第8話

「あら、でもお父さまのお知り合いの方々はみな奥さまきれいですわよ」

 きょとんとしたまま目をぱちくりさせてみかこが言う。まりのは顔を上げ、京子の手が振り払われる。

「そうだよね! はなちゃんみたいなちっちゃい八百屋ならともかく、みかこちゃんみたいな超大きな会社の人たちは奥さんもきれいだよね!」

 にこにこと微笑みながらみかこがうなづく。隣ではなはちょっとむっとしていた。

「そうですわ。みな聡明で美しく、非の打ち所のない方々ばかりですもの」

「そうだよね!」

 はなをおしのけてみかこへとにじりよると手を握った。

「ありがとう、みかこちゃん。いじわるな京子ちゃんのせいで人生真っ暗になっちゃうところだったけど、今光が見えたわっ」

 いじわると言われ少々腹立ちの押さえられない京子は、大股でまりのの背後まで近づくと仁王立ちして見下ろした。

「なに言ってるの、みかこの言ってたこと聞いてた。聡明で、美しい、っていったのよ。まりのは聡明がないでしょ!」

「ひ、ひどい! 京子ちゃんひどい! 世の中言っていいことと悪いことがあるんだよ」

 そう言うまりのをはなは冷たい目で見る。さきほど家業をちっちゃいといわれたことを少し根に持っていた。

「本当のことって、言っちゃだめだよね」

「ひどい! はなちゃんまでそんなこと言うの⁉」

 自分の発言のことなどこれっぽっちも自覚せずに非難した。

「当たり前でしょう、まりの。そりゃみかこみたいな本物のお金持ちの世界なんて私たちは知らないわ。だけどね、他にも会う人会う人偉いっていうのに、馬鹿なままで会話できるわけないでしょ。お互い偉いのよ、そんなお金持ちの世界の中できれいなだけの馬鹿は会話になんて入っていけないわ!」

「そ、そんなこと……」

 といいつつ、自分の頭の中に浮かんでくるものを数えてみた。お化粧やファッションや男性アイドルにスイーツ……それのどこがいけないのかわからなかったが、しかしみかこを見ているとそうしたものにほとんど興味がなさそうに受け取れたので不安になった。

「み、みかこちゃんは……」

「わたくしですか?」

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