第11話 家デート(2)

お互い顔を赤くして変な雰囲気だ。ここは一転して違う話をしよう。

「そっか。それなら良かった……。ねぇ、レインボーのDVDとかあれば見たいんだけどいいか――」

「全然いいよ! 何がいい? と言っても分からないよな。ちょっと待ってろよ」

 須川は嬉しそうにそう言うと私に背を向けてレインボー関連が置いてある棚を漁りだした。

「あーこれがいいかな。いや、これは玄人向けだな」

 彼はブツブツ言いながら探している。

 私はそれを微笑ましく見ていた。若干の申し訳なさもあったが彼にとってはそんな心配は要らないだろう。その申し訳なさもすぐに消え失せた。

「うん。これがいいかな」

 坂本は満足気にそれを坂本の元へ持ってきた。

「これを見ようぜ。このDVDはレインボーが一五周年の時にやったライブのDVDなんだけどさ、セトリもすげぇ神だし衣装もすげえいいし」

「へぇ、そうなんだ! 後セトリ? って何?」

 セトリだかサトリだかよく分かんない専門用語的な物を初めて聞いた。

「ああ。セットリスト。略してセトリ。要はライブにやる曲の順番を示したやつだな」

「あ、そうなんだ。へぇ」

「まあ百聞は一見にしかずだ。早速見ようぜ」

 彼はそう言ってゲーム機を立ち上げた。

「うん? ゲームやるの?」

 私は思わず須川に聞いてしまった。

「え、やらないけど。なんで?」

「だってこれゲーム機でしょ?」

「ああ。これで見るんだよ。ゲームだけじゃなくてDVDも見れたりするんだぜ。最近のゲーム機ってやつは。動画とかも見れるしな」

「へぇ」

 普段、ゲームに触れる事ないので深く感心した。

 今のゲーム機って凄いな……これが今や普通なのかな。なんかおばさんみたいな事考えてるな私……。

 そうこうしているうちにDVDが再生された。

「すごーい! お客さんいっぱいだね!」

「だろ! この日は五万五千人入ったんだよ。けど、まあ見ての通りすげえ雨でさ、この日は大変だったよ」

 須川はまるで自分の事のように喜んで話した。

「須川君、この日のライブに行ったの?」

「行ったよ。この日が初めてライブに行った日なんだ」

「へぇ、そうなんだ! お母さんと行ったの?」

「そう。母ちゃんに連れられてな。そこで俺もハマったんだ。この時が最初で最後の一緒に行ったライブなんだけどな」

「あ、そうなんだ……。また聞いてごめん」

「いやいや、俺も余計なこと言っちゃったな。もう謝るのはなし。ほら、もう少しでコンサートが始まるぞ」

 そう言って彼はモニターに指をさした。

 メンバーが登場して曲を弾き始める。レインボー、初めて見たけどカッコいい。これは確かに流行っていたのも納得だ。やっぱり長い事やってるからなのか貫禄もある。私はふと須川の方見ると楽しそうに見ていた。

 彼の解説を交えながらレインボーの世界観に引き込まれあっという間にDVDも終わってしまった。

「どうだった?」

 須川が聞いてきた。

「すっごく良かった! 私もハマっちゃうかも」

「ほんとか!?」

 須川が今日一番の笑顔を見せてきた。

「そうかぁ。さすが坂本、分かる奴だな」

 そう言いながら頷いている。

 褒めているのだろう。私は少し嬉しくなった。

 須川が続けて言った。

「あ、そうだ。まだ先の話なんだけど三月にレインボーのコンサートがあるんだけど一緒に行かないか?」

「え!? 行きたい!」

 こんなにかっこいい物を見させられて行きたくないはずがない。

「ほんとか! じゃあ、チケット申し込むな。もし当たったらだけど、お金は渡せるときでいいから」

「うん。分かった。ありがとう」

「これで楽しみも一つ増えた」

 彼が嬉しそう言った。そう言われるとこっちまで嬉しくなってくる。

「私、コンサートに行くの初めてなんだよね」

「そうなの? いいよコンサートは。じゃあ余計に楽しみだな」

「そうだね。服装とかどうしよう」

「別に普通で大丈夫だよ。年齢層が広い分、色んな人が来るから」

「そうなんだ。よかった。あ、ちなみにチケットいくらぐらい?」

「うーん。確か九千円かな」

「結構高いんだね」

 コンサートとかに行った事がないから全て友達からの聞いた話だが、どれもチケット代はレインボーに比べて安くて、そのぐらいの値段かと思っていた。

「まあな、けどその分演出が凝ってるからその辺でお金がかかってるんだろ……多分。足りないようなら俺が出すし」

「いやいや! それは本当に大丈夫だから! ちなみに場所はどこでやるの?」

「えっとね――」

 どうやら東京のある競技場で行われるらしい。有名なアイドルとかがそこでやっているイメージだ。

「へぇ、凄いね。そんなにお客さんが来るの?」

「来ると思うよ。前も同じところでやったんだよね」

「須川君も行ったの?」

「うん。その時は一人で行った」

「あ、そうなんだ。本当に好きなんだね」

「うん。あの時は迷いながら行ったよ」

 あはは、と彼は笑った。

 東京となると新幹線で行くようになる。

 電車でも行けなくはないが長い道のりになりそうだ。そうすると三月までにお小遣いを貯めておかなくては。節制する生活が始まるな。

「日帰りで行くの?」

「いや、日帰りだとキツいしどこかに泊まりたいけど坂本がキツいよな。そうすると少し早めに会場を出て終電で帰るかようかな」

「なるほど。後でお母さんに聞いてみるね」

 高校生二人が東京でお泊りに行くのは流石に私の親でもそう簡単には首を縦に振らないだろう。

「よろしく。てか坂本の周りで行ってる人はいるの?」

「いるね。ライブの為にバイトしてるって子もいるしね」

「へぇ」

「須川君はレインボー以外にも行ったりするの?」

「行くね。メタル好きだからさ俺」

 メタルなんて全くの無縁だ。怖くてモヒカンの人が聞くというイメージしかない。

「へぇ……メタル……」

「まぁ……そこは……ね。そう言えば坂本は好きなアーティストとかいるのか?」

「うーん」

 そう言われて考えてみるといないかもしれない。今流行りの物、流行ったものを聞いてるぐらいだ。

「そう言われてみるといないかなぁ」

「へぇ。じゃあ普段、何聴いてるんだ?」

「うーん。流行りの物とかかなぁ」

「友達もそんな感じなのか?」

「半々ぐらいかな。好き歌手いる人とそうじゃない人」

「なるほどな。話が逸れちゃったから話を戻すけど、ライヴも一緒に行くし他のDVD見るか? あぁ……けど最初だし今日はこれだけにするか。あんまり見過ぎても疲れるもんな」

 そう言って須川はDVDを取り出して元の場所へ閉まった。

 その後も私にレインボーについて語った須川。

 一方的に語るだけでなくちゃんと私にも聞いたり、他の話も交えてだったので聞き疲れる事はなかった。そのおかげで私もすっかりレインボーにハマってしまった。


 時間はあっという間に過ぎて、帰宅する時間が来ようとしていた。

「あ、もうこんな時間だ」

「本当だ。もう帰らないとな」

「うん。今日はありがとう。またお邪魔するね」

 やましいこともなく一人で安心する。

「おう。あ、後……俺さ……」

「ん? どうしたの?」

 須川何かを言いたそうにしているが躊躇とまどっている。

「須川君?」

 私は思わず彼の顔をのぞき込む。

「俺さ、坂本が彼女で本当に良かったよ。俺こんな風だしさ。告白された時は凄い嬉しかった。それに……坂本の事、本当に好きなんだ。だから、これからもよろしくな」

 彼は顔を真っ赤にしながらそう言ってきた。けれど、どこかスッキリした顔をしている。

 あ、私、須川君の事を好きになっちゃった――そう確信した瞬間だった。

 恋に落ちるとはまさにこの事なのか。心を銃で撃ち抜かれたような感覚。私の心は自分の物ではなくなった。須川に持っていかれた。そんな感覚になった。

 こんなにもあっさりと彼のことを好きになるなんて自分でも驚く。

 今さっきまであった悩みや憂鬱がバカみたいだ、そんな気持ちはもうどこかへ消え失せた。

 もうきっかけ何てどうでもいい。これで私も変に気する事なく彼と向き合うことが出来る。

「私も……須川君の事好きだよ」

 そう言ってと私と須川は肩を寄り添った。

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