グハッ!?」


熱血さんはナルシーさんの流れ弾を顔面に喰らって倒れました。

熱血弱っ!

威勢がいいだけの猿じゃん!


「∑ちょ、ちょっとあんた!! 何してんのよ!!」


「隙ありぃぃぃ!!!!!」


「きゃあっ!!」


一瞬の気を取られたナルシーさんは、エリザベスさんの打撃を背に受けて吹き飛ばされ、校舎の壁に激突しました。


「ナルシーッ!!!!」


カスさんはモニターをがっしりと掴んで叫びました。


「マサハル君っ……富士子くん……! 君達の勇姿は忘れないよ! ──第二陣、出撃を!」


会長さん、躊躇なしですね。


「仕方ありませんわね!」


「∑え、えっ!?」


お嬢さんはピーラーさんの腕を掴んで颯爽と窓から飛び出していきました。

……はい、もうツッコみません。


「頼んだよ、世麗奈くん、チンピラ君……」


だからツッコみませんって。

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