狂愛人間、現る―(13/21)
「──で、それなんだよ」
カスさんは、会長さんが持つ黒い巻物を睨みました。
「なんだろうね。誰かの落とし物かな」
カラスの落とし物では?
「不本意だけど、情報収集のために中を覗かせてもらおう」
わー、なんかワクワクするー。
会長さんは巻物の紐をスルスルとほどきました。
私とカスさんとピーラーさんは顔を寄せて覗き見ます。
ちなみに、ナルシーさんは気絶しています。
理由は…………お察しください。
「──こ、これは……!!」
黒い巻物には、赤い文字でこう記されていました。
〝カリオス今田を愛し、殺す役目は我にあり。──本日15時決行。
エリザベス44世より〟
「「「「……………………」」」」
私が予想した通りだ。
カスさんに黒い春が来たんだ。
「――って、殺人予告じゃねぇか!!!!」
カスさんは長テーブルをちゃぶ台の如く引っくり返しました。
皆さんの朝食は全て床にぶちまけられます。
なんてもったいない。
「どどどどどどどうしよう!!!?」
会長さんは超動揺しています。
「怖~!! やっちまったなカス~!!」
ピーラーさんは笑いながらカスさんの背中をバシバシ叩いています。
「オーマイガー!」
私は雰囲気的に驚いてみせました。
「警察呼べ!! 警察呼べよ!!」
「それはできない!」
「何故だ!!」
「禁則事項です☆」
「きめぇよ!!!!」
会長さんが壊れてる……。
「ドーシテ、警察ダメ?」
「この高校は、通常の高校と児童支援施設との中間である立場の下で建てられた学校だからね。ちょっと複雑な事情があって、易々と警察に頼ると学校の名が廃るらしいんだ」
どんな学校だよ。
死人が出てもいいか。
「俺が殺されるかもしれねぇんだぞっ!!」
「わかってるよ。でも、この学校が白い目で見られるのは嫌なんだ」
だからどんな学校だよ。
「必ず僕がなんとかしてみせる。……エリザベス44世くんか。本来なら児童支援施設に送られるべき人だったようだね。こちらのミスだ」
あれ?
もしかして会長さん、エリザベス44世が、グレートバリアリーフ・エンジェル・エリザベスさんだってこと気づいてない?
「ちょっと待て。お前みたいな頼りねぇやつには頼らねぇよ。この一般ピープルめ!」
なんだかんだ頼ってたくせに。
「これは学校の問題だよ。僕達正生徒会が、先生方のお力をお借りしてなんとかする」
「俺はお前らみたいな常識に縛られてのうのうと暮らしてるやつらの力なんか借りねぇ!! 土日休みの教師の力も借りねぇ!! 極悪生徒会は無敵だ!!」
その極悪生徒会っていうのやめましょうよ。
またはあなた一人でやってください。
「ダメだよ。生徒が危険に晒されているのに、黙って見ているわけにはいかない。困っている生徒に救いの手を差し伸べるのが、僕達正生徒会の役目だ」
「だーかーらー不要だって言ってんだろ!! なぁ! 野郎ども!!」
「「…………」」
私達に何を期待しているんだ。
「おい!! なんで二人しかいねぇんだよ!!」
「ブタ子もいるぜ」
「富士子よ!!」
∑起きた!
ずっと狸寝入りしてたんですか?
「マッケンはどこ行った!?」
「ここにいますよ……」
いつの間にカスさんの後ろに!
背後霊かっ!
「よし、全員集合だ! 俺達極悪生徒会は集まりがいいぜ!!」
「僕達正生徒会も負けてないよ」
ピュウ!
……会長さん、今吹いたのって犬笛ですよね?
「ヘイ!! どうした会長!!」
熱血さんキター!! っていうか熱血さんしか来てない!
熱血さん、瞬発力はあるんですね!
「マサハル君、他のみんなは……?」
「すぐに来るぜ!!」
とか言ってたら、3人の女子生徒が息を切らせながら食堂に入ってきました。
昨日の今日で、約一名を除いた皆さんは体がボロボロです。
そしてやっぱり制服です。
「お、お待たせしましたわ……」
「か、会長っ、また事件ですか……!?」
「……死……」
パタッ。
∑オイ!
擦り傷一つない守護神さんが倒れたぞ!?
「加美くん!? 大事かい!?」
「……無、理……」
ホントに今にも死にそうだ。
一番体力なさそうですもんね。
「おい! 水持ってきたぜ!!」
「近づくなクソカスッ!!」
∑怒鳴った! 怒鳴ったよこの子!
「なによ! せっかくカスが親切にしたのに!!」
「余計なお世話ですわ。──加美、大事ありませんか?」
お嬢さん、それはカスさんが持ってきた水ですぞ。
勝手に自分の手柄にしないでください。
「……小、丈夫……」
小丈夫?
そんな日本語あったかしら。
「チッ、正生徒会にはロクなやつがいねぇな!」
「な、なんですとぉ!? 名誉毀損ですっ!!」
副会長さんはカスさんを睨みました。
「落ち着いて、桃子くん。……みんなごめんね。実はかくかくしかじかで──」
会長さんは今までの経緯をとってもとっても簡単に説明しました。
かくかくしかじかって、アニメじゃないんですから……。
「──まるまるうまうま、というわけですか」
∑通じた!?
「確かにそいつは大事件だ!!!!」
熱血さん声デカい……。
「ですが、それを迅速に処理するのがわたくし達の務めですわ。あなた達極悪生徒会は引っ込んでなさい」
極悪生徒会って認めてる!?
「だから当事者は俺だっつってんだろ!! 俺がいなくてどうすんだよ!!」
「どうもしません。いても邪魔なだけですわ」
「なんだとぉ!?」
私は飛びかかろうとしたカスさんを寸でのところで捕まえました。
「セイセイ。落チ着クノデース」
「おいカス、お前はこんな言葉を知ってるか?」
隣にいたピーラーさんは急に真顔で話し始めました。
「敵の敵は味方、っていうやつ」
「はぁ!?」
ピーラーさんの言葉に私達は聞き入りました。
「僕達もこいつらも、アイツをぶちのめしたいと思ってんだ。だがアイツは強い。尋常じゃなく強い。死ぬほど強い。それなら、協力してぶちのめせばいいじゃねぇか」
その〝ぶちのめす〟っていう表現が引っかかるんですけど。
「きょ、協力……?」
「んなことできるわけねぇだろ!! こいつらと手を組むなんざ死んでも断る!!」
「そんな意地張ってたら、お前が死ぬぜ」
「うっ……」
何故だろう、ピーラーさんがちょっとかっこよく見える。
「正生徒会も頭堅ぇんだよ。僕達は同じ学校の生徒だろうが。協力して何が悪い。この学校には一致団結って言葉がねぇのかよ」
「そ、それは……」
「アイツはカスの命を狙ってる。なら、カスを囮にして敵を待ち伏せして策を練ったほうが得策だろうが」
確かに。
「僕達だってな、カスを守りてぇんだよ!! レイたんの仇を取りてぇんだよっ!!」
後半素が出た!!
やっぱり憶えてるんじゃん!!
「「…………」」
会長さんもカスさんも考え込んでいます。
ちなみに私は、どうすれば自分だけ安全地帯に逃げ込めるか考え中です。
「……わ、わかったよ。君の言い分にも一理ある」
「確かに、俺達の中で役に立ちそうなのはマッケンくらいだからな。人手不足だ」
いやー悪いねー。
「だけど、その場合、前線は僕らに任せてもらう」
「あぁ!? お前らは俺達のケツ拭いでもしてればいいんだよ!!」
コラ、食堂でケツとかいうのはやめなさい。
「それはダメだ!」
「そっちがダメだ!!」
「オメーら協力の意味わかってねぇだろ!」
「チョット待チナ!」
埒があきそうにないので、私は一度口を挟みました。
「ココハ食堂デース。場所ヲ変エマショー」
「そ、そういえばそうだったね; 騒いでしまって申し訳ない……」
会長さんは無関係の生徒さん達に頭を下げて謝罪しました。
しかし皆さん、目もくれません。
また会長さんの好感度が下がったようです。
「では、一旦会議室に行こう」
「ちょっと!! 富士子はまだご飯食べてないわ!!」
いや、ナルシーさんは言っても結構食べていましたよ。
「今は飯なんかどうでもいいだろ」
「バカ!! よくないわよこのおたんこカス!! 腹が減っては良い草も食えねぇって言うじゃない!!」
良い草ってどんな草。
「じゃあお前は食ってから来いマリリン・モンロー!!」
「そうするわジャッキー・チェン!!」
どっちも似てませんから。
──というわけで、私達はナルシーさんを残して会議室へ向かうことにしました。
ちょっと!
服の裾を引っ張らないでください守護神様!!
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