第13話 水族館(1)

 約束の土曜日。

 待ち合わせは前回と同じく、十時に私の最寄駅に集合だ。

 最近、肌寒いので秋、初冬に着るような格好にしてきた。迷いに迷ってこの服装にしたから集合時間ギリギリとなってしまった。

 駅に着くと須川が待っていた。

 黒スキニーに革靴、白ニットに少し薄手のコートを羽織っている。

 学校の時の彼では考えられないような服装を毎回してくる、と感心する。

「ごめんねお待たせ! 待った?」

「いや、今来たところだ」

 もはや定番と言えるやり取りをした後、二人は水族館へと向かった。

 地元から少し離れた水族館で私達の高校ではカップルがデートでよく使われている場所だ。




 水族館に着くと家族連れで賑わっている。

「大人二枚で」

 須川は窓口に入場券を求める。

「ごめんね。ありがとう」

「いいえ」

 須川にお金を出してもらって早速中に入る。

「いやぁ。俺、水族館に来るの久々だわ」

 彼はそう言って館内を見渡す。

「ほんと? でも、男子同士でこういう場所には来ないよね」

「うん。小学生の時以来かな」

「へえ。でも、そんなもんだよね。あ! イルカだ! 可愛い」

 話していると早速、水槽が現れ、イルカと他の動物も中で泳いでいる。

「意外と泳ぐの早いんだな」

「ね! ビックリしちゃった。イルカ以外にいないのかな」

「うーん。もっと奥にいるんじゃないか? 進んでみようぜ」

 私達は順路に沿って歩く。最初は深海コーナーのようだ。辺りは薄暗く水槽にはブラックライトが照らされている。

「深海魚ってなんだか不気味で怖いよね」

 全然可愛くないし……おいしそうにも見えないし。

「目がなかったりする魚もいるし余計だよな」

 ははは、と彼は笑った。

「たしかにね」

「けど、ロマンがあっていいよなあ。光が届かない場所で生活してるんだぜ。それにまだまだ発見されてないのも多いらしいしな。なんか、俺ずっと見てられるわ」

 須川はまじまじと水槽を見ながらそう言った。

「えぇ、凄いね。私は好きじゃないな」

「そうなんだ。じゃあ違う所行くか?」

「ううん! 大丈夫! ごめんね気遣わせちゃったね」

「ほんとか? じゃあ、もうちょっと見る」

 須川そう言って水槽を眺めた。彼の端正な顔立ちにしばらく見とれてしまう。

「どうした?」

 私の視線に気付いたのかこちらに顔を合わせる。

「ううん! 何でもない」

「そうか。よし、次行くか」

「うん。行こうか」

 次は、温暖な気候に住んでいる魚たちの展示コーナーのようだ。

「ああ! あれカクレクマノミ? 可愛い!」

 私は早歩きで向かった。

 水槽の中は珊瑚礁になっていて、そこで魚達が泳いでいる。

 ふと須川の方を見ると水槽とは違うのを見ていた。彼が見ている方に顔を向けると、どうやら魚達についての説明を読んでいるみたいだった。

「へぇ、須川君、そういうの読むんだ」

「え? ああ、まあな。坂本は読まないのか?」

「うーん。あんまり読んだことないかな」

「説明を読んで水槽を見るともっと楽しめるぞ」

「へぇ。じゃあ、私も読もう」

 今まで何となく読んでこなかったが、いざ読んでみると意外と面白い。魚の特性を知ってから現物を見るのでより深く楽しむことが出来る。

「可愛いなぁ。写真撮ろっと」

「おい、フラッシュは焚いちゃ駄目だからな」

「分かってるよ」

 そんなの私だって知ってますよ――ムッとした表情で言った。

「ったく」

 彼は苦笑気味で言った。

 須川の言葉を聞き流し、水槽を眺める。色とりどりの魚が可愛らしく泳いでいる。しかしずっとこの中で生きていくのも可哀想だな、とも思ってしまう。果たしてこの魚達は幸せなんだろうか、そもそも考える頭は持っているのか。色々と感傷的になってしまう。

 しばらく眺めて満足したので須川に話しかける。

「須川君、次行く?」

「いいよ。てかもうお昼か」

「もうそんな時間なんだ。先に食べちゃおっか」

 一旦切り上げて先にお昼を食べることにした。






「なんか水族館で食う飯も新鮮だな」

 須川はラーメンをすすり言った。

「確かに。そりゃあ普段こんな所で食べないもんね」

 ふふふ、と笑う。

「にしても意外と高校生いないな。もっといるかと思った」

 確かに彼の言う通り、家族連れと二十代と見られるカップルがほとんどだ。私も内心少し驚いている。

「本当だね。何でだろうね」

「さあね。たまたまじゃねぇのか?」

 うん。美味いな――とズルズルすすっている。

「ふーん」

 まぁいいか、と私も頼んだラーメンを口にする。

「須川君は前に来たときは家族と?」

「そうだよ。あんまり覚えてないけどな。坂本は最後に来たのいつなんだ?」

「うーんとね。確か去年の今の時期くらいだったかな」

「へぇ。最近っちゃあ最近か。友達と?」

「そうそう。バレー部の人たちとね」

「仲良いんだな」

「まぁね、けど大変だよ。派閥とかあるから面倒なんだよね」

「派閥?」

「そうそう。グループ同士のね。私はそういうの好きじゃないからその辺はあんまり関わらないようにしてるけど」

「へぇ。色々あるんだな……」

 彼は哀れんだ顔をして言った。

「けど、坂本も仲良いグループとかはあるんだろ?」

「あるよ。けど、そういういざこざはないけどね」

「ふーん。塚本は違うグループなの?」

「そうだよ。塚本は……まぁ……なんていうの、そのグループを取り仕切ってる感じ」

「だろうな。じゃないと高岸にあんなことしねぇだろ」

「そうだよね……その辺男子はいいなぁ。私も男に生まれたかったな」

 はぁ、とどこか抜けた声で言った。

「何でだよ。そしたら俺と付き合えなかったじゃん」

「え? ま、まぁそうだけど……」

「俺は坂本が女子で良かったけどな。こうして付き合えることが出来たし」

 このスープ中々美味いな!――なんて呑気に飲んでいる。彼は鈍感といか天然というか。そういう所が好きなんだけども。

「どうした? お腹いっぱいか? まだまだ今日は長いぞ」

「ううん。まだ食べるよ」

 そう言って私も食事を再開した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます