第14話 水族館(2) 〜哲学的なお話〜

 食事も終え、残りを引き続き見ることにした。

 次はイルカやアシカなどの哺乳類が展示されている所にきた。入り口にいたイルカとはまた違う種類だ。

「可愛い!」

「へぇ、結構泳ぐの速いんだな」

「本当。よく水槽にぶつからないよね」

 可愛い顔をして泳ぐのが速い。水槽が大きくないからかなのか余計に速く見える。

「あ、ラッコもいる!」

 ねぇ、あそこ!――と振り返ると彼は微笑ましそうに見ていた。

「須川君ももっと近くで見ようよ!」

「おう」

 彼は私の隣に来た。

「へぇ、可愛いな」

「でしょ! ずっと見てられる」

 そう言ってボーッとラッコを眺める。お腹の上に子供が乗っている。子供はまるでいかだに乗っているかのようだ。

 須川の事が気になってチラッと彼の方を見る。

 微笑ましくも見え、どこか哀れんでるようにも見える。もし彼が哀れんでいるのならば、その理由は私にも分かるかも知れない。

「可愛いな」

 須川が口から漏れるように言った。

「そうだね。なんか人多くなってきたね」

 人気だからなのか、周りに人だかりが出来てきた。

「ちょっと休憩するか?」

「うん。そうしよう」

 私達は人だかりをかき分けて近くのベンチに座った。

「疲れてないか?」

「まだ平気」

「そうか」

 私達は人だかりの奥に見える水槽をボーッと眺める。

「なんか私、思うんだけどさ」

「うん?」

「魚もそうだけど、ずっとこの中にいてちょっと可哀想だなって思っちゃう」

 決まった時間に決まった餌。代わり映えしない風景の中で暮らして果たして生きているなんて言えるのだろうか。せっかくのデートなのに感傷的になってしまう。

「まあ、そうだな」

 しばらく彼は何かを考え始めた。

「俺は、野生で生きてきた動物がこんな所に入れられたなら可哀想だなって思うな」

「というと?」

「いやさ、大自然の中を自由に過ごしてきた動物達が、いきなり知らない奴に捕まえられてこんな狭い所に入れられちゃうんだぜ。それもずっとな」

「うんうん」

「けど、水族館で生まれて水族館で育って、水族館で死ぬって言うのであれば話は別だと思うんだよね」

「うーん……。それは何で?」

「その動物達はこの水槽しか知らないからさ。他の世界を知らないんだよ」

「ほう……」

 話を投げかけたのは良いが、彼の話が難しく首を傾げてしまう。

「なんて言うのかな……。坂本は海外に行ったことある?」

「行った事ないな」

「へぇ、そうなんだ可哀想」

「どういうことよ」

 そんな風にバカにされるとムッと来る。

「まあまあ。話を聞いてよ」

 彼は私を宥めて続けてい言った。

「今、俺が坂本に言った事は、お前があの動物達に言った事だと思うんだよね。生まれてからずっと日本にいるのと、生まれてからずっと水槽の中にいるのって同じだと思うんだよ。規模は違くてもさ。うーん……そうだなぁ」

 須川はまた考え始めた。

「坂本は小学校の頃とか隣町に行きたいと思った?」

 彼は問いかけてきた。

「うーん。別に行きたいとは思わなかったかも」

 学校に行って、近くには公園があり、休みの日はよく友達と公園で遊んだものだ。確かに思い返して見ると学校行って、休みの日は友達の家か公園で遊ぶだけで事が足りていた。

「でしょ? じゃ今はどう?」

「今は嫌かな」

「だろ。じゃあそれは何で?」

「うーん。他の街に行ったから?」

「まあ、正解っちゃ正解だな。隣町、他の所にはもっと楽しい場所や新しい友達がいるだろ? それを知ってしまったからだと思うんだよね」

 なるほど。少し分かってきた気がする。彼は続けた。

「動物も一緒さ。大海原を自由に泳いでいたのにある日突然、水槽に入れられちゃってさ。その動物達は自由を知っているからこそ辛いと思うんだよね。逆にここで生まれて育った動物って当たり前だけど、野生に返したりしないだろ?」

「うん」

「さっき話したことと一緒。そいつらにとって水槽の中がすべてなんだよ。自分達の世界はこの水槽だけ。そう思ってるんじゃないかな。外の世界を知らないから辛いっていうのはないと思うんだよね。知らぬが仏、って訳じゃないけどさ。まあ、確かに外の世界を知らないまま死んじゃうのは可哀想だとは思うけどな」

「なるほど」

 須川は力説した。

 ここまで深くは考えてなかったな。彼の感性に感心する。

 本当に彼は関われば関わる程、知らない面が出てくる。

「あ、ごめん。ちょっと熱く語りすぎたわ」

 呆気に取られてるのを見て謝罪した。

「ううん! 須川君すごいね。私なんて全然そんなに深くまで考えてなかったよ……自分が浅はかというかなんというか……」

 自分の馬鹿さ加減で出てきて恥ずかしい。

「いやいや。俺、変わってるし。だから周りから浮いているんだよ」

「い、いや」

 そう言われて言葉に詰まる。彼の言うとおり、確かに浮いている事には間違いない。

「ははは。まあ哲学的な話は終わりにして次の場所に行こうぜ」

「あ、うん」

 次の所に行こうとしたら場内アナウンスが流れた。どうやらもうすぐショーが始まるらしい。

「どうする? せっかくだし見るか?」

「うん! 見たい」

 私達は会場へ向かった。

 

 

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