狂愛人間、現る―(11/21)


翌日、日曜日。


「──トロちゅあぁぁぁぁぁん!!!!」


∑ドカーンッ!!


──な、何ごと!!!?


「大変よ大変よ太平洋!!!!」


朝っぱらから騒がしいですよ、フリフリのナルシーさん。

昨日せっかく瞬間接着剤でくっつけたのに、もう破壊しやがりましたね、扉。


「オハヨ~ゴザイマ~ス。ドーカシマシタカ~?」


「どうしたもこうしたもないわよ!! ちょっと来て!!」


えー、まだゴロゴロしてたいのに。


「マタアトデ~」


「今じゃないとダメなのよ!! これは急を要する一大事よっ!!」


へー。なんだろ。


「……ワカリマシタヨ~」


私がよっこらせと立ち上がると、ナルシーさんは私の腕を掴んで走り出しました。


「もぉ!! 遅いわよトロちゃん!! そんなんだからノロマのトロって言われるのよ!!」


それ言うのカスさんくらいでは?


「痛イ痛イ、引ッ張ラナイデクダサ~イ!」


「痛がってるのはあの子よ!!」


あの子?

……まあとりあえず、私はおとなしく拉致されることにしました。




「――ほらほらほらほらあれ見て!!」


ナルシーさんは階段を駆け下りながらグイグイ引っ張ります。

寮の裏庭へ向かっているようです。


「?」


私は、ナルシーさんが指差す先を見てみました。

そこには、ぶっとい釘で木に打ちつけられた一体の人形が……。


「……ウワ……」


呪いの藁人形だ!

生で見たのは初めてだ!


「ねっ! 酷いでしょ!?」


「酷イデ~ス」


……ん?

近づいてよく見てみると、人形に文字が書かれたお札が貼ってある。


えーっと……。


カリオス今田?


あぁ、カスさんのことか。


──って、∑えっ!?


「何度見ても可哀想で可哀想で可哀相で!! トロちゃん早くあの釘取って!! 富士子の力じゃ取れないの!!」


ナルシーさんのほうがパワーキャラっぽいですけどね。

呪縛の力でも働いているのかな。


「仕方ナイデ~ス」


ホントは触りたくないんですけど。


「そっとよそっと!! 丁寧にね!!」


ヤケにこだわりますね、ナルシーさん。

たかがカスさんの人形に。


「ソンナニ~、カスサンガ~、心配デースカ~?」


まさか!

まさかまさかのフラグが!?


「は? 何言ってんの? 誰があんなクソカスの心配なんかするのよ」


えっ!? 違うの!?


「富士子が心配してるのは木のほうよ! この木はね、おばあちゃんに頼んで移植してもらった柿の木なの!! 秋になったら実をつけるのよ!!」


そういうことか。

なんか変だと思ったんですよね。


「ナ~ルホド」


「納得してないで早く取って!!」


「ハイハ~イ」


まったく、人使いがアライグマ。


「セーノ……ソリャ!!」


ズボッ!


「カッキー!!!!」


カッキー!?

木に名前つけたんですか!?


「カッキー大丈夫!? 痛くない!? 痛いわよね!? 守ってあげられなくてゴメンねっ、カッキィィィー!!」


ナルシーさんは木に抱きついて泣き崩れました。


しばらく離れそうにないので、私は人形と釘を持ってその場を後にしました。


てけとてちん。


向かうところは、正生徒会の皆さんが休日用に使っている会議室。

といっても、ただの寮の一室ですが。


まだ朝の6時半だけど、いますかね。


コンコン。


『――ハイ』


いましたよ。

さすが正生徒会、早起きですね。


「グッドモーニング~」


ガチャリンコ。


「あれ、凛・トロピカル君じゃないか。どうしたんだい、こんな朝早くに」


出たのは、頭に包帯を巻いた会長さんです。

チラリと中を覗いてみましたが、他に人の気配はありませんでした。

なんだ、大したことないな、正生徒会。


「オ届ケ物デ~ス」


「お届け物?」


私は穴の開いた藁人形とぶっとい釘を会長さんに差し出しました。


「∑なっ!? なんだいそれは……!?」


「オ届ケ物デ~ス」


「ままままさか君が……!?」


私そこまで黒くないデース。


「違イマスヨ~」


「自首しに来たのかい!?」


聞けや!


「裏庭ノ木ニ刺サッテイタノデ、抜イテキタノデ~ス。私、ノー犯人」


「裏庭の木に……!?」


会長さんは恐る恐るブツを引き取りました。


「デ~ハ、私ハコレデ~」


「ちょ、ちょっと待ってよ! これ、今田くんの名前が書いてあるじゃないか!」


「ソーミタイデスネ~」


「誰がこんなことを……。凛・トロピカル君、知らないかい!?」


何故フルネーム?


「知リマセ~ン。チナミニ、第一発見者ハ、ナルシーサンデ~ス」


「ということは、彼女の可能性も……!」


「ソーレハアリマセンヨ~」


絶対ないよ、絶対。


「では一体誰が……」


「サア~」


「突き止めないと……。冗談でも、こういうことはやっちゃいけない」


「心当タリナラ~、ナイコトモ~ナイデ~ス」


「えっ……!?」


だって昨日の今日ですし、あの後どうなったのかは知りませんが、可能性はあると思います。


「ヨク考エテ~、ワカリマスヨ~」


私はそれだけ言って扉を閉め、ダッシュで逃げました。

後ろで会長さんが何かを叫んでいましたが、無視です無視。


……ああ、なんか胸がザワザワする……。

最近嫌な予感しかしていませんね。

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