第22話 須川家で勉強会(6)

 暗闇の中、目が慣れてきたので顔を見上げる。彼の整った鼻に輪郭、キリッとした目に整えられた眉毛がうっすらと見える。

 黙るとイケメンという言葉はよく聞くが、彼の場合、喋らせるとイケメンなのだと思った。クラスの人達から話しかけることはないが、他のクラスの人達とはどうなのだろうか。それに告白されていてもおかしくない容姿なのでその点も気になる。

「ねえ、聡君」

「うん?」

 彼の胸がピクッと動く。

「聡君って他のクラスの人たちと話したりするの?」

「いや、話さないよ。ただ仲良いやつはいるから、そいつと話すくらい」

「へぇ。告白とかされたりするの?」

「俺が?」

「そう」

「そんな、されたことないよ」

 彼はそう言って嘲笑あざわらう。

「そうなの? 意外」

「俺より他にいい人なんて沢山いるだろ」

「うーん……そんなこと無いと思うけど」

「逆にお前はどうなんだよ」

「私? まぁ、無いことはないけど……」

 過去に二人ほど告白されたことがある。どちらも男子バレー部で接点が多かったからなのではないかなと考える。部活に集中したかったし友達で満足してたので両者とも断った。それに、正直あまり好みでもなかったし……。

「ふーん」

 彼の声が明らかに低くなった。

「あれ? もしかしてやきもき?」

 彼から返事が来なかった。ここで不貞腐れては良い雰囲気が台無しになってしまう。

「け、けど全員断ったし、聡君が最初だよ」

「……そうか」

 彼の声のトーンが少しだけ上がった気がする。こういう分かりやすい所も彼の魅力の一つである。

「私、ずっとこうしてたい」

「俺も。このまま紗綾の事離したくない」

 キュッと胸が締め付けられた。彼に心をギュッと握られた気分だ。

「私も離れたくない」

 うん、と薄っすらと彼が嬉しそうにしているのが見える。

「いつもならこんなこと言えないのにね」

「本当だな。死んでもこんな事言えないよ」

「今言ってるって事は死んでるのかな」

「あははは! そうかもな」

 何故だろう。お酒なんて飲んでいないし、飲んだ事もないのだが酔っ払った気分になる。深夜だから無駄にテンションが上がっているのか、はたまた暗闇で何も分からない状態だから何をしてもいいと錯覚しているのか。原因は分からないが、変な気分だ。凄く気分がいい。暗闇だからこそ本音が言える。

「はぁ」

 私はふと、大きく息を吐く。

「どうした?」

「凄く落ち着くと思って。聡君、温かいし、いい匂いするし」

「そうか? それは嬉しいな」

 彼は嬉しそうな顔をしていていながらも少し照れている様子だ。

「俺も紗綾を抱き締めてると落ち着く。いい匂いだし……柔らかいし」

「柔らかいって何が?」

「え、えっと体が。け、決してその……胸が当たってるのを意識してるわけじゃないぞ!」

 素で聞いてしまったが、今更ながら私の胸が彼に当たっているのに気付いた。

「え? あ! ごめん!」

 私はスッと彼から離れた。

「い、いや、俺の方こそごめん。嫌だったろ?」

「ううん! ま、まあ、その、聡君だから……いいよ」

「おお、そうか……良かった」

 寒いだろ、と彼は布団をバサッと上げる。私は甘えて彼の元の位置に戻った。

「もうそろそろ寝ようか」

 時計は見ていないが長い事話をしていたし、いい時間だろう。

「うん。そうだね」

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみ」

 彼はその後、ものの数分で寝息を立てる。緊張しているのは私だけ? こんな事されて寝られるわけないじゃん。そう不貞腐れながらも私もまた眠りに就いた。

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