第10話 家デート(1)

混沌とした気持ちを抱えたまま、約束の日曜日になった。部活を終え、急いで家に帰ってご飯を掻き込み、部屋の戻って私服に着替えようとしていた。

 今日の服どうしようかな。下着も……お気に入りのこれにようかな……。べ、別にそういうやましいのはないけど! 備えあればうれいなしって言うし……絶対ないけど!

 何とか服を決めて須川に連絡した。

『お待たせ。今から行くね!』

『了解。駅で待ってる』

 なんか緊張してきた。須川君ってたまに大胆な時あるよね……――何て事を考えながら駅へと向かった。

 



 駅に着くと彼は既に待っていた。

 前回との服装とは違いラフな格好だ。

「ごめんね。待った?」

「いや、今来たところ。じゃあ、行くか」

「うん。須川君ん家ってどの辺なの」

「えっと――」

 どうやら須川の家はここから二駅先の所にあるらしい。

「え、そうなの!? 全然私の家と方向違うじゃん!」

「違うよ」

「違うよって……私の家までいつも送ってもらってたし。なんか、悪い事しちゃったな……」

「いやいや、俺が好きでしてるからいいんだ。気にしないでくれ」

 無意識で言ってるのは分かるが、たまにドキッとくる。きっと話しかけやすい雰囲気だったら絶対モテたんだろうな。けど、こういう所を知ってるのも私だけ特権か。

 他の人には見せないであろう、こういう一面を自分の前で見せてくれて少し優越感に浸っていた。他の人から見える須川は寡黙な人。だけど本当は話は優しくて……ちょっと言葉たらずだけど話しやすい須川の一面を私だけにしか見せてくれない優越感に。





 電車に揺られて須川の家に着いた。

 見た目はごく一般的な二階建ての一軒家だ。

「入って。前にも言った通り今日は親父はいないから」

「うん。お邪魔しまーす……」

 初めてということもあり、恐る恐る入る。二階にある須川の部屋に案内された。

「ちょっとお茶を持ってくるから待ってて」

「あ、大丈夫だよ」

「いいから」

 そう言って彼はリビングにお茶を取りに行った。

「須川君の部屋かぁ……」

 私はすっかり感傷に浸っていた。

 彼の匂いがする。それもあるのかドキドキが収まらない。

 部屋は意外と整理整頓されとおり、漫画やゲームが本棚に並べられている。そして何よりビックリしたのが。

「凄いレインボーの数……」

 レインボーのCDやDVD、さらにはグッズが並べてある。

 本当に好きなんだな。そう思わざるを得ない量だった。

「お待たせ」

 須川が麦茶とお菓子を持って戻ってきた。

「麦茶しかないんだけどいい?」

「うん。大丈夫だよ」

「よかった。てか坂本が俺の部屋にいるなんて、なんか新鮮」

「確かにね。私も男子の部屋に入るの初めてだから緊張しちゃう」

「そ、そうか。それは良かった」

 須川はどこか嬉しそうにしてそう言った。

「うん。それにしてもレインボーのCD凄いね。本当に好きなんだ」

「うん。母ちゃんが好きだったからその影響でさ。俺が買ったのは何枚かで、ほとんどは母ちゃんが集めてたやつなんだ」

「へえ! お母さんも好きなんだ!」

 親世代に流行っていたから母親も好きなのは納得だ。

「まあな。けど、高校に入る時に病気で亡くなっちゃってさ。今は俺が集めてるってわけ」

「あ、そうなんだ。ごめんね聞いちゃって」

「いや、大丈夫。気にしてないし」

 須川君、お母さんがいないんだ。この前言ってた家庭が複雑ってこういう事か。と私は一人で納得した。

 もし自分が彼と同じだったら、と少し考えてみた。

 しかし考えてみても、母がいる事が当たり前になっているので上手くイメージが出来なかった。強いて言うなら、将来のことにかなりの不安を覚えた事だ。

 そう考えていると須川が口を開いた。

「そう言えばバレー部、かなり大変って聞くけど大丈夫か?」

「うん。大丈夫だよ。ありがとう」

「やっぱり大変なのか?」

「結構大変かな。先生、厳しいし。今は大会も終わって夏よりかは休みが増えたんだけど、冬は体力を上げなくちゃいけないから、どんどん練習がキツくなっていくんだよね」

 私達が通う学校のバレー部は一昨年、全国大会に出場し、それ以降バレー部に力を入れるようになっていて、名門になりかけと言った所だ。

「マジか。なんかあったら相談しろよな」

「うん。ありがとう。じゃあ、早速相談なんだけどさ」

「おう。なんだ。言ってみろ」

 待ってましたと言わんばかりの顔付きだ。

「私じゃないんだけどね。一番仲良い後輩が一部の二年生の人達から風当たりが強いらしいんだよね」

 私はこの前、高岸から聞いた話をそのまま彼に話した。

「マジか……てかバッグ隠すのはさすがにやり過ぎだろ」

「だよね。もし須川君が私と同じ立場だったらどうする?」

「そりゃあ、そいつらをとっちめるしかねぇだろ」

 やり方は乱暴だが考えている事は私と同じ様だ。

「そうだよね。やっぱり私から直接言ったほうがいいよね」

「それが一番だけどさ、塚本? だっけか。そいつらに直接言ったら次はお前が事標的にならないか心配だな」

 ま、そん時は守ってやるさ。と彼は笑った。

 確かに彼の言う通り、今度は私がまとになるのは勘弁だ。だが、このまま高岸を見過ごす訳にもいかない。

「うーん……どうしようかなぁ」

「監督とかに相談するのが一番いいんじゃねぇか?」

「いやぁ、そうなんだけどさ……話す機会がないんだよね。部活終わったらサッと帰っちゃうし」

「なるほどな。うーん」

 彼は項垂れた。当たり前と言えば当たり前だが、須川もちゃんと一緒に考えてくれて嬉しい気持ちになる。

 へぇ、そうなんだ。辛いね――で終わってしまったら拍子抜けしてしまう所だった。

「後輩には悪いが、今は少し様子見した方がいいんじゃないか? 変な話、まだバッグを隠された程度だろ。もう少し泳がせて塚本達に言ったほうが効きそうだけどな」

「そうだよね。しらばっくれても面倒だしね」

「うん。だからその間ちゃんとサポートしてやれよな」

「そうする。相談乗ってくれてありがとう。話せて良かった。須川君も悩み事があったら相談に乗るから」

「おう。サンキュ。けど今は大丈夫だよ」

「そう? ならいいけど。あ、そう言えば前から聞きたかったんだけど須川君って何かバイトしてるの?」

「してるよ。引っ越しのバイト。結構重労働なんだけどお金がいいからさ」

 引っ越しのバイトか。だから返信も中々帰ってこないのね。そして体格がいいのはそのせいか。私は一人で納得した。

「へぇ! 引っ越しのバイトしてるんだ! 須川君、凄いガッチリしてるよね。素敵」

「そ、そうか? そんな事ないよ」

 須川は褒められて嬉しいのか照れた様子だ。

「母ちゃんが生きてる頃は両親が共働きでさ。けど亡くなって、親父一人じゃ生活がキツいから俺もやってるってわけ。それに、ある程度自分のお小遣いにも出来るからレインボーのCDとかも集められるんだよね」

「へぇ、そうなんだ。学校にバイトに……私とも付き合ってて大変じゃない?」

 坂本そう言うと須川は少しムッとした表情で言った。

「全然大変なもんか。それは坂本も一緒だろ。学校に部活に。それに……お前と付き合ってるのが励みになるし」

 彼は顔を真っ赤にして答えた。それに釣られて私も顔が赤くなる。こんなこと言われたら須川の事を意識せざるを得ない。

 このままいい雰囲気になって……――考えたくなくてもどうしても考えてしまう。自分が不純なだけなのか? 無意識に緊張してしまっていた。

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