第12話 都合のいい女子

次の日。昼休みは相変わらずいつも通りのメンバーで座談会をしていた。

「ねぇねぇ。そう言えば紗綾って須川君とどうなの?」

 話を切り込んできたのは関口だ。

「どうって。うーん別に普通だよ」

「須川君の事好きなったりしない?」

 それに関してはつい昨日好きになったばっかりだ。

「うーん……好きになったかな」

 彼女達に隠してもしょうがない。意地を張って好きじゃないと言い続けてもかえって気を使われるだけだ。

「え、マジ!?」

 三人は驚いた。

「そりゃあ、罰ゲームで付き合ったとは言え、ちゃんとしたカップルなんだから」

「まぁそうだけどさ。てかなんか好きになったきっかけでもあったの?」

 関口が不敵な笑みを浮かべる。

 俺さ、坂本が彼女で本当に良かったよ。俺こんな風だしさ。告白された時は凄い嬉しかった。それに……坂本の事、本当に好きなんだ――昨日の情景が思い浮かぶ。あの時の言葉と表情は私だけの物にしたい。

「うーん。きっかけとかはないよ。付き合っていく内にちょっとずつって感じ」

「へぇ。いいなぁ。紗綾が一番乗りかぁ。私も彼氏欲しいな」

 松田はそう言って天井を見上げた。

「あんた達ならすぐ出来るよ」

「出来ないよ! あーあ、罰ゲーム私が受ければ良かったかなぁ」

 はぁ、とため息交じりで松田が答える。

「愛美が受けたところで須川君と付き合えるとは限らないよ。須川君、私のこと好きだったみたいで、それでOKしてくれたんだって」

「そうなの!? いつから!? もっと詳しく!」

 松田が前のめりで聞いてくる。他の二人も彼女と同じ姿勢になった。

「えっと……。あ! 先生に部活の日誌を渡さなくちゃいけないんだった! ちょっと行ってくるね!」

「逃げたな」

 小林が怪訝な顔をしている。

「ま、まあまた今度ね!」

 そう言い残して私は職員室へと向かう。

 確かに須川はいつから私のこと好きになっていたのだろうか。付き合うまでは話したことすらなかったのに、何かきっかけでもあったっけ――考えて見るも何も思い浮かばなかった。






『部活、終わったよ!』

 部活が終わり須川にチャットをした。

 彼から返信が来たのは夜になってからだ。

『お疲れ。悪い、バイトしてた』

 やはりそうだったか。今まではさほど気にしなかったが、昨日須川の家に行ってから彼からの連絡が気になってしょうがない。

『お疲れ様! 今家に帰ってきたの?』

『うん』

 坂本は時計を見ると二十二時を回っていた。

『こんなに遅くまで引っ越しのバイトだったの? 大変だね』

『変に長引いてしまってな。しかも帰るとき先輩に捕まったし』

『そうなんだ。あまり無理はしないでね』

『おう。サンキュ』

 やり取りをしているうちになんだか無性に彼に会いたくなってきた。本当に須川に惚れたんだなと自覚する。が、当然会いに行ける時間ではないので気持ちを抑えるしかない。

 私は気を紛らわせるかの様にやり取りを進めた。

『須川君って平日でバイト休みの日とかあるの?』

『基本ないかな。シフト制なんだけど土日休みを希望してるから平日は全部入れられてる。前は土日関係なく、今よりももっとシフト入れてたんだけど、やっぱり体力的にキツくてな。成績も落ちてこの前、先生に呼ばれてさ。ほら、坂本が俺に告った日』

 なるほど。だからあの時間いたのか。素行不良で生徒指導室に呼ばれていたのかと思っていたが、ちゃんとした理由があったらしい。

『それで、バイトの数を減らしたの?』

『うん。体調も崩しやすくなったしな。だから平日はがっつりバイトして、土日は思いっきり休もうって思ってさ。所長もいい人だからOKしてくれたんだ。土日が一番忙しいのにさ。だから今は全然平気。けど、またバイト増やして坂本とどっか行けるようにお金を貯めようかなって思ってるんだよね』

 彼はどうしてこう、本当にドキッとするような事をさりげなく言うのだろう。須川の性格的に狙っている訳ではないのは分かる。

『いやいや! ダメだよ! 健康第一だよ。それに私は須川君と一緒に居られればいいから。須川君が倒れたりしたら嫌だからね」

『ありがとな。まあこの話は終わりで。ちなみに今週は空いてるか?』

『今週? 今週は土曜が空いてるよ』

 秋の大会も終わり、前にも言ったが、夏の時よりも休みが多い。

 だからなのかバレー部の人達は秋の大会が終わってから恋人が出来る人が多い。

『土曜か。ならその日どっか行かないか?』

『いいよ! どこに行く?』

 そう送ったは良いが、最近結構お金使ってるし今いくらあるかな――カバンから財布を取り出し確認する。

 どうしよう。全然お金がない。

 部活をしていてバイトをする暇がない私の家はお小遣い制なのだが、それも底が尽きようとしていた。

 母にでもお願いしようか。でも、前にもお願いした気がする。

 借りるにも借りられない状況なので今回は渋々断る事にした。

『ごめん。財布の中を見たらお金がなくて……。家とかお金かからない所だとありがたいな……』

 須川からは既読はついたがしばらく返信がこない。

 やらかしてしまったかな。そう不安に思っていたら返信がきた。

『今週は親父も休みで家にいるからキツいな』

『そうだよね……。私もお母さんあるから厳しいな。今週は遊ぶの辞めようか』

『なら今回は俺がお金を出すよ』  

『え? いやいや! それは申し訳ないよ!』

 家が大変でバイトを掛け持ちしているのにデート代まで出してもらうなんて、それはさすがに気が引ける。

『いや、大丈夫。俺の貯金も少しあるし。ただ、あまり高い場所には行けないけどな。それに、お金がなくなるより坂本に会えなくなる方が嫌だし』

 本当になんてカッコいい事を言うんだろう。ホント須川君大好き――一昨日までの私とはまるで別人だ。自分でも都合の良い女だなと笑ってしまう。

 しかし今回はお言葉に甘えよう。私はそう思った。

『じゃ、今回だけお願いします……』

『おう。で、どっか行きたい所ある?』

 この前はショッピングモールに行って映画も見たしどうしようかな。高そうな所も行けないし。悩んでいたら続けてメッセージが来た。

『水族館かプラネタリウム。どっちに行きたい?』

 どっちも行きたい! と送りたいのは山々なのだが、お金を出してもらう身でそんな事は口が裂けても言えない。

『水族館に行きたい!』

 迷った末、水族館に決めた。プラネタリウムは見たら終わりだけど水族館は色んな魚がいてショーも見られてお得だし。

『はいよ。じゃあ、水族館にするか』

『うん!』

『楽しみだな。じゃあ俺、そろそろ寝るわ』

『私も楽しみ。うん、おやすみ』

 次は水族館か。どんな格好で行こう。胸を踊らせて眠りについた。

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