第17話 須川家で勉強会(1)

 松田達と別れて須川の家に着いた。彼の家に向かう道中、コンビニで少しお菓子とジュースを買ってきた。

 早速チャイムを鳴らすとしばらくして須川が出て来た。

「いらっしゃい」

 彼は寝巻きでいた。

 寝ていたのだろうか。髪の毛が少しボサボサになっている。

「お邪魔します」

「おう。悪いなこんな格好で」

「ううん! 全然そんな事ないよ」

 私服とはまた違う格好を見られて得した気分になった。

 恋は盲目。昨日私が自覚したように寝巻き姿の彼もまた素敵に思えた。

「コンビニでちょっとお菓子とジュース買ってきたよ」

「悪いな。そんな気使わなくていいのに」

「そんな事ないよ。今日もお父さんは遅いの?」

「ううん。今日は帰ってこない」

「あ、そうなの?」

「うん」

 部屋に入り彼は座布団によいしょ、と座った

「まあ最初はゆっくりしようぜ。来たばっかりだし。それに、時間もいっぱいあるだろ。紗綾は今日、何時まで大丈夫なんだ?」

「今日は何時でも大丈夫だよ」

 私の家は放任主義な所があるので、深夜とか極端に遅い時間でなければ特にとがめられることはない。聡君のお父さんいないしせっかくだし夕飯でも作ってあげようかな。カップラーメンばっか食べてそうだし。

「せっかく来たし良かったらその……夕飯作ろうか?」

 私はしどろもどろに言った。

「え、ホントか!? いいのか作ってもらって」

 彼は目を輝かせている。

「うん! いいよ! 味は保証できないけど……」

「いいよいいよ! マジか。嬉しいな。お願いするわ」

「うん! 任せといて」

 こんな早くお披露目する時が来るとは。料理しといて良かったと心底思った。

「じゃあ、紗綾の夕飯を励みに勉強始めますか」

 須川の合図と共に勉強が始まった。



 


 勉強してしばらく経った頃、私はある事に気付いた。

 聡君、意外と頭いいんだ。

 失礼だが、彼が勉強出来そうには思えない。私が勉強を教えなければ――そう意気込んでいたが、逆に私が教えられる立場にいた。私も決して頭は悪い方ではない。テストだと大体中間ぐらいの順位に位置している。しかし、よく考えて見るとこの前の水族館の時だって哲学的な事が口から出てくるのだから頭が悪いはずがない。

「聡君、頭いいんだね」

「そうか? 頭良くないよ」

「いやいや。私、現代文凄く苦手だし。さっきから聡君に教えてもらっちゃってるし」

 理数系は得意なのだが文系がどうも苦手だ。数学とかは答えが決まっているが、現代文。特に読解なんかは分からない。作者の気持ちを答えよ、とかそんなの知るか。といつも思っている。

 そして何より教えて貰ってる時、聡君との距離が近い。しかもいい匂いだし全然集中できない。

「いや。たまたま現代文が得意なだけだよ。漢字はまあ、暗記だけど読解とかは本を読んでれば自然と分かってくるよ」

「えぇ、そうなの?」

 テスト当日とかになると、私勉強してなーい。と言いつつ高得点を取る人クラスに大抵一人はいるが、きっと須川はその類に違いない。

「そうだよ。紗綾は本とか読むのか?」

「いや、読まないかなぁ。聡君は読むの?」

「うーん。まぁ読むよ。すごい読んでるって程でもないけどな」

 この前来た時は気づかなかったが改めて棚を見ると確かに小説が並んでいる。

 聡君、本読むんだ。意外。

 また新しい彼を発見して私は嬉しさと驚きが入り混じった気持ちになった。

「へぇ……。なんかちょっと意外かも」

「そうか?」

「うん。なんか高校生で小説読む人って少ないイメージだな」

 文学少女、後はライトノベルなどそういう類の本を読んでる人達しか読まないのかな、と思っていた。

「確かにそんなにいないかもな。俺も本が好き! って訳じゃねぇし」

「あ、そうなんだ」

「うん。本は好きだよ。ただ、常日頃持ち歩いてたり月に何冊も読むって事はないかな。寝る前とかに読んだり、中途半端に暇が出来るといい感じに暇潰しが出来るからその時に読むかな」

 なるほど。暇潰しにはいいかもしれない。ちょっとした空き時間に読んだり移動の時に読んだり。携帯を弄るより良いかも。

 彼にそう言われて、また棚を見てみた。ざっと数えて二十冊前後だろうか。充分多いと思ったが、彼にとっては少ないらしい。

「ふふふ」

「どうした?」

 須川は怪訝な顔で私を見ている。

 バカにしてるのかと言わんばかりの顔だ。

「いや、意外だったからさ」

「そうか?」

 続けて須川が言った。

「なんだ? バカにしてるのか?」

 彼はムッとした表情で言った。

「してません。聡君の意外な一面が見られて嬉しかっただけ」

 本なんて興味なさそうな須川が本を読むと聞いて驚きはしたが、それと同時にまた彼の知らない一面を知ることが出来て、嬉しい気持ちになった。

「なんだそれ」

 腑に落ちない様子ではあるが、怒ってなさそうで安心した。

「あ、そうそう話変わるけど、スイパラに行ってから都市伝説とかミステリー系調べるようになったんだよね」

「へぇ、それは嬉しいな。けどそういうの苦手じゃなかったか?」

「お化けとは無理だけどそれ以外なら何とかって感じ」

「そうか。なんか面白いのはあったか?」

「うーん。凄く印象に残ってるのはカスパーハウザーかな」

 カスパーハウザーとは謎が多いドイツの孤児だ、一六歳の時に公園で発見されてそれまでは地下の光の届かないところにずっといたとされている。

「おお、これはまたマニアックだな」

 予想外の答えに驚きのあまりか笑みがこぼれている。

「聡君知ってる?」

「勿論知ってるよ。謎の少年でしょ?」

「そうそう。寝る前に調べてたんだけど気になってずっと調べちゃった」

「確か最後は暗殺されちゃうんだよな。どこの人で何の人なのか分かってないみたいだしな。貴族の世継ぎ何じゃないかって話だよな? バーデン大公だっけか?」

「そうそう! よく知ってるね」

「前に調べたことあったんだ。他にも色んな説があるみたいだぜ」

「へぇ」

「今じゃ考えらんないよな」

「そうだね。昔だからこそそういうことが起きたのかもね」

 今ほど科学が進んでいない上に、身分や色んなしがらみが多かったからこそ起きたことなんだなとしみじみと思う。

「さて休憩はこれくらいに勉強すっか」

「そうだね」

 疲れも少し回復して勉強を再開した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます